闘いつづける経営者たち
「西山 俊太郎」株式会社ヤナセ(第4回)
04.新規投資分野はネット販売
芝浦本社地区を再開発
ヤナセは5月、敷地面積約1万9000平方メートルの芝浦本社地区を再開発する方針を打ち出した。敷地を南北に2分割し、南側(8406平方メートル)に地上7階建ての新社屋を建設し、2012年に開業する予定。ショールームや整備工場を充実させ、販売増や作業効率化につなげる。一方、北側(1万590平方メートル)は売却(金額は非公開)し、不動産開発事業者が高層マンションを建設する計画。
本社地区再開発の背景について西山俊太郎社長は「2分割せずに土地全部を売却する案も検討した」と明かす。背景にあるのは「負債を減らし自己資本比率を高めることを優先する」(西山社長)という財務戦略だ。
10年9月期末の有利子負債残高は839億円で自己資本比率は13.2%。11年9月期末には有利子負債残高は800億円を切る見通し。「その後も借金返済を加速させ、将来は自己資本比率を25%ぐらいまで引き上げたい」と話す。「輸入新車販売は(景気などに左右されやすい)水物という側面もある」(同)という。財務体質を強固にすることで、不測事態に備える。
中古車購入の40%がネット経由
ヤナセは5年ほど前、株式上場計画を打ち出していた。08年秋のリーマン・ショックを契機にいったん凍結となり、現在は「当面は上場の検討を再開する予定はない」と西山社長は断言する。かつては新車ショールームの改装・移転、大規模中古車センターの開設など資金需要が旺盛だった。しかし現状では「大規模販売拠点は必要ない」と言い切る。
その代わりに新規投資を行う分野として挙げるのがインターネット販売だ。すでに新車、中古車ともに専用サイトを設け、情報提供しているほか、見積もりや試乗、商談の予約などに対応している。中古車販売ではネットを契機とした購入者が全体の40%を占める。8月初旬には携帯電話サイトを新設し、若者の利用も促す意向。
新車販売についても現状ではネット経由の購入者は3%程度だが、「10%程度になったら急速に伸びるだろう」(西山社長)と予測。若手社員を中心にネットの有効利用策を検討する方針だ。
次の100年にバトン
ヤナセの創業者、梁瀬長太郎氏が1915年に輸入車販売を始めてもうすぐ100年。その大きな区切りを前に西山社長は周辺事業拡大、本社地区の再開発、財務体質の強化など重要テーマに取り組む。今後は、地域別の事業会社を傘下とする純粋持ち株会社への移行も視野に組織体制の見直しも検討する。
トップギアで走り続ける西山社長。その根底にあるのは「一度乗ったら手放せなくなるほど魅力的なのがプレミアムカー。生涯を通じてユーザーに通ってもらえる店舗をつくり、サービスを提供していきたい」との思いだ。日本の輸入車販売のトッププレイヤーであり続けるために、次の100年へとバトンをつなぐ西山社長の闘いは続く。
プロフィール
西山 俊太郎 (にしやま しゅんたろう)
68年法政大学経営学部を卒業し同年株式会社梁瀬(現ヤナセ)に入社。世田谷営業所長、ヤナセ中国やヤナセ埼玉の専務を歴任するなど、一貫して自動車販売部門を歩む。01年12月にヤナセの取締役に就任し04年に専務、05年に副社長、07年10月に社長に就任した。酒は飲まず、趣味はゴルフと歴史小説を読むこと。東京都出身、66歳。
企業データ
- 企業名
- 株式会社ヤナセ
- Webサイト
- 設立
- 1920年1月27日
- 資本金
- 69億7587万2000円
- 従業員数
- 3488人
- 所在地
- 〒105-8575 東京都港区芝浦一丁目6-38
- 事業内容
- 輸入車販売、関連アクセサリー販売、整備サービス
掲載日:2011年8月15日