闘いつづける経営者たち
「砂山起一」株式会社オリエンタルランド(第4回)
04.金太郎飴から「あなただけのディズニー」へ
最強のビジネスモデル
国内景気が冷え込むなかでも、客足の衰えないディズニー人気。チケットを買い、レストランで食事をし、お土産を買って帰るという一般的なゲスト行動は、TDRを成長させてきた最強のビジネスモデルである。厳しい国内景況にあっても健在だ。しかし、少子高齢化や人口減少時代の到来といった今後の社会環境変化に、TDRは立ち向かうことができるのか。
「今までのようにアトラクションを作りイベントを催し、ディズニーに来てくださいという待ちの姿勢だけでは通用しない。ここはボリュームとして大切だが、地引網でゲストを誘う金太郎飴のビジネスモデルではTDRの将来成長はない」。砂山はこう断言する。
すでにキャパシティに限界のある舞浜以外の新たな事業拠点を構築すべきという意見もある。一方で砂山は、TDRというテーマパーク事業の可能性を、これまでとまったく違った発想で模索しつづける。その具体的方策がプログラム開発と呼ばれる取り組みだ。
中高年を誘うコンテンツを開発
ここ数年、TDRを訪れる中高年の女性グループが徐々に増えている。「おとなの水曜日」と名づけた45歳以上の大人同士が対象のプログラム特典つきパスポートチケットの販売効果である。「プログラム開発の一環として生まれたのが『おとなの水曜日』。まだまだ微々たる取り組みだが、40歳代以降のゲストを増やしていくために、ソフト・ハード両面で大人の方々に楽しんでもらえる仕掛けがもっと必要」という。
TDRのメインターゲットはファミリーであることに変わりはないが、子育てを終えた世代らを対象に、大人だけでも来場してもらえるコンテンツ開発がTDRの課題でもある。すでに東京ディズニーシーでは、アルコール販売や落ち着いた配色で園内を彩るなど、若干大人向けのアレンジを施している。
新たなゲスト層を掘り起こす
プログラム開発の取り組みは始まったばかり。従来型のモデルに加えて、特定のゲストに付加価値を付ける仕掛けづくりに注力し、新しいゲスト層を掘り起こす。例えばお祝いプログラム。誕生日でも、結婚記念日でもよい。ゲストの祝い事をディズニーでしてもらう。事前に申し込めば、オリジナルプレゼントなどゲストだけの特別プログラムを用意しておくこともできる。ゲストの楽しい思いとディズニーを結びつけてしまい、固定客を増やしていく戦略だ。
これまで多くの人に支持され、成長し、テーマパークとして磐石の態勢を整えたTDR。アトラクションは面白いし、おいしい食事も買いたいグッズも豊富にある。日常を忘れた楽しい一日を約束してくれる申し分のない空間だ。
それでも砂山はいう。「多くの来場をただ待っているだけではダメ。特定のゲストに対し、我々みずから働きかけていかないと。ここまで来たとはいえ、従来型のビジネスモデルだけにとどまるつもりはない」。類のない成功を収めたテーマパークは、新たな挑戦を通じてしか次代を拓けないことを知っている。
プロフィール
砂山 起一 (すなやま きいち)
1948年東京都生まれ。70年オリエンタルランド入社。開園開業当時から「東京ディズニーランド」の運営・経営に携わる。経理部長、フード本部長、テーマパーク統括本部長等を歴任し、09年4月代表取締役副社長執行役員に就任。テーマパーク事業の統括責任者でもあり、数々のアトラクションやイベントに加え、新たなプログラム開発の司令塔を務める。趣味は料理、ゴルフ、山歩き。
企業データ
- 企業名
- 株式会社オリエンタルランド
- Webサイト
- 設立
- 1960年7月
- 資本金
- 632億112万7千円
- 従業員数
- 正社員・2,399人、テーマパーク社員・763人、準社員・18,788人(2009年4月1日現在)
- 所在地
- 〒279-8511 千葉県浦安市舞浜1番地1(本社)
- 事業内容
- テーマパークの経営・運営および、不動産賃貸等
掲載日:2010年2月4日