闘いつづける経営者たち
「大東隆行」株式会社王将フードサービス(第3回)
03.地域の食に溶け込む
「王将行こか」
王将フードサービスは不況知らずだ。消費低迷の影響をまともに受けているのが外食産業。しかし、王将の店舗スタイルは地域の生活文化に溶け込むまでに発展した。社長の大東隆行は「『王将行こか』というフレーズが定着している」と分析する。
一般的な"外食"というカテゴリーに収まらない。王将に行くことは利用客の日常そのものだ。だから不況による逆風の影響を受けにくい。
個店主義が経営の根幹
とはいえ、地域に根ざした店舗展開は決して偶然の産物ではない。立地特性、客層を考慮した店舗作りを意識的に行い、各店舗がそれぞれのアプローチを行うなど独立的運営を前面に押し出している。たとえば、30分間の皿洗いで定食を無料で食べられる店舗。学生が多い地域で実在する取り組みだ。店に愛着を持ってもらい、リピーターになってもらうのが狙いという。
大東は店長に十分な裁量権を与える。営業本部からは当然、維持しなければならない原価率や売上に関する指導はある。その一方で、店長は独自メニューだけでなく、各種のキャンペーン、一部メニューの価格設定のほか、アルバイトの自給や営業時間にいたるまで、独自の判断と発想を生かせる。大東は「個店主義」を王将の経営の根幹に位置付けたのである。
顧客尊重の姿勢叩き込む
各店舗への権限委譲をスムーズに行うカギは、やはり人材。王将は研修制度を重視している。客商売だけあって「気配り・目配り・心配りができるかどうかが重要」と、大東は強調してやまない。接客に関する研修も、相手に気持ちが伝わるまで何度でもやり直しさせる。
この研修方式で客を尊重する姿勢をたたき込む。こう見るとかなりのスパルタ教育だが、研修参加者は相手に思いが通じたとき、感激で涙を流すことも少なくない。厳しい研修を経ることで「客に合わせた店舗運営のやり方が見えてくる」と大東は力説する。
大東の考えは単なる精神論ではない。あいさつの仕方ひとつを取っても客に合ったスタイルがあり、客が店に対して、良い意味での変化を感じた時は必ず売り上げが拡大すると話す。厳しい研修と責任を与えることで「人間としての資質にも磨きがかかる」と語る大東は、人を経営の原点とする自らの信条に手ごたえを感じている。
プロフィール
大東 隆行 (おおひがし たかゆき)
1941年大阪生まれ。関西経理専門学校中退後、薪炭と氷の小売り販売を行ってきた。当時は「夏と冬に働いて、それ以外はぶらぶらと暮らしていた。おかげでマージャンの腕が上がった」という。20代の後半に差しかかった時、実姉の夫にあたる故・加藤朝雄氏の誘いもあって「餃子の王将」に転身、新たな活躍の場を得た。社長就任時から人とのかかわりを重視しつつ、会社全体の質向上を進める姿勢を信条に掲げる。社員をはじめ客の声にも耳を傾け、利用客のクレームにも直ちに対応する体制を作り上げるなどサービス向上に取り組んでいる。店舗拡大にも努め、現在国内では直営店348店、FC店188店の合計536店。1967年に京都市中京区でオープンした第1号店は諸般の事情から08年に一度閉鎖を余儀なくされた。しかし09年9月には創業者である加藤氏の思いを引き継ぐ象徴的な存在として再生を果たしている。
企業データ
- 企業名
- 株式会社王将フードサービス
- Webサイト
- 設立
- 1974年(昭和49年)
- 資本金
- 81億66百万円(平成20年3月31日現在)
- 従業員数
- 1540人(連結・21年3月末現在)
- 所在地
- 〒607-8307 京都府京都市山科区西野山射庭ノ上町294番地の1
- Tel
- 075-592-1411
- 売上高
- 549億86百万円(連結・21年3月期)
- 創業
- 1967年(昭和42年)
掲載日:2009年11月16日