闘いつづける経営者たち

「南部 靖之」株式会社パソナグループ(第3回)

03.成長のバトン、どうつなぐ

パソナグループにとっての経営リスクは経済情勢や労働者派遣法改正の行方ではない。「ポスト南部をどう育成するか」、「経営理念の伝承」であり、将来リスクは組織に内包しているといえる。創業から35年-。ともすれば薄れゆくベンチャー精神。産業構造の変化に対応した労働市場の再構築が求められる時代だからこそ、多様な就労インフラの整備を通じ「企業に依存せず自立する社会」の実現を目指す同社の力量が問われている。そして社内には、その原動力となる社員の挑戦精神をかき立てる仕掛けが張りめぐらされている。

事業を生み出す「仕掛け」

シャドーキャビネットによる「通常国会」

6月2日-。くしくも鳩山由紀夫首相が突然の退陣表明をした同じ日、東京・大手町のパソナ本社では「通常国会」が開会した。07年に社内に発足した「シャドーキャビネット(影の内閣)」による年に一回の全体会議で、雇用を切り口に農業、教育、社会保障にいたる広範なテーマを議論する。いわゆる新規事業の企画会議とは一線を画す。社員が政治、経済に関心を持ち、政府と同じ目線で社会的意義のある事業を生み出す訓練の場。「ソーシャルアクティビスト(社会的活動家)」の育成を目指す。  休職制度を充実し、社会とより積極的にかかわることを推奨するのも社会の課題、問題の本質を見極め事業を通じ解決する「感度」や「行動力」を磨くためだ。選挙に立候補する場合の「選挙活動休暇」、NPO法人などの活動に参加する際の休暇制度もある。また休日にボランティア活動に参加した社員にはポイントを付与する仕組みもある。異なる世界を自由に行き来する「回転扉」。南部靖之代表はこう呼ぶ。  社員の自発性も重視する。あるプロジェクトやポストで人材が必要となった場合、全社員から参加者を募る「オープンポジション制度」。07年にスタートした「キャリアエクスチェンジプログラム」は選抜された若手社員が1年間「グループ内留学」を経験する。

停滞恐れる

本社1階フロアに開設した水田での田植え式

企業成長とともに安定志向が強まり停滞することを最も恐れる南部代表。新卒社員の採用面接には一次段階から出席。自らの目で適性を見極める。若手役員会「ジュニアボード」では、事業計画や制度について南部代表と膝つめで議論。経営遺伝子の継承を狙う。

活力と企業統治

パソナは良くも悪くも南部代表の強い個性で成長してきた企業。若く見える同氏も2年後には還暦を迎える。栄枯盛衰が激しいベンチャーの世界にあって安定成長を遂げてきたのは、時勢をとらえた事業を次々生み出す組織の活力と「僕の暴走を抑える」(南部代表)コーポレートガバナンス(企業統治)の仕組み。個性と機能が相まって遂げてきた成長のバトンを次代にどうつなぐか。南部代表に残された最大の課題である。

プロフィール

南部 靖之 (なんぶ やすゆき)

人材派遣業最大手パソナグループの創始者。1976年、関西大学工学部卒業。卒業の1ヶ月前に人材派遣会社テンポラリーセンターを設立。1989年障害者の雇用促進を目的に(株)テンポラリーサンライズ(現パソナ)を設立し、4年後の93年にテンポラリーグループCEOに就任。雇用創造をテーマに、社会の問題解決に奔走する。1952(昭和27)年、兵庫県神戸市生まれ。

企業データ

企業名
株式会社パソナグループ(Pasona Group Inc.)
Webサイト
設立
2007年12月3日
資本金
50億円
従業員数
連結 4,641名(2010年5月末現在)
所在地
〒100-8228 東京都千代田区大手町2-6-4
事業内容
グループ経営戦略の策定と業務遂行支援 経営管理と経営資源の最適配分の実施 雇用創造に係わる新規事業開発等
売上高
連結 1,835億円(2010年5月期実績)
創業
1976年2月16日
グループ会社
連結子会社 32社
持分法適用関連会社 3社
(2010年7月現在)

掲載日:2010年8月9日