中小タスクが行く!
第16回:知的資産経営編
2019年 8月 26日
事業承継、その前に......
自社の強みを「見える化」しよう!
そもそも「知的資産」とは?
「知的資産」という言葉をご存じでしょうか。 これは、人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド等の目に見えない資産のことであり、企業の競争力の源泉となるものです。
知的資産は、
人的資産 |
従業員が退職する際に持ち出される資産 |
---|---|
構造資産 |
従業員が退職しても会社(組織)に残る資産 |
関係資産 |
企業の対外関係に付随したすべての資産 |
の3つの種類に分類されます。
ちなみに、特許やノウハウなどいわゆる「知的財産」も、知的資産の一部です。
事業継続には欠かせない「知的資産経営」
知的資産は目に見えない無形資産であるため、どんな企業にも海面下に隠れた氷山のように当たり前に存在しますが、意識しなければ気づきにくいものでもあります。
しかし、自社の知的資産を「見える化」し、知的資産を意識的に強化・活用することで、業績向上や自社の価値向上に結びつけることが可能になります。こうした経営手法が「知的資産経営」です。
事業を継続するためには、自社の強みを社員一人ひとりがしっかりと認識し、その強みを業績や企業価値に結び付ける知的資産経営への取組が必須となります。
「知的資産経営報告書」で、真の強みを見える化!
知的資産経営に取り組む際、多くの企業が作成するのが「知的資産経営報告書」です。これは、「財務諸表などに表れない、自社の真の強み」を報告書としてまとめたもの。知的資産経営報告書の中心となるのが、「価値創造のストーリー」と呼ばれる部分です。
価値創造のストーリーとは、自社の価値創造のプロセスを論理的に説明したものです。
このストーリーは、
- 過去から現在までの自社の歩み
- その歩みの中で蓄積されてきた自社の強み(知的資産)
- 現在から将来のビジョン・計画
といった部分から成り立ちます。
【価値創造のストーリー】
従来の財務諸表を中心とした評価では、数字で表せない自社の価値が伝わりにくいことがありました。しかし、知的資産経営報告書を作成・開示することで、ステークホルダー(顧客、金融機関、取引先、従業員等)に自社のビジネスモデルと競争優位性をより深く理解してもらうことが可能になります。
つまり、知的資産経営報告書を作成すると、自社の強み(知的資産)を再認識できるだけでなく、資金調達や新規取引先などの開拓ツールとしても活用できるのです!
5~6割の企業が営業利益UP!
事実、特許庁が行った調査によると、知的資産経営報告書を作成した企業のうち、5~6割が売上や営業利益を伸ばしており、さらに4割程度が雇用や設備投資額を伸ばしていることがわかりました。
【 知的資産経営に取り組んだ後の傾向 】
では、肝心の知的資産経営報告書は、どのように作成すればよいのでしょう?
マンガの続きを見てみましょう。
知的資産経営、6つのステップ
自社の強みを洗い出して再認識し、それらを活用して経営戦略へと高めていく「知的資産経営」。これを行う場合は、次の6つのステップを踏みます。
STEP1 知的資産を「知る」
- 経営者や従業員に、強みを知るためのインタビューを実施する
- 工場・店舗などを視察する
- 財務データや市場状況などのデータを収集する
- ワークショップなどを実施してSWOT分析※1する など
※1 SWOT分析......Strengths(強み)・Weaknesses(弱み)・Opportunity(機会)・Threats(脅威)を抽出する分析手法。これらを分析し、改善策などを施すことで、経営戦略へと高めていく。
STEP2 知的資産を活かした経営計画を「まとめる」
- STEP1.をもとに戦略策定し、自社の価値創造のプロセスをストーリー化する
- 知的資産を活用・強化するためのKPIを設定する
- 事業計画を策定。経営方針を明確化し、知的資産経営報告書を作成する
STEP3 知的資産を「伝える」
- 知的資産経営報告書をステークホルダーに開示する
- ステークホルダーごとに開示すべき情報は吟味する
STEP4 知的資産を「活かす」
- 知的資産経営報告書でまとめた施策を実施する
STEP5 知的資産経営を「ふりかえる」
- KPIの達成状況を確認する
STEP6 知的資産経営を「見直す」
- 知的資産経営報告書の見直し
- KPIの見直し
- 事業計画の見直し
知的資産経営報告書の作成を行うと、事業者が会社の強みを再認識したり、従業員が事業者の経営に対する思いを初めて理解したりということが少なくありません。あるいは、社員を巻き込んでSWOT分析などを行うことで、それまで当然のように考えていたことも自社の強みであると、一人ひとりが認識できるようになります。
知的資産経営報告書の作成には、全社を挙げて自社の強みを棚卸しし、将来へのビジョンを共に考えることで、結果的に全社的なベクトルが合うという効果もあるのです。
知的資産経営報告書の詳しい作成の仕方については、「事業価値を高める経営レポート作成マニュアル改訂版」で紹介されています。リンク先のページには、レポート作成用フォーマットや事例集も揃っていますので、併せて目を通すと、知的資産経営とはどんなものかという具体的なイメージがつかみやすくなるでしょう。
ポイントはKPIの設定とPDCA
実際に知的資産経営報告書を作成する際は、過去から現在までの道のりを踏まえた上で、現在から将来にわたる経営方針・ビジョン・戦略を定め、それを「事業計画」に落とし込みます。
この事業計画策定においては、自社の知的資産の強化・活用につながる「KPI」の設定が重要です。KPIとはKey Performance Indicatorの略で、企業目的を達成するためのプロセスが適切に実行されているかを計測・評価する指標のこと。報告書を作成する際は、例えば以下のような知的資産に関して、KPIを達成するための具体的な取組を定めます。
知的資産 |
KPI |
---|---|
熟練工による独自の技術力 |
熟練工数、伝承率 |
品質の信頼感 |
ISO9000認証 |
多能工化 |
多能工化率 |
資材の標準化 |
標準化率 |
販売地域の集中 |
地域別シェア |
口コミによる顧客拡大力 |
ご紹介率 |
取組を具体的に定めることで、事業計画の達成率をより高められるようになるでしょう。
さらに、知的資産経営報告書に基づいて知的資産経営を成功させるには、前述した6つのステップを、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(対策)のプロセスで循環させる、PDCAサイクルによる取組が重要です。
【 知的資産経営の6つのステップとPDCA 】
PDCAサイクルの実践は、マネジメント力を強化する効果もありますから、ぜひ取組を続けてください!
事業承継の準備にも使える知的資産経営
ここまで説明したように、知的資産経営は全社的なベクトルを合わせることや、PDCAサイクルによりマネジメント力を強化するなどの効果があります。これらは、自社の強みの「見える化」「磨き上げ」と言い換えることもできます。
事業承継の準備としても、「見える化」と「磨き上げ」は必要です。つまり、知的資産経営は、事業承継の準備にも活用できると言えます。
中小企業の見えない強みがきっとある!
自社の業績や企業価値を高めるため、また、いつでも事業継承ができるようにするためにも、日ごろから知的資産経営への取組を積極的に行ってください!