闘いつづける経営者たち
「瀧川克弘」未来工業株式会社(第2回)
02.恐れず人を信じよ
ホウ・レン・ソウのマイナス面
「指示待ち族」という言葉が生まれるほど、日本企業には受け身型の社員が多いと言われる。特に学校で"ゆとり教育"を受けた若い社員ほど手取り足取り教えないと動かない。経営者の嘆き声の中にもよく聞かれるフレーズだ。
その同じ日本で、未来工業の社員が目を見張るほど主体的に動けるのはなぜか。成果主義を採用しているわけでもないのに、だ。
瀧川に言わせれば、「ホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)が指示待ち族をつくる」ことになる。上司に報告をすると、それを受けた上司が部下に指示を出す。そのため部下は指示があるまで動かない、あるいは動けない。それがホウ・レン・ソウのマイナスの効果だというのだ。
人は信頼されれば裏切らない
さらに瀧川は言う。
「報告といっても、下からの情報がすべて正しく上げられてくるとは限りません。自分に都合の悪い情報だと、部下は内容を曲げて上司に報告するかもしれない。そんな不正確な情報を基に指示を出したらどうなるか。当然、間違いが起きる。だから現場に任せるのが一番なのです。上司は情報を知りたいなら、自ら現場へ行けばよい」
果たして、現場にそこまで大きな裁量を持たせて大丈夫なのか。誰しも抱くだろうこの疑問に対して、瀧川が「未来工業の文化を築いた人物」と尊敬する相談役・山田昭男は明快に答える。
「人は信頼されていると思えば裏切らない」
この考え方こそ、型破りと言われる未来工業の経営を貫く信念だ。「経営はアメ(報酬)とムチ(ノルマ)でやるものというが、ウチはあめだけやって、ムチはやらない。人間には、これだけもらったら働かな悪いなぁという気持ちが自然と芽生えるもの。馬(社員)の鼻先にニンジン(報酬)をぶら下げて走らせようとする企業が案外多いが、人間はそのような生き物じゃないんだ」
徹底した"性善説"の経営方法
山田は毎日のように講演で全国を飛び回る。そのとき、他社の人間からよく言われることがある。
「未来工業さんだからできるんだ。ウチで同じことをやったら会社がつぶれてしまう」
それに対して山田は声量を一段上げ、真に迫る表情でこう返す。
「やってもいないのになぜつぶれるとわかるのか。つぶれるかどうか、まずやってみればいい」
恐れず人を信じよ。徹底して性善説に立つ経営方法に賛否両論はあるだろう。しかし、未来工業の企業としてのあり方が、国内のみならず海外からも尊敬と羨望の眼差しを集めていることだけは確かだ。
プロフィール
瀧川 克弘 (たきがわ かつひろ)
1946年生まれ。66年大阪府立天王寺高校卒業後、地元大阪で照明器具の製造販売メーカーに就職、営業マンとして全国を飛び回る。10年で取締役に昇進したものの、大手商社からの子会社化の提案をオーナー社長が受け入れたため、辞職。そのころ、北海道出張時に出会った未来工業の創業者、山田昭男相談役(当時社長)に声をかけられ、81年に未来工業へ入社。当時、未来工業がまだ拠点を持っていなかった北海道に、自ら志願して札幌営業所を設置し、営業所長として北海道全域の営業を担当した。理由は「都会でもなく田舎でもない」札幌の街が好きだったからだという。91年に取締役に就任。93年、営業部長就任と同時に家族を北海道に残し、本社がある岐阜県輪之内町へ赴任した。2000年に常務、03年に社長に就任。単身赴任生活は16年目になる。
企業データ
- 企業名
- 未来工業株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1965年8月
- 資本金
- 70億6786万円
- 従業員数
- 767人
- 所在地
- 〒503−0295 岐阜県安八郡輪之内町楡俣1695−1
- Tel
- 0584−68−0010
- 事業内容
- 電気設備資材、給排水設備およびガス設備資材の製造販売
- 売上高
- 233億円(09年3月期)
掲載日:2009年10月15日