闘いつづける経営者たち
「加藤太郎」日本ガイシ株式会社(第2回)
02.「商機逃さず」自動車部品に積極投資
利益の9割を稼ぎ出す
日本ガイシの現在の主力事業は、自動車の排ガスを浄化する部品の製造だ。セラミックスの技術を用いて、排ガスに含まれる有害物質を減少させる部品をつくっている。2013年3月期は自動車部品で同社全体の売上高の5割、営業利益では9割以上を稼ぐ計画。
同社の排ガス浄化用部品は利益率が高い。一般的に製造業では、売上高に占める営業利益率は10%未満がほとんどだ。これに対し、同社の自動車関連部門の12年3月期における売上高営業利益率は25%。碍子(がいし)事業などが部門赤字のため、全社で見ると利益率は低下するが、自動車部品が効率よく稼ぐ「孝行息子」であることは間違いない。
環境規制が追い風
需要も拡大する方向にある。加藤太郎社長は、「(自動車部品は)16年ごろまでは確実に需要が伸びる」と、向こう数年の業績について楽観的に見ている。新興国での自動車市場の拡大に加え、世界的な排ガス規制強化の流れが追い風になっているからだ。 自動車の環境規制をめぐっては、欧州で14年以降に新排ガス規制「ユーロ6」が始まる。中国の一部の都市でも、15年から「ユーロ5」相当の規制が始まる見通し。ガソリン車やディーゼル車への規制強化で、同社の排ガス浄化部品はますます必要とされる。
「絶好の商機は逃さない」と、加藤社長は13年3月期に同社として過去最大規模の450億円の設備投資を実施する。このうち8割が自動車関連製品の増産投資だ。具体的には、石川工場(石川県能美市)や中国、ポーランドなど計5カ国で設備を新設・増設する。生産能力をコージェライト製部品で4割、炭化ケイ素(SiC)製で2割それぞれ高め、拡大する市場を取り込む。
堅実投資でも募る危機感
「受注がほぼ確実になったものでないと、増産しない」。加藤社長の言葉からは、今回の大規模な増産計画が需要に裏付けされた堅実な投資であることが伝わってくる。陶磁器製造の時代から培ったセラミックスの技術を自動車に応用したことで、同社は世界でも有数の排ガス浄化用部品メーカーに成長した。
一方で加藤社長は、自動車部品だけで大半の利益を稼ぐ収益構造に危機感を募らせる。「20年以降の持続的な成長を考えれば、これほど自動車関連製品に依存するのは危険」。そして、碍子やインクジェットプリンター用ヘッドなど、他の既存事業は今後の急拡大は見込めない。
このため、車関連が十分な利益を生み出す向こう10年以内の間に、他の既存事業の立て直しと、新規事業の創出にめどをつけたい考え。まず着手するのが電力用碍子の事業再編。既存事業の利益率を改善し、車部品への依存を緩和していく方針だ。
プロフィール
加藤 太郎 (かとう たろう)
2011年4月に社長就任。同社ではほぼ半世紀ぶりの理系出身社長となり注目された。72年に東京農工大の工学部を卒業後、同社に入社。環境関連の技術職を歴任し、都市環境事業の立ち上げにもリーダーシップを発揮した。「しつこく『技術の先進性』を突き詰めよう」と常に社内に発破をかけ、技術志向の組織づくりにまい進する。趣味のゴルフはハンディ17。埼玉県出身、48年9月6日生まれ。
企業データ
- 企業名
- 日本ガイシ株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1919年5月5日
- 資本金
- 698億円余(2012年3月)
- 所在地
- 名古屋市瑞穂区須田町2の56
- Tel
- 052-872-7181
- 事業内容
- 碍子など電力関連機器、産業用セラミックス製品、特殊金属製品の製造販売及びプラントエンジニアリング事業
- 売上高
- 2478億円(連結、2012年3月期)
掲載日:2012年8月13日