闘いつづける経営者たち
「福井 勉」アイコム株式会社(第1回)
01.デジタル化でシェア奪取へ
世界シェア8%
61%、14%、8%。この数字は2008年度における、陸上業務用無線機世界上位3社のシェア(出荷金額ベース)だ。米モトローラが市場の過半を握り、大きく離れてケンウッドが続く。
3位のアイコムは、シェア2ケタにも届かない。しかも4位の中国ハイテラが低価格を武器にシェア7%を確保して、アイコムに迫っている。モトローラの背中は遠いまま、3番手集団の争いに甘んじるのか-。苦悩の中、社長の福井勉はアイコムの今後をこう明言した。「デジタル化で先頭を切る」。
デジタルは横一線
背景にあるのは、アナログからデジタルへの通信方式の移行だ。アマチュア無線機の製造から出発したアイコムは業務用無線機分野では後発で、事業規模でも劣る。だがデジタル対応という意味では「各社のスタートは横一線」(福井)。上位2社との差を詰める好機と捉えた。
デジタル化が進む一因には、米連邦通信委員会(FCC)の規制がある。周波数帯域の有効利用を目的に、2013年1月以降は1チャンネルあたりの周波数帯域幅が6.25キロヘルツ帯に対応していない製品は不認可とする、などの内容だ。アナログでも12.5キロヘルツまでは対応できるが、6.25キロヘルツは技術的に不可能。このためアイコムではデジタル無線機の普及が加速すると見ている。
シェア2ケタ目指す
これを踏まえ、同社は陸上用デジタル無線機の新機種を北米には11年1月、欧州へは同年夏から秋をめどに、市場投入する。周波数のチャンネルを「トランキング」に対応させたのが特徴。基地局がユーザーへ空きチャンネルを自動的に割り当てるものだ。1人の利用者が1つ以上のチャンネルを個別に占有するコンベンショナル方式に比べ、必要なチャンネル総数が少ない。このため使う基地局数も少なくて済み、周波数免許に関するコストも抑えられる。
福井は陸上業務用無線機の世界シェアを「少なくとも2ケタに乗せたい」と力を込める。そのためにトランキングで得られる費用対効果に加え、デジタルのメリットそのものを訴求していく。具体的にはアナログに比べて音質や秘話性が向上し、インターネット・プロトコル(IP)網との接続で通話範囲が広がるなどの点だ。これらのメリットを警察や消防、鉄道会社などへどれだけ売り込めるのか。世界各地で闘いが始まっている。
プロフィール
福井 勉 (ふくい つとむ)
75年(昭50)大阪市立大商卒。89年アイコム入社。92年取締役、99年常務、03年専務、06年社長。奈良県出身。
企業データ
- 企業名
- アイコム株式会社(ICOM INCORPORATED)
- Webサイト
- 設立
- 64年(昭39)7月
- 資本金
- 70億8122万円(10年3月末現在)
- 従業員数
- 従業者数:1097人(10年3月末現在)
- 所在地
- 〒547-0003 大阪府大阪市平野区加美南1の1の32
- 事業内容
- 無線通信機器、コンピューター機器の製造販売
- 上場取引所
- 東京証券取引所 市場第1部、大阪証券取引所 市場第1部
掲載日:2011年2月14日