RoHS指令の基礎
RoHS指令の概要-RoHS指令の基礎
2021年 12月 内容改訂
RoHS指令とは
電気・電子機器についての化学物質規制であるRoHS指令は廃電気・電子機器についての規制であるWEEE指令と表裏一体の関係にあり、WEEE指令と同時に2003年2月13日にEU*の官報に告示されました。その後2011年7月に大幅改正され、2013年1月3日から全面施行されRoHS(II)指令と通称されています。2015年6月にフタル酸エステルなど4種類の規制物質が追加され制限物質は2021年8月時点10物質となっています。
EU委員会は、中鎖塩素化パラフィン(MCCP)などの追加を検討しており、動向調査は必要です。
まず、WEEE指令は、廃電気・電子機器の最終処分量を減らすことを目標に電気・電子機器の再使用、構成部品などの再生、リサイクルを推進する要求になっています。WEEE指令の第1条で明確にされている廃電気・電子機器を予防(削減)するという目的のために、容易にリユース、リサイクルができるように、ライフサイクル全般にわたり、第4条(設計、生産)、第5条(分別回収)、第6条(処理)や第7条(再生)で要求内容が規定されています。このリユース、リサイクルのフローを支援するために、第8条(生産者費用負担)、第9条(B to B製品の費用負担)、第10条(消費者への情報公開)や第11条(処理施設への情報提供)などの仕組みがありました。
現在は改正されWEEE(II)指令と通称されており、2018年6月8日のコラム「WEEE(II)指令(Directive 2012/19/EU)の概説」にて解説をしています。
一方、RoHS指令は、WEEE指令による廃電気・電子機器のリサイクルを容易にするため、また、最終的に埋立てや焼却処分されるときに、ヒトや環境に影響を与えないように電気・電子機器について有害物質を非含有とさせることを目的として制定されています。
- *EU:
-
欧州連合(The European Union)。1993年11月1日のマーストリヒト条約発効によって創設。現在、加盟国は、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、フランス、イタリア、ドイツ、アイルランド、デンマーク、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、オーストリア、フィンランド、スウェーデン、ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキア、スロベニア、エストニア、ラトビア、リトアニア、キプロス、マルタ、ルーマニア、ブルガリア、クロアチアの27カ国。加盟候補国としてはトルコ、マケドニア、アルバニア、モンテネグロ、セルビアの5カ国。
RoHS指令はEEA(European Economic Area)加盟国のアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーやEU機能と運営条約(Treaty on the Functioning of the European Union)の第335条によりグアドループ、仏領ギアナ、マルティニーク、レユニオン、サン·バルテルミー島、サンマルタン、アゾレス、マデイラ、カナリア諸島にも適用されます。スイスとは、相互承認協定(MRAS)を締結し、「適合性評価及び受入れに関する協定(ACAAS)」でアルジェリア、エジプトやイスラエルなどとも共通化されています。
RoHS指令の対象製品
対象製品は交流1,000V、直流1,500V以下で稼働するすべての電気電子機器で、以下の11製品群(カテゴリ、Cat)に分けられます。
RoHS指令の規制条項には、製品群の例示はなく、FAQで企業が決定するとしています。
i 大型家庭用製品
ii 小型家庭用製品
iii IT及び遠距離通信機器
iv 消費者用機器
v 照明装置
vi 電動工具
vii 玩具、レジャー及びスポーツ用品
viii 医療用機器
ix 監視、制御機器
x 自動販売機
xi 上記でカバーされないその他の電気電子機器
特定有害物質
電気電子機器の構成部品や材料に含有させてはならない化学物質は次の10物質群です。
- 鉛
- 水銀
- カドミウム
- 6価クロム
- PBB(ポリ臭化ビフェニル)
- PBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)
- フタル酸ビス(DEHP)
- フタル酸ジブチル(DBP)
- フタル酸ブチルベンジル(BBP)
- フタル酸ジイソブチル(DIBP)
最大許容濃度は、カドミウム0.01wt%(重量比)そのほかは0.1wt%です。最大許容濃度の分母は均質物質と言われるもので、「全体的に一様な組成」で「機械的に分離できる最小単位」とされています。装置全体や電子部品単位でなく、もっと小さな単位になります。
例えばICなどの電子部品では、外皮、ピンやピンのはんだめっきなどのそれぞれが均質物質になります(図1)。
RoHS(II)指令の附属書IIIおよびIVで、真鍮中の鉛や蛍光灯の水銀など用途により特定有害化学物質が除外されています。
適用除外は技術的、科学的に代替が不可な用途に期限付きで認められるものであり、最新の情報確認が必要です。
用途の除外
