ビジネスQ&A
CRMの導入についてその進め方と注意点などを教えてください。
2024年 2月 2日
顧客管理のためにCRMの導入を考えています。その進め方と注意点などについて教えてください。
回答
CRMを導入する際には、導入目的の社内周知と、営業担当者による情報入力の徹底、収集したデータをもとにした施策の計画・実行・効果測定・改善の繰り返し、セキュリティ対策や個人情報の取り扱いの再点検が必要です。まずはCRMツールを提供している企業の何社かに問合わせを行い、トライアルやデモで活用イメージを掴んでみましょう。その上で、費用対効果を見積もり、DX補助金の活用も検討することがお勧めです。
私たちの身近で使われているCRM
本稿では、顧客管理のためのCRM導入について、専門的なマーケティング用語は極力用いず、「CRMってそもそも何?」というところからスタートし、具体例を盛り込みながら導入の際のポイントについて分かりやすく解説していきます。
CRMはCustomer Relationship Management(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の略で、日本語だと「顧客関係管理」「顧客管理システム」「顧客管理ツール」などと呼ばれることが多いです。単に顧客の情報を保有するだけではなく、顧客との関係性をよりよくするために用い、中小企業の生産性を大きく左右するツールになります。市場にはさまざまなCRMが存在し、それぞれ特色と機能は若干異なりますが、どれも顧客との接点を増やし、購買に繋げることが主な目的です。
以下のグラフの通り、2020年以降、CRMとSFA(Sales Force Automation, 営業支援システム)の導入率が一気に伸びています。
ご自身の普段の生活を振り返った時にこんなことはないでしょうか?
- 広告を見て、野菜ジュースの無料お試しセットを注文した
- Webで見つけたAI活用に関する記事の続きが読みたくて、無料会員登録した
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そして、関連する商品紹介の営業や、ハガキ・メールマガジンが来るようになって、最終的にお金を支払って何か商品やサービスを購入したことはないでしょうか。
サービスを提供する企業側の視点では、非常に単純化すると以下の流れになります。
(1) 顧客情報(名前・住所・電話番号・メールアドレス等)の取得
↓
(2) 顧客に対する営業活動
↓
(3) 顧客が商品/サービスを購入
顧客の情報管理がしっかりできていない状態だと、「顧客情報を入手しただけで活用できていない」「どの顧客に営業したか、担当者にしか分からない」「新規顧客とリピート顧客/ロイヤル顧客に同じアプローチをしている」ということが往々にして起こり得ます。
CRMを導入し、上手く使うことで「収集した顧客情報を"有効活用"し、購買を"効率的"に促進する」ことができるようになります。
CRM導入の前に考えなければならないこと・有効活用するために必要なこと
CRMシステムの導入は、顧客データの管理と営業効率の向上に繋がります。導入を成功させるためには、事前準備が必要です。
まず、CRMは情報の宝庫であり、特に商談や顧客とのコミュニケーション履歴などのデータ入力が不可欠です。営業担当者にとっては、情報を入力するという新たな業務が発生するため、CRMを使うことで会社の売上全体に繋がるということ。そして、入力率を評価の項目に加えるなど適切なインセンティブを提供することが重要です。さらに、経営者もしくはCRM導入担当者は、入力作業が定着、迅速かつ抜け漏れなく行われるようになるまでには、少なくとも3か月の期間を想定しておくべきです。
CRM導入の真の目的は、顧客情報を単に蓄積することではなく、蓄積された情報をもとに、営業・マーケティング戦略を改善、売上に繋げていくことにあります。そのため、収集したデータをもとに施策を計画・実行・効果測定・改善(PDCAサイクル)を回し続けることが求められます。
ここまでCRMツールを導入することを前提に話を進めてきましたが、そもそも、本当に導入が必要なのか一度立ち止まって考えてみてください。次項でセキュリティ上講じるべき対策についても記載していますが、自社の営業担当社員数・取引先数によっては、CRMツールをわざわざ導入するほどではないかもしれません。
例えば、営業担当者が数名で、顧客もまだ数十社と限られている場合、費用(人的工数含む)をかけ、CRMツールを導入することは過剰かもしれません。Excelやスプレッドシート上による管理で充分なこともあります。
