闘いつづける経営者たち
「金子眞吾」凸版印刷株式会社(第1回)
01.受注産業からの脱却
印刷技術を生かす
出版不況や活字離れなどを背景に、印刷産業は厳しい状況が続いている。凸版印刷も例外ではなく、過去5年間の売上高は、2008年3月期をピークに横ばい傾向にある。
「公家の凸版、野武士の大日本」—。凸版印刷と大日本印刷の社風について、印刷業界ではしばしばこう評される。受注がメーンの印刷産業にあって、凸版は売上高で大日印に次ぐ2位に甘んじることが多かった。大日印は「営業マンが通った後はぺんぺん草も生えない」と言われるほどの強力な営業力で知られる。それに対し、凸版に対する「公家」という形容は、「スマートだが営業・技術面でのアピール力や迫力にもう一つ欠ける」と、それらの必要性を促す意味がある。
公家集団を率いる金子眞吾社長は、今後のポイントに「印刷テクノロジーを生かしたビジネスの強化」を掲げる。狙うところは、連携強化による新規事業の開拓や、電子媒体をはじめとする付加価値製品を創出させるなど、受注型産業からの路線転換だ。
電子チラシビジネスに商機
実際に新規事業として成功したのが2001年に始めた電子チラシサイト「シュフー」だ。従来のチラシ印刷という受注型ビジネスモデルを一変させた。
日本の新聞折り込み広告市場は年間で約6000億円とも言われる一大市場だ。だが「若い人を中心に新聞購読率が減っており、機会損失が増えていた」(亀卦川篤電子チラシ事業推進部長)。そこで着目したのが電子チラシだった。
現在のユーザーは月間約420万人、登録店舗数は7万8000店で企業数は1200社にまで拡大した。さらに、昨秋にスタートした「マイチラシポスト」は、利用者のニーズに合わせて情報を配信する「プッシュ型」のチラシ配信システムだ。顧客がどのようにチラシを閲覧したかを“見える化”した上で課金システムを導入。13年度に関連事業を含め約120億円を目指しており、「いずれは1000億円近くまで拡大したい」(金子社長)と意欲をみせる。
紙の印刷物の減少に歯止めがかからない中、スマートフォン(多機能携帯電話)やテレビなどにも電子チラシを配信し、新たなビジネスの創出を図る。チラシを見た利用者のエリアや性別、年代が分かることも「マーケティングとしての利用価値を高めている」と亀卦川部長は強調する。
「2位じゃだめなんです」
「主婦ウフフ、主婦ウフフー」。10月末から、こんな音楽が流れるテレビコマーシャルを放送した。吉本興業の人気タレントである山田花子さんが、コミカルな歌に乗って同社の電子チラシサイト「シュフー」を宣伝する。シュフーの考案者でもある山岸祥晃メディア事業推進本部副本部長は「フレーズを繰り返し流し、視聴者(消費者)に覚えてもらいやすい」と、その出来栄えに満足げだ。 結婚・出産を経験して芸能界に復帰した山田さんの好感度は高く、CDも発売されるなど主婦層中心に話題になった。
凸版がコマーシャルで狙うのは、なんといっても電子チラシの利用者の拡大だ。2014年度に「1000万人到達を目指したい」と亀卦川部長は高い目標を掲げる。12月には、店頭に来なければ分からなかったタイムセールやイベントなどの生活密着情報のメール配信サービスを始めるなど、付加価値作りも欠かさない。紙のチラシ市場が縮小しても、代わりとなって伸ばせるビジネスを生み出した好例といえよう。
「紙のチラシが減るという危機感のもとで始めた。流通業界だけでなく、幅広い業種に関する販売促進のモデルを提案できた。インターネットのパーソナルメディアでは『1位』になれないと、あとは『その他』で終わってしまう。その点で当社は生き残れた」と金子社長は振り返る。
プロフィール
金子 眞吾 (かねこ しんご)
1950年(昭25)生まれ。埼玉県出身。68年、中央大学法学部を卒業し凸版印刷に入社。2003年に取締役商印事業本部商印事業部長となり、06年には常務となり経営企画本部長および経営監査室 業務改革本部、さらに広報本部や法務本部なども担当する。08年には専務として業務システム本部や文化推進本部など全社の主要の部門を経験し、10年に社長に就任した。サッカーJリーグ・浦和レッズの熱烈なファン。休日は時間のある限りスタジアムに足を運び、真っ赤なユニフォームを着て声援を送る。
企業データ
- 企業名
- 凸版印刷株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1900年(明23)
- 資本金
- 1049億円
- 所在地
- 東京都台東区台東1丁目5番1号
- Tel
- 03-3835-5111
- 事業内容
- 印刷、情報・ネットワーク系、生活環境系、エレクトロニクス系
- 連結売上高
- 1兆1,10億円(2012年3月期)
掲載日:2013年1月10日