闘いつづける経営者たち

「久田眞佐男」株式会社日立ハイテクノロジーズ(第3回)

03.開発に“化学変化”を

設計部門を集約

那珂地区に建設した新棟。設計の融合の場としての役割を担う

2011年11月、日立ハイテクの那珂地区(茨城県ひたちなか市)に新たな建屋が完成した。東日本大震災以前から進めていた耐震強化策の一環だが、敷地内に点在していた設計開発部門を集約する狙いもあった。総合棟の建設は設計改革であり、日立ハイテクの10年先、20年先を左右するプロジェクトでもあった。

地上7階建てで事務系スタッフや設計人員が入居する総合棟。コンセプトづくりに携わったQMS推進センタの佐藤直基主任技師は「すべてのつくりにコミュニケーションの意義を設けた」と説明する。階段やフロアの机の配置やオープンスペースの設置まで全てが交流を生みだすためのしかけだ。個々の社員の職場内での会話や発言の頻度などを計測するツールを使い、1年以上前から、交流の場としての機能を持たせるレイアウトを実現するため議論を重ねた。

シェアトップにも危機感

コミュニケーションをなぜここまで重視するのか。背景には危機感がある。日立ハイテクは半導体の回路線幅を自動測定する顕微鏡の一種の測長SEMなど、世界シェアがトップの自社製品を多く抱える。足下は盤石に映るが、市場自体が成熟期を迎えている産業も少なくない。加えて、ハードディスクや半導体の場合は国内のメーカーの相次ぐ撤退も懸念材料だ。

久田眞佐男社長は「日立製作所自体が動きの激しい製品市場から抜け出そうとしている中、わが社も徐々に変えないといけない」と経営のギアチェンジの必要性を力説する。

ただ、エレクトロニクス関連の売上高比率は下げても売り上げは維持する計画。「半導体やハードディスク駆動装置の関連製品は日立と一緒に伸びてきた。グループ内に手がける企業がなくなるとニーズが掴めなくなる心配がある」と今後の不透明感を語る。

停滞感打破への仕掛け

新棟の入り口脇の約40段の階段。半分の段数まで同社のこれまでの歴史が刻まれている。これからはどのような歴史を刻むのか

こうした背景もあり、測長SEMやDNA関連装置などの主力製品に次ぐ、次の10年を担う製品の開発を急がなければならず、焦りも生まれる。その停滞感を打破するための仕掛けも必要になる。

日本で生産しコストで勝つにはチームワークが必要であり、新棟はその場としての位置づけだ。半導体製造装置や医用装置などのそれぞれの設計開発者同士が交流を生むことで、「化学変化」を期待する。

那珂地区の新棟の入り口脇には大きな階段がある。約40段の半分まで同社のこれまでの歴史が刻まれている。その後に果たしてどのような歴史が刻まれるのか。シナリオはできあがりつつある。

プロフィール

久田 眞佐男 (ひさだ まさお)

1972年(昭47)東大経卒、同年日立製作所入社。01年日立(中国)総経理、04年日立アメリカ社長、06年調達統括本部長、07年執行役常務、10年4月日立ハイテクノロジーズ執行役副社長、6月取締役兼務、11年社長。群馬県出身、1948年12月生まれ。趣味はゴルフ。座右の銘は「一期一会」。

企業データ

企業名
株式会社日立ハイテク(旧:株式会社日立ハイテクノロジーズ)
Webサイト
設立
1947年
資本金
79億3848万円
所在地
東京都港区西新橋1の24の14
Tel
03-3504-7111
事業内容
半導体製造装置、汎用分析機器、医用分析装置の製造販売および工業材、ITシステムの販売
売上高
6459億円(12年3月期)

掲載日:2012年7月2日