闘いつづける経営者たち

「金子眞吾」凸版印刷株式会社(第4回)

04.電子書籍やスマートフォンなど新事業に活路

電子書籍はグループ挙げて

「電子書籍元年」と言われた2010年から早くも2年が経過し、これまでに電機メーカー各社から専用端末が相次いで登場した。出版不況に悩んできた印刷会社は危機感が強かった分、早くから対策を打ってきた。当初はコンテンツ供給の重要なプレーヤーになることを期待されたものの、現状では電子書籍ビジネスは成功しているとは言い難い。

グループ会社の「ブックライブ」で電子書籍端末を昨年末発売

ただ、昨夏には電子商取引(EC)大手の楽天が電子書籍の専用端末を発売し、さらに米アマゾンも参入してきた。端末の普及に合わせてコンテンツを充実させ、成長カーブを描けるか—。印刷会社が出版社に電子化のメリットをアピールできるかも問われている。

凸版では、電子書籍書店を運営するグループ会社のブックライブを中心とした施策を展開する。昨年末に電子書籍端末を発売。グループ全体でコンテンツの収集から端末の販売までを一貫して行えるようになった。

「本と端末を合わせて売るという形を定着させたい。書店で端末にコンテンツをダウンロードしてもらうことも検討している」と金子眞吾社長は語る。ただ、仮に端末に不具合が出た場合、印刷会社でどこまで対応できるかも課題になる。このため「大手電機メーカーに保守やサポートを依頼する」(金子社長)と、バックアップ体制の強化も進めている。

展示会でも「いいね」機能を

イベントなどでの新しいソリューションの提案にも注力する

これまで展示会などにおける印刷会社の役割は、カタログ作成やPOP(店頭広告物)が中心だった。一方でスマートフォン(多機能携帯電話)を使ったビジネスチャンスの可能性も高まっている。従来型ビジネスにとどまらず、電子機器とサービスを組み合わせ、消費者に行動を起こさせる仕組み作りにも結びつけていく。

凸版は、ソーシャル(参加交流型)メディアを活用した販促活動に力を入れている。集積回路(IC)タグを内蔵したリストバンドと近距離無線通信規格「NFC」を搭載したスマートフォン(多機能携帯電話)を組み合わせたシステムを展示会場で活用し、口コミ効果を狙うソリューションを始めた。

ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「フェイスブック」を活用したのが「リアルいいね」機能だ。来場者が展示物の脇に設置したスマートフォンにICタグ内蔵のリストバンドをかざすと、フェイスブック上の評価・共有機能「いいね」がカウントされる仕組み。ランキング投票表示やプレゼント抽選が加わり、口コミ効果を向上している。サイバーエージェントと協業するなど、同サービスの採用に弾みをつけたい考えだ。

印刷技術生かす事業を世界で

顧客企業や消費者の厳しい品質要求にもまれながら印刷会社はあらゆる材料を加工してきた。新たな地でも、顧客の充足感を満たすための能力は十分に備わっている。

「110年間お世話になったペーパーメディアが成熟から衰退に向かうことに危機感はあるが、今まで通りのやり方では通用しない。世界の市場を見た時、進出していない地域や、拡大しそうな分野がまだまだある。そこに独自の印刷技術を生かしたビジネスを展開していく」金子社長の挑戦はまだまだ始まったばかりだ。

プロフィール

金子 眞吾 (かねこ しんご)

1950年(昭25)生まれ。埼玉県出身。68年、中央大学法学部を卒業し凸版印刷に入社。2003年に取締役商印事業本部商印事業部長となり、06年には常務となり経営企画本部長および経営監査室 業務改革本部、さらに広報本部や法務本部なども担当する。08年には専務として業務システム本部や文化推進本部など全社の主要の部門を経験し、10年に社長に就任した。サッカーJリーグ・浦和レッズの熱烈なファン。休日は時間のある限りスタジアムに足を運び、真っ赤なユニフォームを着て声援を送る。

企業データ

企業名
凸版印刷株式会社
Webサイト
設立
1900年(明23)
資本金
1049億円
所在地
東京都台東区台東1丁目5番1号
Tel
03-3835-5111
事業内容
印刷、情報・ネットワーク系、生活環境系、エレクトロニクス系
連結売上高
1兆1,10億円(2012年3月期)

掲載日:2013年1月21日