ビジネスQ&A
業務の標準化はどのように進めたらよいでしょうか。
2024年 9月 4日
従業員による作業の属人化を防ぐために、業務の標準化を実施したいと考えています。どのように進めたらよいでしょうか。
回答
業務の標準化は、作業の属人化を防ぎ、一貫性と効率性を向上させる上で非常に有効です。標準化を進めるためには、業務プロセスのマッピング、問題点の特定、ベストプラクティスの確立、標準作業手順(SOP)の作成、トレーニングと教育、フィードバックの収集と改善、デジタル技術の活用の各ステップを踏むことが重要です。本文では、これらのステップを3つのパートに分けて詳述し、最後に全体のまとめを行います。
1.業務プロセスのマッピングと問題点の特定
(1)業務プロセスのマッピング
業務プロセスのマッピングは、企業が日々の業務を可視化し、各ステップを理解するための重要な手順です。中小企業向けのアプローチでは、以下のステップが効果的です。
ア 手書きのフローチャート作成
まず、普段の業務を行う従業員を主体に、紙とペンを使って、業務の流れ(フローチャート)を手書きで描き出します。各ステップをボックスで表し、ボックス間を矢印でつなぎ、業務の流れを示します。
イ 業務の役割と責任の明確化
フローチャートには、どのステップを誰が担当しているかを明記します。これにより、業務の責任を明確にし、属人化を防ぐようにします。
ウ シンプルなデジタルツールの活用
可能であれば、ExcelやGoogleドキュメントなど、基本的なデジタルツールを使用して業務フローをデジタル化します。共有や更新が容易になり、誰でも最新の情報にアクセスできます。
(2)問題点の特定
業務プロセスがマッピングされたら、次は効率性やエラーの原因となっている問題点を特定します。以下の方法で進めることができます。
ア チームミーティングでの議論
定期的にチームミーティングを開催し、業務プロセスについての意見や問題点を従業員から集めます。これは低コストで行え、従業員の実体験に基づく貴重なフィードバックが得られます。
イ タイムログの使用
各従業員に一定期間、日々の業務に掛かる時間を記録してもらいます。このタイムログを分析することで、想定以上に時間が掛かっている業務を特定し、効率化の機会を見つけ出します。
ウ シンプルな問題解決法の導入
例えば「なぜなぜ分析」を用いて、問題の根本原因を探ります。問題が発生した際に「なぜ?」を最低でも5回は問い続けることで、その背景にある深い原因まで到達できます。
これらの方法は、特別なスキルや高価なツールを必要とせず、中小企業でも容易に実施できます。業務プロセスのマッピングと問題点の特定を通じて、業務の可視化と理解を進めることができるでしょう。
2.ベストプラクティスの確立と標準作業手順(SOP)の作成
(1)ベストプラクティスの確立
ベストプラクティスの確立は、業務の効率化と品質の向上を目指して、最も効果的な手法や手順を定めることです。具体的には以下のステップを示します。
ア 現場の意見を尊重
現場の従業員が日々の業務で得ることができる改善提案を積極的に収集します。現場の意見は、実際の業務に基づく貴重な情報源です。
イ ベンチマーキング
同業他社や業界標準の成功事例を調査し、自社に取り入れられる要素を見つけます。これには、業界のセミナーやワークショップへの参加、関連する書籍や記事の調査も有効です。
ウ 小規模な試行
まずは小規模なチームやプロジェクトで、新しい手法を試行します。結果を評価し、必要に応じて調整を行いながら、成功した方法を全社的に展開します。
エ 持続可能な方法の選定
複雑で実行が難しい方法よりも、従業員が簡単に理解し、実行できる持続可能な方法を優先します。これにより、ベストプラクティスの定着が容易になります。
(2)標準作業手順(SOP:Standard Operating Procedure)の作成
標準作業手順(SOP)は、業務の一貫性と効率性を確保するために、従業員が従うべき手順を詳細に記載した文書です。以下の方法で作成します。
ア 明確かつ簡潔な文書化
SOPは誰でも理解できるよう、専門用語を避け、シンプルな言葉で記述します。手順をステップごとに分け、順序を明確に示します。
イ 視覚的な補助ツールの使用
