闘いつづける経営者たち
「砂山起一」株式会社オリエンタルランド(第3回)
03.アトラクション開発の裏舞台
構想から5年の歳月費やす
ホスピタリティやスペシャル・イベントの力も大きいが、やはり集客力の主役はアトラクション。開園から四半世紀、東京ディズニーリゾート(TDR)には多彩なアトラクションが続々と誕生した。砂山が「変えていいものと、悪いものがある」というように、開園以来、人気が高いアトラクションは定番として残している。それでもリピーターを確保するためには、新たな驚きと興奮を提供し続ける新アトラクションの投入が欠かせない。
まずは綿密なゲスト調査がアトラクション開発のベースになる。「何か不足しているものはないか、かなりの労力をかけて日常的にアンケートを実施している。ここから次のアトラクションを、スケジュールを含めて検討することになる」。失敗は許されない。投資判断は慎重そのものだ。大仕掛けのものになると、構想から導入まで5年程度を費やすものもある。
コストと感性のせめぎあい
構想が決まると、今度はコストとの闘いだ。クリエイターはコスト度外視で、人々を魅了する新たなアトラクションを構想する。これをこのまま実物に落としてしまうと開発投資は膨大となり、事業としては成り立たなくなる。砂山は「おカネを掛けてトコトン作れば、面白いものができるが、コストとのバランスが一番難しい」と打ち明ける。
特に性能の発揮が求められる一般のプロダクトと異なり、ゲストに面白いと感じてもらえるかどうかという感性が対象になる。定量的な評価が行えない分、どこまでコストを抑えれば適正かという判断基準はない。ゲスト一人ひとりの感性と向き合うテーマパーク事業ならではの悩みがある。
一方で、忘れてならないのが安全性。国内外のテーマパークで死傷事故が報告されるなか、オリエンタルランドに関連する施設で死亡事故はない。新たなアトラクションを設計開発する際、まずは安全・安心の視点が重視される。製品の安全性を第一優先するメーカーの開発思想とほぼ同じだ。砂山は「ここだけはコストを減らせない」と強調する。
隠れた技術集団
いかに魅力を落とさず、そして安全性の高い実物を作り込むか。アトラクションの開発から設計、調達、製造、メンテナンス、そして安全性の検証と続く一連のプロセスは、一般企業の新製品開発とほぼ同じ。数あるアトラクションの動きや安全確保の仕掛けには、電気・機械工学や物理工学に基づくモノづくりの工夫が随所に見られる。
「当社には某国立大学の大学院を出た社員とか、とんでもない技術のプロがたくさんいる。さらにペンキを塗れば日本一といった職人もいる。こうした隠れた強みもあるんです」(同)というように、オリエンタルランドは高い技術を有するものづくり集団でもある。
プロフィール
砂山 起一 (すなやま きいち)
1948年東京都生まれ。70年オリエンタルランド入社。開園開業当時から「東京ディズニーランド」の運営・経営に携わる。経理部長、フード本部長、テーマパーク統括本部長等を歴任し、09年4月代表取締役副社長執行役員に就任。テーマパーク事業の統括責任者でもあり、数々のアトラクションやイベントに加え、新たなプログラム開発の司令塔を務める。趣味は料理、ゴルフ、山歩き。
企業データ
- 企業名
- 株式会社オリエンタルランド
- Webサイト
- 設立
- 1960年7月
- 資本金
- 632億112万7千円
- 従業員数
- 正社員・2,399人、テーマパーク社員・763人、準社員・18,788人(2009年4月1日現在)
- 所在地
- 〒279-8511 千葉県浦安市舞浜1番地1(本社)
- 事業内容
- テーマパークの経営・運営および、不動産賃貸等
掲載日:2010年2月1日