闘いつづける経営者たち
「野地彦旬」横浜ゴム株式会社(第2回)
02.グローバル調達を推進
目指すは現地比率80%
「自動車メーカーと同様、現地調達率80%はやらなければならないだろう」。野地彦旬社長はこう目標を掲げる。海外生産拠点の拡大に伴い、横浜ゴムは日本、シンガポール、タイの3拠点を軸に調達活動を推進し、原材料のグローバル調達を加速している。2010年7月には「グローバル調達本部」を設置し、世界最適調達に本腰を入れている。
野地社長が掲げる80%という数値は調達地域が限られる天然ゴムを除いたもの。天然ゴムを含めると、現地調達率は現在の世界平均50%から17年度に60%程度に高まるとみている。タイや中国では現地調達が進んでいるが、フィリピンの工場は日本からの調達も多い。2011年1月から200億円かけて増産投資をしているフィリピン工場は2014年に、年産能力が700万本から1000万本に増加する。将来は同1700万本まで引き上げ、同社で世界最大の工場とする計画だ。ただ、天然ゴムや特殊剤は調達地域が限られるため、合成ゴムやスチールワイヤの現地調達を基本戦略とし「購入数量や為替、輸送費を考慮して最適な原料、調達先を選定する」(野地社長)考えだ。
旧東欧諸国にも窓口検討
これまで、あまりなじみのない地域での現調化が今後の課題となる。その一つがロシア。菊地也寸志執行役員グローバル調達本部長は「ロシアの現調率は最低50%以上」だが、「(調達先は)エリアで考える」と強調する。このためロシアと旧東欧諸国に調達窓口の設置を検討している。タイも、低コスト国のインドや中国など周辺国での調達を視野に入れている。現地の価格情報などをいちはやく得て、いかに現地の工場で使いこなして他社よりも早く展開できるか、スピードが勝負になる。
さらに東日本大震災は自社の購買方針を見直すきっかけにもなった。横浜ゴムは合成ゴムに使う薬品の調達が滞ったが、中国から代替品を確保。野地社長は「世界中を探せば、結構ある」と振り返る。代替品の調達に奔走する中でサプライヤーの選択肢も増えた。
タイヤは原価構成に占める原材料コストの割合が高く、収益は相場変動の影響をうけやすい。ここ数年は原材料価格が上昇し、各社の収益を圧迫した。2011年は天然ゴムや合成ゴム原料ブタジエンの価格が下落したが、中期的に需給ひっ迫の構図は変わらない。原材料の安定調達体制の確立と、コスト削減は各社共通の課題となっている。
横浜ゴムは小規模工法のメリットを生かしタイや米国、フィリピン、中国で生産能力を増強し、2011年12月にロシア工場が稼働した。これらにより11年の国内外の生産能力は09年比で10%増えた。野地社長は「販売力が備わっていながら供給拠点がない地域は、生産体制の整備を検討する」という。
内外比率は5対5に
横浜ゴムのタイヤ生産の、現在の内外比率は国内が6割で海外が4割。これが近い将来には5対5になる見通しだ。日本が重点地域である事に変わりはないが、今後の需要拡大は見込めない。長い目で見ると、日本も世界の一拠点という位置づけにならざるを得ないのも事実だ。さらに調達のグローバル化は避けられず、将来は調達本部機能を海外に移転する可能性さえあるという。
プロフィール
野地 彦旬 (のじ ひこみつ)
1958年10月30日生まれ。神奈川県出身。82年3月早稲田大学理工学部卒業。82年4月横浜ゴムに入社。タイヤの設計から生産、工場運営までメーカーの根幹となるモノづくり全般に携わる。三島工場工場長やヨコハマタイヤフィリピン社長を経て10年6月に取締役常務執行役員タイヤ管掌兼タイヤグローバル生産本部長となり、11年6月に社長に就任した。ゴルフだけでなく水泳、乗馬、スキューバーダイビングまでこなすスポーツマン。
企業データ
- 企業名
- 横浜ゴム株式会社
- Webサイト
- 設立
- 大正6年(1917年)10月13日
- 資本金
- 389億9百万円(2011年3月末現在)
- 所在地
- 東京都港区新橋5丁目36番11号
- 事業内容
- タイヤの製造販売
- 売上高
- 5,197億4千2百万円(2011年3月期・連結)
掲載日:2012年2月27日