特定有害物質を最大許容濃度以下にすることが理想ですが、金属の快削性を高めるために鉛を含有させるなどの特定の用途について除外規定があります。
この除外規定は附属書III及び附属書IVにあります。
附属書IIIは、対象製品の第1製品群から第11製品群までのすべての電気電子機器が対象です。
附属書IVは、第8製品群(医療用機器)と第9製品群(監視、制御機器)のみが対象です。
この除外は、第1製品群~第7製品群、第10製品群及び第11製品群は、最大5年、第8製品群及び第9製品群は、最大7年で白紙に戻します。
白紙に戻す前に、延長申請があればEU委員会で審議する仕組みになっています。
改正RoHS指令は、2011年7月22日に発効しましたので、2016年7月21日に最初の白紙に戻す期限となり、2回目が2021年7月21日に白紙に戻す日でした。
しかし、延長申請が数多く出され、2016年も2021年も決定が大幅に遅れました。
決定されるまでは自動継続であり、用途の除外リストから削除される場合は1年から1年半の移行期間が設定されます。
附属書III (2021年9月10日時点)
No. |
除外用途 |
適用範囲と適用日 |
---|---|---|
1 |
片口金型(コンパクト形)蛍光ランプ1バーナー当たりに含まれる水銀の含有量が次の量を超えない |
見直し中 |
1a |
一般照明用途 30W 未満/電球形及びコンパクト形(小型)蛍光ランプは1 バーナー当たりに含まれる水銀含有量が5mg を超えない |
見直し中 |
1b |
一般照明用途 30W 以上 50W 未満/電球形及びコンパクト形(小型)蛍光ランプは1 バーナー当たりに含まれる水銀含有量が5mg を超えない |
見直し中 |
中略 |
||
44 |
欧州議会規則および理事会規則の(EU)2016/1628範囲内の専門家向けに設計されているが、非専門ユーザーによっても使用される、稼働中の固定位置で使用される機器に設置される燃焼機関のセンサ、アクチュエータ、および機関制御ユニットのはんだ中の鉛 |
カテゴリ11に適用 |
附属書IV (2021年9月10日時点)
No. |
除外用途 |
適用範囲と適用日 |
---|---|---|
1 |
電離放射線用検出器に含まれる鉛、カドミウムおよび水銀 |
|
2 |
X線管中の鉛ベアリング |
|
中略 |
||
43 |
産業用監視・制御機器で使用される10ppm未満の感度が要求される酸素センサのためのエルシュ セル(ハーシュ セル)中のカドミウムアノード |
2023年7月15日まで |
44 |
イオン被ばくが100Gy/時間を超え、総線量が100kGyを超える環境で使用される、中央解像度450以上のカメラ用に設計された放射線耐性ビデオカメラチューブ中のカドミウム |
カテゴリ9に適用 |
CEマーキングの要求
RoHS(II)指令では、適合宣言はCEマーキングで行います。
製造者に求められるCEマーキングの手順は次となります。
(a)電気電子機器を上市する時は、製造者は第4 条に規定されている要求(特定有害物質の非含有)に従い設計、製造されていることを確実にしなければならない。
(b)技術文書(Technical Documentation:TD)を作成し、Decision No 768/2008/EC(common framework for the marketing of products, and repealing Council Decision 93/465/EEC)の付属書IIのモジュールAに従い、内部生産管理手続きを実施しなければならない。
(c)電気電子機器 の適切な要求への準拠が(b)に言及される手順より証明される場合、製造者は、EU 適合宣言書(EC Declaration of Conformity:DoC)を作成し完成品にCE マーキングを貼付しなければならない。
他の共同体法令が少なくとも厳重な適合性評価手順の適用を要求する場合、製造者はこの指令の第4 条(1)の要求への準拠はその手順の文脈に含めて証明することができる。単一の技術文書が作成することができる。
(d)TD及びDoCを作成し、上市後10年間保管しなければならない。
(e)製造者は、適合性を存続するため量産製品に対する手順が決まっていることを確実にしなければならない。
製品設計または特性の変更および電気電子機器 の適合性が宣言されるため参照している整合規格又は技術仕様の変更が適切に考慮しなければならない。
(f)製造者は、非適合電気電子機器 および製品リコールの記録を保持し、それについて流通業者に告知できる状態にしなければならない。
(g)製造者は、製品の特定を可能にする型式、バッチ又は製造番号もしくはその他の要素を電気電子機器 に貼付することを確実しなければならない。
寸法又は特性によりそれができない場合、要求される情報は製品に同梱される包装又は文書で提供できる。最小寸法は5mmである。
(h)製造業者は、名称、登録商標名または登録商標および連絡先住所を電気電子機器 に表示する。それができない場合、包装または電気電子機器 に同梱される文書に明示する。
住所は製造者に連絡可能なただ一つを指定しなければならない。他の適切な共同体法令が少なくとも厳重な製造者の名称及び住所の添付のための規定を含んでいる場合、それらの規定を適用しなければならない。
