よくわかる食品保存の基本
第1回 食品の「傷み」を防ぐための基本
食品は、時間が経過するにつれて腐敗やカビの発生などを起こします。いわゆる「傷み」が生じることです。人間は古くから食品の傷みをどのようにすれば少なくできるかを考えてきました。そして塩漬け、乾物、缶詰、レトルト食品など保存性の高い多くの食品技術が開発されました。
今後、新しい保存食が開発され、私たちの生活にさまざまな形で取り入れられていくと考えられます。そこで「よくわかる 食品保存の基本」では、食品の保存について説明していきたいと思います。
食品の変質と保存について
食品が腐敗するとは、食品のたんぱく質など窒素を含んだ有機物が微生物によって分解されることを指します。この腐敗を引き起こす微生物は「腐敗細菌」「腐敗微生物」などと呼ばれます。腐敗した状態になると、硫化水素やアンモニアなどが発生して不快臭となります。
家庭で処理される食品にも微生物が付着していますが、それが大量に発生していた場合は食中毒の原因になることがあります。微生物である細菌やカビにはそれぞれ好む温度があり、繁殖には酸素と水分が不可欠です。つまりこれらの条件を断ち切れば食品が傷まない期間が長くなるということになります。
1.食品の保存は劣化を遅らせること
食品の劣化を防ぐものですぐイメージされるものは何でしょう。冷蔵庫など頭に浮かびますね。低温にすることによって、微生物にとって生きていく環境として適さない状態になっています。ただし、冷蔵庫は微生物の活動を鈍らせ腐敗を遅らせているのであって、長期間食品を置いておくと腐敗したりカビが発生します。食品の変質で最もおおきな条件となるのは温度です。30℃前後が微生物の増殖が最も活発になります。
食品を保存する方法(劣化を防止する)ですが、それには前述したように微生物の繁殖に適した環境を作らないことです。つまり「温度を下げる」「水分を除く」「酸素をなくす」といった方法をとることです。また、「酸性度を上げる」ことも食品を保存する上で効果的な方法です。
以下に食品の変質を遅らせる手段をまとめてみます。
2.塩による保存
塩はどんな料理にも使用されます。また食品の保存にとって必須のアイテムでもあります。日本でも塩を使った食品の保存は古くから行われてきました。
塩は塩化ナトリウムを主成分としたもので浸透脱水作用があります。野菜に塩をかけると水分が出てきますね。塩分濃度が高いと微生物は繁殖しにくくなります。微生物が塩によって水分を取られるためです。
微生物が生きるために使用する食品の中の水分を水分活性(=AW)といいますが、食品に塩を入れると脱水作用でこの水分活性が低くなり微生物が増殖しにくくなります。食品メーカーではこの水分活性の値を測定することによって食品の保存性の判断としている企業が多くあります。
数年前にイカの塩辛を食べて腸炎ビブリオによる食中毒が発生しました。伝統的な製法で作られる塩辛は塩分濃度が10%以上ありますが、この塩分ですと腸炎ビブリオは繁殖できません。
一方、最近の塩辛は低塩分傾向にあり、塩分濃度が4-7%程度しかありません。この塩分濃度が腸炎ビブリオの増殖にとって適しているために食中毒が発生したのです。
以下に伝統的塩辛と低塩分塩辛の違いをあげておきます。
3.漬物も塩によって保存性が増大
漬物と深い関係にあるのが塩です。野菜を塩漬けにすると浸透圧の働きで細胞から水分が出てきます。この高い浸透圧が腐敗菌の活動を抑制し、保存性を高めます。
この野菜から水分が出てくることを原形質分離といい、野菜の細胞液の水分が浸出し腐敗菌も死滅するのです。漬物は塩漬け以外にもさまざまな漬物がありますが、長期保存という観点では塩に勝るものはないようです。
野菜の塩漬けの過程は次のようになります。
(高橋順一 コンサルティング・オフィス高橋 代表/中小企業診断士)