闘いつづける経営者たち
「晝馬 明」浜松ホトニクス株式会社(第2回)
02.部門採算制で高利益体質を維持
ベンチャー企業の集合体
浜松ホトニクスが製造業としては異例の高い経常利益をたたき出す秘密の一つに、社員に収支を毎月報告させる「部門採算制」がある。光技術の開発で「人類の未知なる領域に挑戦する」一方で、工場の生産データを収集し、徹底分析することで「日本で作り、もうける」体制を確立している。
晝馬明社長は浜ホトを「ベンチャー企業の集合体のようなもの」と表現する。新興国勢との価格競争の激化や、円高の影響に悩む多くの製造業といったい何が違うのだろうか。
浜松ホトニクスには製品ごとに44の部門がある。1部門の人員は7.56人。部門長は材料の仕入れから、製品の設計、製造、販売までにかかる経費を労務費も含めて管理し、月に一回、本社に報告する。
工場の作業者が何時間どんな作業をし、何個製品をつくったのかまで細かく管理する。これを過去5年までさかのぼって経営陣が毎月、分析。データを丹念に分析して流れをつかめば、製品の販売が不調となる前の予兆も読み取れる。
部門長には収支に責任を持たせる変わりに、開発テーマの設定や設備投資などの裁量権を大きくしている。泥臭い作業を伴う仕組みだが、これによって不採算製品を最小限に抑えている。「部門採算制がうまく機能し激変する経営環境に対応できている。トップダウンで経営する巨大企業とは変化に対応するスピードが当社は違う」と晝馬明社長は分析する。
成果主義は導入せず
また、同社ではノーベル賞級の研究を担当する社員にも常に収支を問い続け、特別扱いをしないことにしている。成果主義も導入せず、「年功序列」を維持している。「現在得られるどんな成果も先人が積み上げたものがあるから到達できる。一人の手柄ではない」(晝馬社長)との考え方からだ。同社のほとんどの社員はこの考え方を謙虚に受け入れて、愚直に研究に取り組むという。
部門採算制で社員に責任感を持たせることにより、「社員が『どうやるか』でなく『何をやるか』を考えるようになる。光技術を使ってどんな顧客のニーズに応えられる製品を開発するのかを考えて、失敗を恐れずにやってみる。この繰り返しが成長につながってきた」と晝馬社長は説明する。
部門採算制が奏功した例として、発売以来50年以上がたつ光電子増倍管は製品ラインアップを刷新しながら、現在も収益を伸ばし続けている。最先端の技術と顧客のニーズに柔軟に応えられるシステムの両輪こそ、同社の強みだ。
プロフィール
晝馬 明 (ひるま あきら)
1956年11月10日生まれ、静岡県出身。81年(昭56)米ラトガース大学コンピューター・サイエンス専攻を卒業し、84年に浜松ホトニクスに入社。同年米国ハママツ・システムズ・インクに出向した。学生時代も含め約30年は米国暮らしで、カナダ人の妻と愛娘が米国に住む。浜松ホトニクスの事実上の創業者である輝夫前会長兼社長(現会長)の長男。輝夫氏の健康悪化を受けて、10年に「浜ホトらしさの継承に最適」という理由で取締役会の満場一致で社長就任が決まった。中国の需要開拓など海外展開の加速に手腕を発揮している。
企業データ
- 企業名
- 浜松ホトニクス株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1953年(昭和28年)9月29日)
- 資本金
- 349億2800万円
- 所在地
- 静岡県浜松市中区砂山町325の6
- Tel
- 053-452-2141
- 事業内容
- 光電子増倍管、光半導体素子、光源、イメージ機器、画像処理装置、計測装置の製造・販売
- 売上高
- 1018億5800万円(2011年9月期)
掲載日:2012年3月29日