よくわかる食品保存の基本

第3回 「発酵」による保存と「技術」による保存

食品は、時間が経過するにつれて腐敗やカビの発生などを起こします。いわゆる「傷み」が生じることです。人間は古くから食品の傷みをどのようにすれば少なくできるかを考えてきました。そして塩漬け、乾物、缶詰、レトルト食品など保存性の高い多くの食品技術が開発されました。

今後、新しい保存食が開発され、私たちの生活にさまざまな形で取り入れられていくと考えられます。そこで「よくわかる 食品保存の基本」では、食品の保存について説明していきたいと思います。

発酵で保存性、風味、香りなどを高める

発酵は、酵母、もしくはカビ類の微生物が出す酵素により食品がアルコール類、有機酸類、炭酸ガスなどを発生して消化されやすくなり、それによって食品に複雑な味を与えるものです。発酵させることによって保存性、風味、香りが高くなり、遊離アミノ酸(グルタミン酸、タウリン等)を生じて消化吸収がよくなります。

1.発酵食品3つの力

i.食材の保存性が向上する

冷蔵庫や冷凍庫などがなかった時代には、食材を乾燥させたり塩蔵させたりして保存してきました。発酵食品も塩を使うことが多くありますが、人間に有益な微生物がある一定以上に繁殖し、人間に有害となる腐敗菌を抑えて保存性をよくする力を持っています。

ii.食べてみて美味しい

これに勝る理由はないでしょう。人によっては美味しいというより、クセになる味といったほうがいいのかもしれません。微生物の力によって、食材の澱粉や糖、タンパク質を分解発酵させて独自の旨味成分をつくりあげます。

また、微生物そのものの旨味もあります。これらがミックスされて独特の美味しさが感じられ、強烈な印象として記憶に残っていくのです。

発酵食品が定着してきた一番大きな理由ではないでしょうか。

iii.栄養価が高いことを先人が体験的に知っていた

薬がなかった時代には、発酵食品が体力をつけるために重宝されていたといわれています。いわゆる昔の人の健康食品だったのかもしれません。発酵過程での酵素の働きにより、さまざまな栄養成分が生み出され、栄養価の高い食品に生まれ変わるからです。

医学や科学が発達していない時代でも、先人は長い年月をかけて発酵食品が体によい食べ物であることを体験的に知っていました。

2.発酵と腐敗は紙一重

「発酵」と「腐敗」の状態は、食品成分を微生物が分解した状態であることには変わりがありません。

ではどんな違いがあるかというと、科学的には以下のようになります。

  • 発酵:糖類が分解されて、乳酸、アルコールなどが生成されること
  • 腐敗:タンパク質、アミノ酸などが分解され、硫化水素やアンモニアなどの不快臭を生じること

しかし、糖の分解された状態でも腐敗と呼ばれることもあり、必ずしも原料や、代謝産物の違いによって区別されているものではありません。

つまり、最も明確な分け方は以下になります。

  • 発酵:人の役に立つ食べ物を生み出すこと
  • 腐敗:人が食べられない食べ物となるように食品が分解されること

この2つの言葉は、私たち人間の価値基準によって使い分けられているにすぎないのです。

3.漬物の保存性

漬物とは、野菜を中心とした様々な食材を食塩、酢、糠味噌、醤油、酒粕など高い浸透圧を生じたりpHを下げる効果を持つ、あるいは空気と遮断する効果を持つ漬け込み材料とともに漬け込み、保存性を高めるとともに熟成させ、風味をよくした発酵食品です。

発酵を伴うタイプの漬物は、材料に自然に付着している乳酸菌と材料に含まれる糖類によって発酵し、保存性と風味の向上が起きますが、麹などを添加して発酵の基質となる糖類を増やしたり、そこに含まれる酵素によって風味を向上させる酵素反応を誘導することもあります。

一方、浅漬け、千枚漬け、松前漬け、砂糖漬け等その製造に発酵をともなわないものも多くあり、漬物すなわち発酵食品と分類することは誤りです。

技術による保存

1.缶詰による保存性向上

保存食の代表とも言えるのが缶詰です。缶詰は長期保存に適しており、その保存期間は「半永久的」とも言われております。缶詰は加熱処理した食品を金属製の容器に入れ、缶の中の空気を抜いた状態で封印されたものです。

缶詰の特徴は「保存性が高い」「安全で栄養価も保持できる」「経済的」「利用価値が高い」などということです。安全というのは完全密封であり中身は完全に加熱処理しているということです。

また、真空状態での加熱殺菌ですから家庭で調理したものより栄養価が高いと言われています。経済的というのは一度に大量に製造することができ常温での流通が可能だということです。食べるときも調理の手間がかからず、中身は全て食べられます。

缶詰の製造工程

2.レトルト食品

レトルト食品といえば真っ先に思い浮かぶのは「レトルトカレー」や「魚肉ソーセージ」でしょうか。

レトルト食品とは、レトルト(加圧加熱殺菌装置)で殺菌できるパウチ(袋状のもの)、または成形容器(トレー状など)に詰められた食品のことを指します。昭和40年代に市場に登場してから約40年間で、生産総額では約2,000億円以上と言われております。

軽量で取り扱いやすく簡単に開けられること、わずかな時間で温められこと、さらに容器の廃棄処理がしやすいことなどの商品特徴が多くの生活者のニーズに応え、消費が大きく伸びて、いまや一般の家庭では欠かせない食品のひとつとなっています。

レトルトカレーの製造工程

(高橋順一 コンサルティング・オフィス高橋 代表/中小企業診断士)