闘いつづける経営者たち
「家次 恒」シスメックス株式会社(第4回)
04.総合ソリューションのサプライヤーへ
アジアフォーカス
血球計数検査分野で世界一の地位を確立したシスメックスはさらなる成長に向け、免疫や生化学といった血球計数以外の検体検査分野を強化する方針を打ち出している。検体検査市場全体のうち、血液中のたんぱく質などを測定する免疫分野は最大で、スクリーニングで肝機能や腎機能を調べる生化学分野は2番目に大きい。生化学分野は中国やアジア地域の新興国を中心に、生活水準向上にともなう糖尿病患者などの増加で市場拡大が見込まれている。
シスメックスは生化学分野では、他社製の機器を販売している。10月からは中国とアジア諸国向けに、より高性能な生化学自動分析装置を発売した。中規模以上の病院向けには高速で微量分析が可能な日本電子の製品を、小規模病院向けには古野電気から処理能力の高い小型製品のOEM(相手先ブランド)供給を受け、自社の試薬とセットで販売する。
社長の家次恒が97年からの中期経営計画で打ち出した「アジアフォーカス」は、欧米企業が多い検体検査メーカーの中で唯一、アジアに拠点を置く同社ならではの戦略だ。人口の多いアジア地域で、免疫と生化学の各検査分野を中心に製品やサービスを充実させる。これまで整備してきたネットワークを活用し、自社だけでなく他社製品を販売ルートに載せることでディーラーの役割を果たし、「いろいろなものを顧客に提供していきたい」(家次)と意気込む。さらに「海外へ出たくても出られない日本の企業の(進出の)お手伝いもしたい」(同)と、リーディングカンパニーの自負ものぞかせる。
付加価値を生む
「時代の潮目を読むのが経営者の仕事」と語る家次は「アイフォーン(iPhone)などの登場に象徴されるように、これからはハード以上にコンテンツが重要になる。当社も製品だけでなくサービスやサポート、新たな検査技術で高付加価値を生み出す」と強調する。シスメックスは製品に加えてサービス全体を顧客に供給できる仕組みを、きちんと持っていることが強みだ。装置で検査結果が分かるのは当たり前で、データに自社の持つ学術情報を加え、顧客に高付加価値を提供できるとしている。
「検体検査の業界ではブランドがよく知られている」(家次)というシスメックス。企業の傘下に入らず、提携により事業規模を拡大してきた。「自分たちの存在感を高めるといろいろな情報が入ってくる」と家次は明かす。今後はアジアなど拡大する市場で、"総合サプライヤー"としての存在感を増そうとしている。
血球計数に加え血液凝固や尿の各検査分野での世界一の地位をより強固にする「グローバルニッチ・ナンバーワン」戦略も進め、検体検査領域に特化する。「ヘルスケア業界で、ユニークな存在になりたい」と独自路線を突き進む家次の、次の一手に注目が集まる。
プロフィール
家次 恒 (いえつぐ ひさし)
73年(昭48)京大経卒、同年三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。86年東亞医用電子(現シスメックス)入社、取締役。90年常務、96年専務を経て社長。現在、神戸商工会議所の副会頭も務める。熱烈な阪神タイガースファン。
企業データ
- 企業名
- シスメックス株式会社 SYSMEX CORPORATION
- Webサイト
- 設立
- 昭和43年(1968年)2月20日
- 資本金
- 88億2,400万円(2010年3月31日現在)
- 所在地
- 〒651-0073 兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1丁目5番1号
- 事業内容
- 臨床検査機器、検査用試薬ならびに関連ソフトウェアなどの開発・製造・販売・輸出入
- 上場取引所
- 東京証券取引所 市場第1部、大阪証券取引所 市場第1部
従業者数:2,025名(2010年5月31日現在。嘱託・パートタイマーなどを含む)
掲載日:2010年11月8日