一方、営業担当者が20名を超え、1人あたり数十社の顧客を抱えながら、新規開拓も旺盛に実施している場合は、営業担当者が独自の顧客リストを持ち、情報の共有が十分に行われていない状況かもしれません。こうした場合、CRMツールの導入・活用は、情報を中央集約し、営業活動の追跡、顧客とのやり取りの記録から、適切なフィードバックの実施や、マーケティング戦略を検討できるようになるという点で大きなメリットを持ちます。
また、CRM導入の前には、社内の全メンバーが導入の目的と期待される効果を理解していることが非常に重要です。目的が社内に周知されていなければ、利用が十分に促進されず、投資に対するリターンを最大化することはできません。
最後に、実際にCRMを導入する前には、いくつかの提供企業に問合わせ、無料トライアルやデモを活用してみることを強く推奨します。実際に手を動かし、操作感や必要な機能を確認することで、自社に適したCRMの選択に大いに役立ちます。CRMの導入は組織全体の生産性を高める戦略の一環として捉えるべきです。費用の観点で言うと、DX関連の補助金を活用できる可能性もあるため、導入時の負担を軽減できるかもしれません。
CRM導入後にセキュリティの観点から気を付けなければならないこと
CRMツールの導入は、顧客管理を効率化し、ビジネスの成長を加速する大きなステップですが、これにより企業は顧客データという重要な情報資産を電子的に一元管理することになります。その便利さの裏で、情報セキュリティのリスクが増大するので、導入後の管理には特に注意が必要です。
ほとんど全てのツールはWeb上でサービス展開されているため、IDとパスワードがあれば誰でもアクセスが原則可能となります。とくに営業担当者は全員活用しなければ、CRMを導入する意味がありませんから、発行したアカウントのIDとパスワードの管理や、情報流出には細心の注意を払わなければなりません。
例えば、会社からノートパソコンを貸与されていた従業員がノートパソコンを紛失。デスクトップ上にCRMツールにログインするためのIDとパスワードがメモ帳に記載されている。ということになったら目も当てられません。
いくつか、セキュリティ上、講じるべき対策を述べます。
(1) ログイン情報の厳格な管理
CRMツールへのログイン情報が漏洩すれば、情報流出に直結します。ログイン情報の共有禁止・多要素認証の導入など基本的なセキュリティ対策は徹底しましょう。
(2) ネットワークを通じたアクセスの制限
CRMツールへのアクセスは、社内ネットワークまたはVPN経由でのみ可能とする設定が望ましいです。これにより、不正アクセスのリスクを一気に減らすことができます。
(3) 情報ごとのアクセス権限レベルの設定
全ての従業員が全ての情報にアクセスできる必要はありません。権限レベルを設定し、職務に応じた情報のみを閲覧・入力できるようにすることで、不要な情報漏洩のリスクを抑えるだけでなく、誤ったデータ入力を減らすことができます。
(4) 情報のエクスポート制限
業務で必要な場合に限り、特定の従業員だけが情報をエクスポートできるように制限をかけます。エクスポートしたデータの取り扱いに関しても明確なガイドラインを設ける必要があります。実際、回転寿司チェーンで仕入先の情報が競合他社に漏れた事件や、通信関連の営業秘密や顧客情報の漏洩は記憶に新しいかと思いますが、表面化してないだけで、顧客情報を従業員が抜き取る事例は後を絶たないと考えられます。
(5) 教育と研修の実施
従業員がCRMツールを安全かつ効果的に使用するために、個人情報の取り扱いやセキュリティ対策に関するチェック・研修を定期的に行うようにします。情報漏洩によって新聞の一面を飾ってしまうような事件の当事者になり得ることは、対岸の火事の話ではないことを従業員一人ひとりが理解するべきです。
CRMツールの導入と利活用は企業にとって大きな利益をもたらします。一方、それに伴うリスク管理とセキュリティ対策は企業の信頼の根幹にかかわるため、慎重かつ継続的な取り組みが求められます。CRMツール導入後はこれらの点に気を配り、顧客情報を守りながら、ビジネスを成長させるため、攻める体制を整えていくことが成功への鍵となるでしょう。
- 回答者
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中小企業診断士 池本 駿
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