闘いつづける経営者たち
「砂山起一」株式会社オリエンタルランド(第2回)
02.テーマパークの既成概念打ち破る
スペシャル・イベントの登場
ホスピタリティの高さが、海外と異なる東京ディズニーリゾート(TDR)の特徴であるとすれば、もうひとつ日本にあって海外にはないものがある。それは季節ごとに開催されるスペシャル・イベントの存在だ。
TDRが1年で最も賑わう季節は秋と冬。中でも秋のハロウィーンの季節になると、家族連れやカップル、グループのゲストのなかには、仮装姿の人が目立つようになる。10月31日まで、約50日間にわたって開催される「ディズニー・ハロウィーン」を楽しむために訪れた人たちだ。ハロウィーンは、秋の収穫を祝い悪霊を追い出す古代ケルト人の祭を起源とする西洋のお祭り。約10年前から、園内の一画で細々と始まった東京ディズニーランドのハロウィーンは、ゲスト参加型のイベントとして年々人気を集め、09年は東京ディズニーシーの一部でもイベントを開催した。今では「ディズニー・ハロウィーン」は一つのブランドとして知名度も上がり、年間を通じて、最も集客力のあるイベントコンテンツのひとつに成長している。
日本独自のコンテンツ
「ハロウィーンの季節になると、海外でも園内に飾り付けするなどの演出を行うが、ハロウィーンにちなんだイベントを実施しているケースはほとんどない」と、副社長の砂山はいう。新年やクリスマスのほか、七夕、夏休み時のクールプログラムなど、季節に応じたTDRのスペシャル・イベントはざっと10種類。しかもプログラムのほぼすべてをオリエンタルランドの社員らで企画。米国ディズニーに頼らない日本独自のコンテンツとして根付かせることに成功した。
「アトラクションとキャラクターに飽きがくれば、客足は遠のく」。そんな見方を尻目に、開園から25年以上経っても、入場者数の増加基調は変わらない。TDRをディズニー・キャラクターとスリリングな乗り物に代表される巨大テーマパークとして捉える限り、人々を惹きつけてやまないTDRの実力は見えてこない。優れたホスピタリティと同様に、パークの魅力を一段と高めるソフト部分の工夫が見逃せない。
ゲスト参加の舞台装置
話題のアトラクションを投入し、観て、乗って、楽しんでもらうというテーマパークの楽しみ方に加え、TDRはスペシャル・イベントを通じて、ゲストみずから参加して楽しんでもらう舞台装置を作り上げた。受動的に五感を刺激され、興奮するだけではなく、イベントに参加することで、みずからをファンタジーの世界に同化させ、キャラクターとともに笑い、歌い、喚声を上げる。砂山は、そうした行為を「ゲストの気持ちと、ディズニーが紐付けされた表れ」と解説する。
受動的な満足だけでは、いずれ飽きがくる。ここまで多くのリピーターは生まれない。人工的な舞台装置ではあるものの、日常を離れ、現実から遮断された世界に浸りたいというゲストの欲求を見事にかなえてくれるのがTDRのスペシャル・イベント。誰もが予想もしなかった反響の大きさは、暗鬱とした人々の日常を映し出しているのかもしれない。
プロフィール
砂山 起一 (すなやま きいち)
1948年東京都生まれ。70年オリエンタルランド入社。開園開業当時から「東京ディズニーランド」の運営・経営に携わる。経理部長、フード本部長、テーマパーク統括本部長等を歴任し、09年4月代表取締役副社長執行役員に就任。テーマパーク事業の統括責任者でもあり、数々のアトラクションやイベントに加え、新たなプログラム開発の司令塔を務める。趣味は料理、ゴルフ、山歩き。
企業データ
- 企業名
- 株式会社オリエンタルランド
- Webサイト
- 設立
- 1960年7月
- 資本金
- 632億112万7千円
- 従業員数
- 正社員・2,399人、テーマパーク社員・763人、準社員・18,788人(2009年4月1日現在)
- 所在地
- 〒279-8511 千葉県浦安市舞浜1番地1(本社)
- 事業内容
- テーマパークの経営・運営および、不動産賃貸等
掲載日:2010年1月28日