複雑な手順や重要なポイントを視覚的に理解しやすくするために、図や写真を活用します。これにより、誤解を避け、実行しやすくなります。
ウ 継続的な見直しと更新
業務環境や手順が変わるたびに、SOPを見直し、最新の情報に更新します。定期的なレビューを設定し、従業員からのフィードバックを反映します。
3.トレーニングと教育、フィードバックの収集と改善、技術の活用
(1)トレーニングと教育
標準作業手順(SOP)の作成後、従業員が正しく理解し実行できるようにするためのトレーニングと教育が重要です。具体的な進め方を以下に示します。
ア 初期トレーニングの実施
SOPが完成したら、全従業員を対象に初期トレーニングを実施します。これにより、全員が新しい手順を理解し、実行できるようにします。
イ 新入社員向けトレーニング
新入社員に対しては、入社時の研修プログラムにSOPのトレーニングを組み込みます。初めから手順に慣れてもらうことで、早期に一貫性のある業務が期待できます。
ウ 定期的なリフレッシュトレーニング
SOPが変更された際や、一定期間ごとに全従業員を対象にリフレッシュトレーニングを行います。これにより、最新の手順を常に維持し、忘れがちなポイントを再確認できます。
エ トレーニングの評価
トレーニング後にテストや実技試験を行い、従業員がSOPを正しく理解し、実行できるかを確認します。評価結果に基づき、追加の指導が必要な場合は適切なサポートを提供します。
(2)フィードバックの収集と改善
SOPを実施した後は、継続的な改善のためにフィードバックを収集し、それに基づいてプロセスを改善することが重要です。以下の方法で進めます。
ア 定期的なフィードバックセッション
定期的にチームミーティングを開催し、従業員からのフィードバックを収集します。現場の意見を直接聞くことで、課題や改善点を把握します。
イ アンケートの実施
従業員が自由に意見を述べやすいように、匿名のアンケートを定期的に実施します。これにより、日常業務で感じている問題点や改善提案を広く集めることができます。
ウ フィードバックの分析と対応
収集したフィードバックを分析し、共通の問題点や頻繁に指摘される課題を特定します。これにより、優先的に対処すべき領域が明確になります。特定された問題に対して、具体的な改善策を立案し実行します。改善策は可能な限り迅速に実施し、従業員にその進捗を報告します。
エ 継続的な改善の文化
計画(Plan)、実行(Do)、確認(Check)、改善(Act)のサイクルを導入し、業務プロセスの継続的な改善を図ります。これにより、組織全体での改善の文化が醸成されます。
(3)デジタル技術の活用
技術の活用は業務標準化の一環として重要です。ITの専門家が社内にいなくても、以下の方法でデジタル技術を活用できます。
ア デジタルツールの導入
TrelloやAsanaなどのプロジェクト管理ツールを使用して、業務フローの可視化とタスク管理を行います。GoogleドライブやOneDriveを使って、SOPやその他の重要文書をデジタル化し、アクセスを容易にします。
イ 自動化ツール
繰り返し作業を自動化することで、人的エラーを減らし生産性を向上させることができます。そのために、RPA(Robotic Process Automation)を活用します。
ウ コミュニケーションツール
SlackやMicrosoft Teamsなどで情報共有をスムーズに行い、チーム内の連携を強化します。
4.まとめ
業務の標準化は、作業の属人化を防ぎ、企業の効率と品質を向上させます。業務プロセスのマッピングから問題点の特定、ベストプラクティスの確立、標準作業手順(SOP)の作成、トレーニングと教育、フィードバックの収集と改善、そしてデジタル技術の活用までの一連のステップを踏むことで、持続的に業務を改善することができます。中小企業でも、これらの方法を実践することで、競争力を高めることが可能となります。
- 回答者
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中小企業診断士・ITコーディネーター 上田 英貴
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