闘いつづける経営者たち

「瀧川克弘」未来工業株式会社(第4回)

04.顧客を感動させるため、常に考える!

売れ筋の新製品

スイッチボックスの設置作業で用いる壁穴あけ機具。「最近よく売れている」と瀧川も目を細める

未来工業の独特の経営手法には何かと注目が集まるが、その本来の姿は電設工事関連の資材・工具メーカーだ。特に屋内の電気のスイッチボックスでは国内シェア80%を握る。スイッチボックスは電気スイッチの内側に設置されるが、通常、施工時に壁の裏に取り付けら、内装工事で壁紙が張られると覆われて見えなくなってしまう。内装工事が完了すると電設工事が始まり、壁に電気スイッチを設置する。このとき工事業者は、壁の中のスイッチボックスの位置を探すのに苦労していた。

そこでスイッチボックスにアルミテープを張り付け、金属探知器で埋設位置を確認できるようにしたことで、大手ライバル企業を押しのけて、シェアNo.1を占めるまでになった。

「この新製品が最近よく売れているんですよ」と瀧川が嬉しそうに手にするのは、ボックスを設置する際に、壁に穴を開けるための専用工具。従来は丸い穴しか開けられず、穴を2つ開ける必要があったが、新製品はスイッチボックスの形状に合わせて小判型のきれいな穴を開けられるようにしたという。

年間200〜300点の新製品を開発

色分けの工夫をすることで使いやすくした製品。未来工業の創意工夫が示されている

ほかにも、配管資材では中に何が通っているのか外から一目でわかるように、管のカラーバリエーションを5色用意して施工者が色分けできるようにした。また、それ以前は他社製でもグレーの一色しかなかったビニール電線管を、見た目にもきれいな白色の製品を発売してみた。このようにちょっとした工夫で、ヒット商品やロングセラー商品を生み出してきた。瀧川の言葉を借りれば、「(ハイテクならぬ)ローテクで稼ぐ」のが未来工業の強みなのだ。

こうしたアイデア商品の源泉となっているのが、年間200〜300点にも上る新製品を開発するまでの勢いだ。年間の休日140日の同社にとっては、毎日1点以上の新製品を生み出している計算になる。色を変えたり増やしたりするだけでも新製品として1点にカウントする点を差し引いても、とにかく新しい製品、差別化できる製品を「常に考える」という癖が染みついているからこそなせる技だろう。

常に付加価値を生み出し顧客を感動させて儲ける

「常に考える」のモットーが膨大な意匠登録件数の数にも象徴されている

毎年のように新製品が増え続けた結果、現在、未来工業のカタログには2万点の製品が掲載されている。この中で実際に売れるのは700点程度。実に全体の95%以上がいわゆる"死に筋"なのだ。しかし「法的に使えなくなった製品以外は廃止しない」(瀧川)のが未来工業のスタンスだから、金型費など死に筋製品に費やす製造コストも惜しまない。山のような死に筋が"撒き餌"となって顧客の気を惹くと考えているからだ。

ただ、売上げが全体的に落ち込んでいる今、この死に筋商品を生き返らせる活動にも取り組んでいる。

「売れないと思い込んで売ってこなかったという反省に立って、売れない商品から積極的に売ることにしています」

もちろん、新製品の開発も続けている。「商売とは、客を感動させること」と瀧川は言う。「"良いものを安く大量に"の商売は、いずれ過当競争を招く。それでは企業は儲からず、社員を幸せにできない。社会貢献すらできない」

常に付加価値のある商品を生み出して顧客を感動させ、儲ける。論理は明快だが、実行するのは難しい。だからこそ、未来工業は社員全員が「常に考える!」のである。

プロフィール

瀧川 克弘 (たきがわ かつひろ)

1946年生まれ。66年大阪府立天王寺高校卒業後、地元大阪で照明器具の製造販売メーカーに就職、営業マンとして全国を飛び回る。10年で取締役に昇進したものの、大手商社からの子会社化の提案をオーナー社長が受け入れたため、辞職。そのころ、北海道出張時に出会った未来工業の創業者、山田昭男相談役(当時社長)に声をかけられ、81年に未来工業へ入社。当時、未来工業がまだ拠点を持っていなかった北海道に、自ら志願して札幌営業所を設置し、営業所長として北海道全域の営業を担当した。理由は「都会でもなく田舎でもない」札幌の街が好きだったからだという。91年に取締役に就任。93年、営業部長就任と同時に家族を北海道に残し、本社がある岐阜県輪之内町へ赴任した。2000年に常務、03年に社長に就任。単身赴任生活は16年目になる。

企業データ

企業名
未来工業株式会社
Webサイト
設立
1965年8月
資本金
70億6786万円
従業員数
767人
所在地
〒503−0295 岐阜県安八郡輪之内町楡俣1695−1
Tel
0584−68−0010
事業内容
電気設備資材、給排水設備およびガス設備資材の製造販売
売上高
233億円(09年3月期)

掲載日:2009年10月22日