闘いつづける経営者たち
「西山 俊太郎」株式会社ヤナセ(第3回)
03.販売の手法も転換
新車は収益連鎖の起点
ヤナセは輸入中古車販売以外でも矢継ぎ早に周辺事業強化策を打ち出している。4月にはBP(車両板金塗装)事業を会社分割して、完全子会社のヤナセオートシステムズに移管。ヤナセオートシステムズは、部品販売事業を手がけており、BP事業と合わせて整備サービスを一括展開する。これによりBPの品質を高めるとともに顧客からの多様なニーズに対応できる体制を整える。
周辺事業の存在感は高まる一方だが、ヤナセの関係者は「新車販売事業も決しておざなりにはできない」と口をそろえる。バリューチェーンによって収益拡大を継続させていくためには、連鎖の起点となる新車を売り続けることが大前提となるからだ。
新車販売は厳しい局面が続く。2010年9月期は前期比11.5%増の2万4793台となったものの、08年9月期の3万2993台と比べると大きく落ち込んでいる。
試乗で実力アピール
「新車販売は、基本的には現在の台数を維持する戦略」(西山俊太郎社長)を採る方針だが、難局を乗り切るため「イメージで売っていた面もあった」という販売スタイルの転換を進める。販売店での試乗機会を増やし、「(国産車とは違う)乗り心地や運転する楽しみを味わってもらう」(同)ことで、輸入車の実力をアピールする。
またアフターサービス部門を担当する木田春夫常務執行役員は「2台目の新車はアフターサービスが売る」と強調する。アルミや高張力鋼板など自動車に多様な材料が使われるようになり、輸入車の修理・補修サービスには専門設備や高度なノウハウが求められる。そうした中、「価格と仕上がりの両方に満足してもらえるサービスを提供する」(木田常務)ことで、顧客の信頼を獲得し次の新車購入にまでつなげる。
メカニックの魅力高めファンを増やす
ただ「新車販売後5年経つとヤナセへの入庫率が減る」(西山社長)という状況があるのも事実。木田常務は「料金や整備内容の説明を丁寧に行い顧客とコミュニケーションを深めることが必要」とする。技能はもちろんコミュニケーション力なども含めメカニックの質を高める。人材の魅力アップも行いヤナセファンを増やす考え。
「1店舗1ブランドという自動車販売の鉄則も見直す時期ではないだろうか」—。西山社長は国産車を含めた新車販売ビジネスの今後のあり方についても問題提起する。「少子高齢化が進み、自動車販売店数は減っていかざるを得ない。実際、私のところにもM&A(合併・買収)の提案が寄せられるようになった」と現状を明かし、「百貨店に行けば、複数の高級ブランドバッグを比較して購入できる。自動車でもこうした売り方ができれば、ブランド間の乗り換えを望む顧客を一人の営業担当者がフォローできるようになるなど、消費者と販売店の両方にメリットがある」と指摘する。
プロフィール
西山 俊太郎 (にしやま しゅんたろう)
68年法政大学経営学部を卒業し同年株式会社梁瀬(現ヤナセ)に入社。世田谷営業所長、ヤナセ中国やヤナセ埼玉の専務を歴任するなど、一貫して自動車販売部門を歩む。01年12月にヤナセの取締役に就任し04年に専務、05年に副社長、07年10月に社長に就任した。酒は飲まず、趣味はゴルフと歴史小説を読むこと。東京都出身、66歳。
企業データ
- 企業名
- 株式会社ヤナセ
- Webサイト
- 設立
- 1920年1月27日
- 資本金
- 69億7587万2000円
- 従業員数
- 3488人
- 所在地
- 〒105-8575 東京都港区芝浦一丁目6-38
- 事業内容
- 輸入車販売、関連アクセサリー販売、整備サービス
掲載日:2011年8月11日