闘いつづける経営者たち

「古屋 元伸」株式会社ニチダイ(第2回)

米国の工場従業員のスキルが上がってきたが...

ニチダイが米国事務所を開設したのは1994年。2001年4月、それを現法化し、翌年10月にケンタッキー工場を立ち上げた。

古屋は当時のいきさつをこう説明する。

「日本の自動車メーカーの対米戦略が加速される中での進出ですが、私どもは独立系なので、どこかから要請されて出たわけではありません。冷間鍛造の金型分野をアメリカで開拓すべく、独自判断で進出しました。やがて日系メーカーのどこかが必ず北米で冷間鍛造金型をやるだろうという読みがありましたからね」

が、思うように市場開拓が進まない。出血状態が続く。苦戦の6年余を経過。工場従業員のスキルも上がってきて、ようやく08年初めから黒字基調に入ったころ、住宅バブルのはじけたアメリカ市場に不穏な風が吹き始める。そして9月のリーマン・ショック。もはや限界、「当面、北米市場は回復しない」と判断し、09年2月に工場を売却して撤退した。現在は、販売会社を残して日系自動車メーカー向けを中心に営業展開している。

アジアではしばらく我慢の経営が続く

一方、アジアではタイへすでに工場進出している。自動車排ガスに含まれるPM(ディーゼル微粒子)、NOx(窒素酸化物)などの有害物質削減効果が大きいターボチャージャー部品の生産だ。

同部品はEURO5(EUのディーゼル車、ガソリン車を対象とする排ガス規制)の施行を背景としてヨーロッパを中心に需要拡大が見込まれており、タイ工場はそれを低コストで生産、機動的に顧客に供給する狙いだ。

分社化したニチダイプレシジョン(NPC)と三菱重工のタイ子会社三菱ターボチャージャーアジアとの合弁会社(ニチダイタイランド)で、ニチダイからすれば孫会社ということになる。

同工場は、バンコク近郊約60km、日系企業が数多く工場進出しているチョンブリ県アマタナコン工業団地に立地。日本からは2人を派遣、現地24人の従業員を擁して09年末から本格稼働した。ただ、ご多分に洩れず欧州の自動車市場も依然低迷が続いており、その結果、ターボチャージャー部品の事業は厳しい状況が続く。

「ヨーロッパでは乗用車の5割がディーゼル車ですが、リーマン・ショック以降、やはり自動車市場の様相が変わりました。エコ減税の焦点が1500cc以下の車におかれていることもあって、売れ筋は小型車ばかり。そのへんもわれわれには厳しいところです」

いったん市場が好転局面に入れば、環境対応を背景として需要拡大が見込まれる自動車部品だけに、その日を待っていましばらくの我慢経営が続く。タイにはこのほか、金型関連の販売会社も置いている。

ところが、中国には上海連絡事務所を置くだけで、いささか戦略が手薄な印象。自動車の販売台数を急激に伸ばす人口大国の中国やインドにすでに数多くの日本企業が進出、事業を軌道に乗せている中で、ニチダイとしてももう少し加速させてもいいのではないか、と水を向けると、古屋の答えはこうだった。

「もちろん策は練っているけれど、いろいろと問題がありますので具体的な話はできません。ただ、競争相手が変わることにどう対応していくか、ということです。これまでは国内の金型メーカーとの競争でした。それが新興国の金型メーカーとの競争に変わります。そのときわれわれが彼らに負けないものは何か、それをじっくり見据えた戦略を打っていきます」

今後のグローバル展開にはアメリカでの失敗経験も生かしていく、と、VSOP*のP(パッション)をにじませていた。

*創業者である田中善昭・前社長が、自社の経営を支える要素について、その頭文字から命名した名称。VSOPの「V」はヴァイタリティ、「S」はスペシャルティ、「O」はオリジナリティ、「P」はパッションを意味する。

プロフィール

古屋 元伸 (ふるや もとのぶ)

1955(昭和30)年9月21日生まれ。80年4月三菱電機入社。97年4月に同社メカトロニクス事業部主幹。翌98年3月にニチダイ入社。同年4月の総務部長就任をかわきりに、営業統括兼営業企画室長(99年4月)、取締役(99年6月)、営業本部長兼営業企画室長(2000年4月)、代表取締役副社長(01年6月)を経て、02年4月に代表取締役社長に就任。

企業データ

企業名
株式会社ニチダイ
Webサイト
設立
1967年5月
資本金
14億2992万円
従業員数
392人(連結)288人(単独) 2009年3月31日現在
所在地
〒610-0341 京都府京田辺市薪北町田13
Tel
0774-62-3481
事業内容
精密金型の開発・製造・販売 精密鍛造品及びその関連する成形品の開発・製造・販売 各種ろ過装置及び金属ろ過材料の開発・製造・販売 各種焼結金属の開発・製造・販売 精密部品の組立及び開発・製造・販売
売上高
103億9493万円 2009年3月期

掲載日:2010年4月2日