ビジネスQ&A

オフィスで行われている省エネの取り組みにはどのようなものがあるのか教えてください。

2024年 9月 11日

世間では「カーボンニュートラル」が話題になっていますが、中小企業のオフィスにおいても実施できる省エネの取り組みには、どのようなものがあるのか教えてください。

回答

省エネに取り組むメリットは、単なるコスト低減だけに留まりません。省エネつまり自社のエネルギー消費量を抑える活動は、カーボンニュートラル(CN)実現に大きく貢献します。また将来のCNへの移行リスク(法規制、カーボンクレジット、エネルギーコストの急増対策など)にも備えることができます。

工場ですとボイラー、加熱炉等に使用する化石燃料など幅広いエネルギー源の低減が必要ですが、オフィスの省エネは節電がメインとなります。よってオフィスの場合、使用する電気機器でエネルギー消費量が一番大きいものから取り組むことがベストです。また狭い空間で人が密集するオフィスは、換気が重要な要素になります。本文では、省エネ診断や補助金活用などにも触れ、その取り組み方についてまとめます。

1.オフィスの節電対策

下記資料を見るとエネルギー消費の高いものから、空調機、照明、OA機器の順です。夏場では空調と照明で約7割を占めています。よって10年以上の古い設備の場合は、最新型の省エネ空調(インバーター式)やLED照明への更新をお奨めします。使用期間や省エネ効果などの諸条件をクリアすれば、補助金を活用することも可能です。

オフィスビル電力消費の内訳

空調機は第一に設定温度の適正化です(夏場は27-28℃、冬場は20℃設定)。空調器のフィルターや室外機の定期清掃も熱交換機能を維持するために必要です。会議室など個室が多い場合は、個別にスイッチを設け未使用時はOFF にします。また、タイマーを利用して消し忘れ対策をするのも節電に繋がります。

続いて、空調効果を高めるものに窓の遮熱があります。手短なものにブラインドや遮熱カーテンがありますが、最近では窓に貼れる遮熱シートも売られています。自社ビルであれば、省エネ補助金を活用し、2重ガラスを使った断熱窓にリフォームすることをおすすめします。節電効果は更にアップし、防音や結露防止効果も得られます。また、エネルギー消費の約15%を占めるパソコンや複合機もパワーセーブを活用するなど、社員への周知と協力が必要です。

コロナ禍以降、オフィス内での換気に注目が集まりました。しかし、換気と空調効果はトレードオフの関係にあります。その解決方法としては、熱交換機能のある換気扇の導入が有効です。壁に取り付けられる露出型もあり、また室内のCO2密度に反応して自動的に換気を行うセンサー付もあります。

併せて活用したいのは、空気の拡散機能です。夏場の場合、部屋の下部に滞留し易い冷気をサーキュレーター等で攪拌(かくはん)させると、室内の冷却効果が向上します。また、オフィスならではの省エネ対策で注目されているのが「テレワーク」です。導入すれば大きく消費エネルギーが減らせます。オフィスがテナント利用であれば、思い切ってオフィス面積を縮小させることも選択肢のひとつです。

2.エネルギーマネジメントについて

電気の省エネを実施していく上で、知っておきたいのが「電力デマンド」です。下記は、電気料金の構成です。正確にはこれに燃料調整費や再エネ賦課金なども加算されます。

電気料金=基本料金(単価×契約電力kw)+ 使用料金(単価×電力量kwh)

ここで注目したいのが基本料金となる「契約電力kw」です。家庭用の基本料金は、アンペア制と言って20A~60A毎に基本料金が決まっていますが、法人向けのオフィスビルや大型店舗になると、基本料金はビル全体で使われる電力デマンド(最大需要電力)で決まります。具体的には当月の電力の最大値が自社の契約電力となり、これに単価を掛けたものが基本料金になります。契約電力と言われる所以は、この値が1度でも超過すると1年間は基本料金を下げられないと言う仕組みになっているからです。

現在、電力の使用料金(電力量kwh)の値上がりは周知されていますが、この契約電力(kw)の単価(1kwあたり)も値上がりしています。もし、変電室のある自社ビルや大型店舗であれば、1日の中で電気の使用が集中する最大需要電力を可視化し、これを分散低減させることも省エネ対策になります。

東京電力のカスタマーサービス「電力の見える化サービス」の一例

電力デマンドの可視化は、電力会社が提供する可視化ソフトウェア、配電盤へ取り付けるメーターやWi-Fiの設置工事をすれば、自社のパソコンで見ることができます。費用は電力会社や事業者によって異なりますが、顧客データの共有化を目的に、工事費も含め無償提供のケースもあります。

3.省エネ診断の活用

省エネ対策のアドバイスを受けたい場合は、外部の診断機関を利用することができます。例えば、各都道府県に登録されている「省エネナビゲーター」です。対象条件をクリアすれば、専門家が各事業所を訪問し、無料で省エネ診断や改善提案、設備導入のアドバイスをしてくれます。また、経済産業省 資源エネルギー庁が中心となった「省エネお助け隊」もあります。中小企業向けの地域密着型・省エネ支援団体です。各団体や事業所に専門家を派遣し、現状把握から改善までのサポートをしてくれます。詳しくは各ホームページをご確認ください。また省エネ事例集を見たい場合は、「一般財団法人 省エネルギーセンター(ECCJ)」のホームページをご覧ください。

【参考】

4.補助金を活用した省エネ・再エネ対策

夏場の電力デマンドのピークは14時頃と言われています。太陽光発電を利用して(前述した)自社の電力デマンド値を下げられれば、基本料金を下げることができます。蓄電池併用等の条件をクリアすれば、補助金を利用することも可能です。

また、新築ビルを計画の場合は、「ZEB」(ゼロエネルギービル)と言うものがあります。遮熱やヒートポンプ、再生可能エネルギーなど省エネ・再エネ対策を最大限に活用し、年間エネルギー消費量が基準値より50%削減できるビルのことです。認定を受ければ建設費に対し、環境省や経済産業省の補助金(補助率1/2~2/3)が受けられます。

自治体(都道府県)にも、省エネ機器導入に向けた補助金が用意されています。補助率は1/2~2/3、上限額は数百万円となっています。人気が高く、申請受付後すぐに埋まってしまいます。希望の際は、各自治体ホームページの支援事業欄の省エネ補助金を確認して、申請時期や対象設備の条件などを事前に調べておくことをお奨めします。

5.まとめ

カーボンニュートラルに向けて、「省エネ」への取り組みは重要な過程です。地球温暖化の影響で、夏の気温上昇、異常気象などが続いています。日本は、中間目標として2030年には2013年度比で46%のCO2削減を目標としております。是非、カーボンニュートラルを見据えた「省エネ」計画に取り組んでください。

回答者

中小企業診断士 澤田 良敬