(i)自身が上市している電気電子機器 がこの指令に適合していないのを知るかそのように信ずるに足る理由を持っている製造者は、適切であれば直ちにその電気電子機器 を指令に適合させる、引き上げる又はリコールするための必要な正しい措置を採り、直ちに加盟国の適格国家当局に非適合および採られた正しい措置の詳細を提供し電気電子機器 を利用可能としたその結果を報告しなければならない。
(j)国家適格当局からの更に考慮された要求に、製造業者は、電気電子機器 がこの指令に適合していることを証明するために必要なすべての情報と文書を当局が理解できる言語で提供し、その要求により自らが上市している電気電子機器 のこの指令への適合を確実にするため採られる行動について、当局と協力しなければならない。
指令と国内法
WEEE指令とRoHS指令などの「指令」は、「EU加盟国」に宛てた法律で、順守しなくてはならないのは「EU加盟国」です。「指令」の内容は、新しい国内法の制定、現行の国内法の改正、廃止の手続き後に拘束力が発揮されます。
指令は、達成されるべき結果を示し、加盟国を拘束しますが、形式方法は国内法に委ねた形式になっています。
国内法への転換はEU機能と運営条約により、拘束力の異なる2通りの手続きが定められています。
(1)EU機能と運営条約第114条(加盟国法の平準化)
主な目的が域内市場の自由移動(単一市場の達成)(第26条)を目的とする場合に選択されます。第114条が選択された場合は、EU指令より厳しい基準「の国内法は制定できません。
RoHS指令は第114条が選択されていますので、特定有害物質や最大許容濃度(閾値)などはすべての加盟国で同じです。
(2)EU機能と運営条約第192条(環境政策の措置及び行動計画)
EU機能と運営条約第192条(1)には、以下の第191条(環境政策の目的及び原則)の達成を目的の立法手続きがとられます。
1. 環境に関する連合の方針は、以下の目的の追求に貢献するものとします。
—環境の質の維持、保護、改善、
—人間の健康を保護し、
—天然資源の慎重かつ合理的な利用、
—地域または世界的な環境に対処するための国際レベルでの対策の推進
問題、特に気候変動との闘い。
2. 環境に関する連合の政策は、連合のさまざまな地域の状況の多様性を考慮に入れて、高レベルの保護を目指すものとする。それは、予防原則と予防措置を講じるべきであるという原則に基づいており、環境被害は優先的に発生源で是正されるべきであり、汚染者は支払うべきである。
これに関連して、環境保護要件に対応する調和措置には、必要に応じて、加盟国が非経済的環境上の理由から、連合による検査の手続きに従って暫定措置を講じることを許可する保障措置条項が含まれるものとする。
3. 環境に関する方針を作成する際に、連合は以下を考慮に入れるものとします。
—利用可能な科学的および技術的データ、連合のさまざまな地域の環境条件、
—行動の潜在的な利益とコスト、または行動の欠如、
—連合全体の経済的および社会的発展と、その地域のバランスの取れた発展。
4. それぞれの権限の範囲内で、連合および加盟国は、第三国および権限のある国際機関と協力するものとします。連合の協力の取り決めは、連合と関係する第三者との間の合意の対象となる可能性があります。
前のサブパラグラフは、国際機関で交渉し、国際協定を締結する加盟国の能力を害するものではないものとする。
EUの環境政策や目的が明確に定められています。指令が第191条の環境保全そのものに目的がある場合に第192条の手続きが選択されます。第1922条が選択された場合は、国情などに合わせて国内法が制定でき、指令より厳しい基準も制定できます。
WEEE指令は第191条が選択されています。
RoHS指令の国内法は、特定有害化学物質や最大許容濃度など加盟国間による差異はありませんが、WEEE指令の国内法は加盟国の状況により差異が生じます。WEEE指令の生産者登録方法など詳細手順は国内法で確認する必要があります。
適合宣言(遵法宣言)
販売する(上市)製品のRoHS指令への適合宣言は、CEマーキングによります。
CEマーキングの手順は、決定768/2008/ECのモジュールAの手順によります。
RoHS指令は、整合規格EN IEC63000:2018による遵法を説明するための技術文書(Technical documentation:TD)を作成します。
サプライヤーからの調達する部品や材料等の遵法確認の確証は、サプライヤーの信頼性と特定有害物質の含有の可能性からリスク評価を行い、次の文書の組み合わせとしています。
i サプライヤの自己宣言
ii 契約上の合意
iii 材料宣言
iv 分析試験結果
材料宣言は、IEC62474:2012の手順とされており、伝達すべき対象物質やデータフォーマットが規定されています。
伝達すべき対象物質は定期的に見直しがされていますので、法改正による物質追加対応などの漏れがなくなります。
この情報伝達の仕組みの一つがが、chemSHERPA(ケムシェルパ)です。
当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。 法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家に判断によるなど最終的な判断は読者の責任で行ってください。
情報提供:一般社団法人 東京環境経営研究所