闘いつづける経営者たち

「志太 勤」シダックス株式会社(第3回)

03.規制概念打ち破るサービス戦略

社員食堂のおもてなし

志太の快進撃を象徴するレストランカラオケSHIDAX。「カラオケ(楽しさ)」と「食(健康)」を融合し、そこに華やかで開放的なイメージを演出することでファミリー層を取り込むことにも成功した。

「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」ー その食堂は、いつも明るいあいさつに満ちている。シダックスが運営する社員食堂だ。いまでは当たり前の光景も、ひと頃の社員食堂と言えば、食べにくる社員をもてなす姿勢などまるでなく、「食べさせてやる」という雰囲気が強かった。

志太は言う。「社員食堂であいさつし始めたのは、当社が初めてです」。国内初のカフェテリア方式の採用という新規性だけでなく、街のレストランと同様の接客姿勢が意表を突いたのだ。事業はまたたく間に拡大した。

事業規模の拡大とともに、慢性的な人手不足に悩まされていた志太は、ここでも大胆な戦略に打って出る。みずから人材育成する業界唯一の「志太調理師学校」を設立したのである。これにより人手不足を補うとともに、作る料理の種類がコックや調理師によって決まっていた習慣を改め、一人でどんな料理も調理できる人材の養成に努めた。

もう一つの顔は研究開発型企業

環境の変化や時代に合わせた新しいビジネスやサービスを提供していく。そういう意味でシダックスは研究開発型企業です。

シダックスの社風を称して「ウチは研究開発型企業です」というのが志太の口癖だ。志太のいう研究開発は、新しいビジネスモデルの開発を意味する。この新事業創出に注ぐエネルギーは半端ではない。

たとえばアウトソーシングと情報ネットワークを組み合わせて給食を提供する「SL(シダ・ランチ)ネットワーク方式」。銀行の支店など他社が敬遠しがちだった小さな事業所、小さなマーケットもチャンスと見れば、果敢に商品開発に動く。

第二の柱に成長したカラオケ事業もその一つ。後発でありながら、従来のカラオケ店と一線を画す店舗展開で業界トップに躍り出る。貸しビルの一角ではなく、その街で最も華やかな外観を装った専用建屋をこしらえて、非日常の空間イメージを演出。さらに給食事業のノウハウを生かし、あらゆる顧客の味覚に耐える料理品質を打ち立てた。

不特定多数の顧客を対象にするサービス市場で、シダックスのブランドは徐々に浸透し始めた。

病院給食の常識覆す

社員食堂に挨拶取り込むなど、次々と新規性を取り込んだコーポレートカフェテリア。既成概念に縛られない柔軟な発想は、何ごとにも諦めない精神と数々の失敗を乗り越えた培われた志太のビジネス哲学によるものだ。

シダックス成長の原動力となったもう一つに、規制緩和のチャンスを見事につかんだ病院ビジネスがある。きっかけは1986年の「病院給食の外部委託の解禁」。

病院経営の効率化と給食の品質改善という要請に応え、カフェテリア方式を応用していち早く病院内の患者さんが好きな料理を選べる「SMC(シダックス・メディカル・カフェテリア)プログラム」を開発。他社との差別化を鮮明にし、病院給食で圧倒的な強みをみせたのだ。

「メディカル・フード・サービス研究所」の3年に及ぶ研究の集大成が結実、病院の三悪といわれた「冷たい、まずい、早い」を追放した。

「社会的ニーズのある事業でなければ成功しない」。志太の奥底に貫かれている起業以来の強い信念は、病院ビジネスでもいかんなく発揮されたのだ。(敬称略)

プロフィール

志太 勤 (しだ つとむ)

1979年兵庫県芦屋市生まれ。恵泉女学園大学を卒業後、銀行、不動産会社などの勤務を経て2008年に株式会社つ・い・つ・いを創業。「ついつい手にとって食べてしまう、ちょっと贅沢なあられ」を商品コンセプトに、ルミネ北千住を中心とした店舗とウェブサイトのオンラインショップで販売する。アメリカ、フランス、マレーシアなど海外への販売も好調。2013年に「日経ウーマンオブザイヤー2013キャリアクリエイト部門」受賞、2014年には在日米国大使館から起業家を顕彰する第4回日本起業家賞の特別賞を受賞した。

企業データ

企業名
シダックス株式会社
Webサイト
設立
2001年04月02日
資本金
8,930 (百万円)
従業員数
11,000(23,042)(名)
所在地
〒150-0041 東京都渋谷区神南1丁目12番13号
Tel
03(5784)8881(代表)
事業内容
フードビジネスに関する企業の株式を所有する持株会社。子会社に対する経営指導、管理業務などが主な事業。
売上高
175,150 (百万円)

掲載日:2007年10月22日