闘いつづける経営者たち
「滝 久雄」株式会社ぐるなび(第2回)
02.1000年に一度の特別な日
ぐるなびはライフスタイルを変えたウェブサイト-。というのは、宴会の幹事を引き受けた時にも、デートの約束を取れた時にも、急な接待をする時にも活用されているごく身近なITだからだ。インターネット環境を意識して活用しない人であっても、グルメ情報の検索サイトの利用経験は多いはずだ。「晴れの日に家族で食事へ行く時には、まずぐるなびで店を探す。接待の声がかかった時でも、呼ばれた場所を確認するのはぐるなびが一番」と同社創業者で現会長の滝久雄氏はにこやかに説明する。
革命による恩恵の分配
今や外食検索サイトの代名詞でもある「ぐるなび」の誕生は、大変スピーディーな決断によるものだった。インターネットで情報通信の革命が起こると確信した滝会長が次に考えたのは、「革命の恩恵をどう分配するか」ということ。
ニュービジネスに取り組むならば、市場が広ければ広いほどチャンスも多い。その意味において、外食産業25兆円のマーケットの可能性は果てしなく大きい。また、一般の飲食店などが利用できるリーズナブルな広告宣伝手法としては電話帳が存在していたが、「当時は東京で10万店もの飲食店があるのに、わずか2500店しか利用していなかった。情報のブラックボックスである外食産業をターゲットにする」決断は即断に近いものだった。
外食産業は一店舗当たりの規模は小さいが、とにかく数が多いという特徴がある。しかも、大手の外食チェーンの存在を除けばネットワーク化がなされていない。それだけに「インターネットでつなげることができれば、飲食店と利用者の双方に喜んで頂けると考えた。そして、ネットユーザーからは料金を取らないことを決めた」。
会員店舗からは基本料金の月額3万円から販促効果に応じた費用を集めるが、利用はフリーだ。もし、スタート段階でネットユーザーからも料金を徴収する仕組みにしていたらどうなっていたことだろう。事実、「有料サイトは淘汰されていった。その反対にぐるなびの利用者はどんどん増えて、出かける前に検索するという生活スタイルが年々定着していった」と成功の理由を振り返る。
創立日への思い
飲食店利用者と外食産業を結びつけるB to Cビジネスでスタートしたぐるなびだが、7万店近い会員店舗を束ねることから、情報問屋としての「ぐるなびPRO」、「地産地消ナビ」にも取り組んでいるように、進化していることがわかる。
全国の産地や食品メーカーが提供できる食材の情報が、ぐるなびをプラットフォームとして流通している。そのため、「チェーン展開するような大手外食企業でなければできない産地の食材を集めてのキャンペーン展開も、加盟店なら実施可能となっている」ほど、大きな広がりを見せている。
滝会長は「インターネットの誕生に立ち合えたのは、1000年に一度のビジネスチャンスに巡り会えたような幸運」と話す。たしかに、ウィンドウズ95の発売がビッグイベントとなったりした95年当時の秋葉原の熱気は革命のような騒ぎでもあった。「大チャンスをいち早く察知し、この手で事業を成就できたことは経営者としてこのうえない喜びだった」と振り返る。そのため、ぐるなびの設立日にも滝会長の思いが込められている。「分社化による創立日は2000年2月29日を選んだ。それは、その日を1000年に一度の特別な日と感じたから」だ。
プロフィール
滝 久雄 (たき ひさお)
1940年2月3日生まれ。63年東工大理工卒、同年三菱金属(現三菱マテリアル)入社。67年に交通文化事業(現NKB)に入社。85年NKB社長に就任。96年に「ぐるなび」を開設。2000年にぐるなび事業を独立させ、2005年には大阪証券取引所ヘラクレスに上場。08年12月には東証1部に上場した。東工大客員教授のほか、政府審議会委員なども務める。
企業データ
- 企業名
- 株式会社ぐるなび GOURMET NAVIGATOR INCORPORATED
- Webサイト
- 設立
- 1989年10月2日(会社設立) 2000年2月29日(株式会社ぐるなび発足)
- 資本金
- 2,334百万円(2009年12月31日現在)
- 従業員数
- 単体1,183名 連結1,313名(2009年12月31日現在)
- 所在地
- 〒100-0005 東京都千代田区丸の内三丁目4番1号 新国際ビル2F
- 事業内容
- パソコン・携帯電話などによる飲食店のインターネット検索サービスその他関連する事業
- 売上高
- 200億1144万円 2009年3月期
掲載日:2010年4月15日