闘いつづける経営者たち
「加藤太郎」日本ガイシ株式会社(第4回)
04.性能は二倍、価格は半分の画期的製品を
独自製法のウエハー量産へ
自動車部品で会社の約9割を稼ぐ日本ガイシ。自動車部品に代わる将来的な事業の柱の確立が課題となっており、加藤太郎社長は新事業の創出に全力を挙げる。
同社が研究開発を進める製品の中で、事業化に近いのは携帯電話の基板や発光ダイオード(LED)素子などに使われるウエハー製品だ。同社は4月下旬、LED向けに使う直径4インチのウエハーを開発したと発表。LED素子の発光効率を現行の2倍に高められるほか、電気自動車(EV)のインバーターなどに使うパワー半導体への採用を見込む。13年春の量産開始を目指す。
同社は窒化ガリウム(GaN)製ウエハーに強みを持つ。独自製法である「フラックス法」を用いてGaNの結晶を作り、ウエハーの完全な無色透明化に成功している。
燃料電池も開発
ウエハー以外にも有望株はある。同社は現在、固体酸化物燃料電池(SOFC)の開発を進めている。09年には発電効率が63%と、世界最高水準のSOFCを開発。ジャパンエナジー(現JX日鉱日石エネルギー)などと、出力3キロワット級の業務用SOFCシステムの実証実験も行ってきた。
ただ、現状では価格面で他社製品との差別化が難しいと判断。「2年ほど前から、新製法による大幅な設計変更」(加藤社長)に着手した。変更内容は明らかにしていないが、複数の材料を同時に焼き固めて一体成形し、コスト削減を図るものとみられる。
同社はナトリウム硫黄(NAS)電池をはじめ、エネルギー関連製品の製品開発に動いている。加藤社長は「リチウムイオン二次電池や空気電池など、他の電池についても共同研究中」という。蓄電池のプラスとマイナスの電極を隔てる電解質の部分に、同社のセラミックスの採用が期待できるためだ。
問われる技術系社長の真価
「まだまだ開発案件が少ない」。加藤社長は2011年に社長就任する直前の4年間、研究開発本部長を務めただけに、新製品開発への思いは強い。4月、本社内に部門横断的な組織が立ち上がった。「新事業企画室」と名付けられたこの組織には、研究者や技術者、営業出身者など、さまざまなバックグラウンドを持つ人間が集められた。
今後の研究開発の方向性について、加藤社長は「社内では『技術の先進性』を言い続けている。性能面で既存品の2倍、価格面で半分くらいの製品をつくらないと、市場では勝てない」と強調する。かつて自動車部品が創業事業の碍子(がいし)の売上高を追い抜いていったように、次の10年間程度で新規事業の柱は育て上げられるか。まさに今、技術系社長の真価が問われている。
プロフィール
加藤 太郎 (かとう たろう)
2011年4月に社長就任。同社ではほぼ半世紀ぶりの理系出身社長となり注目された。72年に東京農工大の工学部を卒業後、同社に入社。環境関連の技術職を歴任し、都市環境事業の立ち上げにもリーダーシップを発揮した。「しつこく『技術の先進性』を突き詰めよう」と常に社内に発破をかけ、技術志向の組織づくりにまい進する。趣味のゴルフはハンディ17。埼玉県出身、48年9月6日生まれ。
企業データ
- 企業名
- 日本ガイシ株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1919年5月5日
- 資本金
- 698億円余(2012年3月)
- 所在地
- 名古屋市瑞穂区須田町2の56
- Tel
- 052-872-7181
- 事業内容
- 碍子など電力関連機器、産業用セラミックス製品、特殊金属製品の製造販売及びプラントエンジニアリング事業
- 売上高
- 2478億円(連結、2012年3月期)
掲載日:2012年8月20日