ビジネスQ&A
クラウド・サービスのメリット、デメリットについて教えてください。
2020年 12月 10日
創業10年目の生活雑貨卸売業です。社内のミニタワー型サーバーで販売管理システムを運用してきました。来年度のリースアップを控え、システム・ベンダーからクラウド環境への移行を提案されています。社内にITに強い人材がいないため、どうしたものかと悩んでいます。クラウド・サービスのメリットとデメリットについて教えてください。
回答
クラウド・サービスを利用している企業の割合は、2017年に56.9%と、初めて50%を超えました。また、システム・ベンダーが提供するパッケージ・システムの多くは、クラウド版を利用できるようになっています。クラウド・サービスの利用が、IT化の主流になったと言えます。
クラウド・サービスは、コストや導入期間、拡張性などの面で多くのメリットがあります。一方で、セキュリティ対策の強化が必要、カスタマイズが難しいなどのデメリットもあります。デメリットをしっかりと理解したうえで、クラウド・サービスが持つメリットを活用してください。
1. クラウド・サービスの概要
クラウド・サービスとは、インターネットを通じて、様々なITサービスを提供するものの総称です。提供するサービスの種類によって、IaaS、PaaS、SaaSのように呼び方が変わります。
- IaaS(Infrastructure as a Service)
イアースと読みます。インターネット上にある、仮想的なハードウェア(サーバー本体、ネットワーク機器、記憶装置など)を意味します。 - PaaS(Platform as a Service)
パースと読みます。IaaSの上にWindows ServerやLinux※1などのサーバーOSや、システム開発用ソフトウェアが組み込まれた状態で提供されます。 - SaaS(Software as a Service)
サースと読みます。「クラウド○○システム」のように、インターネット上ですぐに使える状態で提供されているサービスのことです。
※1 Linux
リナックスと読みます。サーバー用OSの種類のひとつです。
社内に情報システム部門があるような企業は、IaaSやPaaSを利用して、その上にシステムを構築するパターン。IT専門家がいない事業者は、SaaSを利用して個別システム(販売管理システム、会計システム、顧客管理システムなど)を導入するパターンが多く見られます。
2. クラウド・サービスのメリット
クラウド・サービスのメリットとして、次のような点があげられます。
- コスト削減効果がある
クラウド・サービスを使ってシステムを導入する場合、自社サーバーへのシステム導入と比べて、導入コスト・運用コストを低く抑えられます。 - 短期間でのサービス運用開始が可能である
クラウド・サービスは、申し込み後すぐに使い始められるものがほとんどです。IaaS、PaaSはシステム開発期間を短縮でき、SaaSはサービス利用開始までの期間を短縮できます。 - 容易に機能を強化できる
サーバー性能を上げたい時や、オプション機能を追加したい時など、クラウド・サービスの管理画面から設定するだけで利用可能となります。 - 災害に強い
クラウド・サービスは、堅牢なデータセンター内に構築されている場合がほとんどなので、自社内にサーバーを設置する場合よりも、災害に強くなります。 - どこでも利用できる
クラウド・サービスは、インターネットに接続できる環境であれば、どこでも利用できます。外出中やリモート・ワーク中の社員も利用できるので、生産性向上や情報共有の効果が高いと言えます。
3. クラウド・サービスのデメリット
クラウド・サービスには、メリットだけでなくデメリットも存在します。デメリットとその対策を理解することも、クラウド・サービスを活用する上で重要な要素です。
1. セキュリティに不安がある(という印象がある)
クラウド・サービスを利用していない企業があげる1番の不安点が、セキュリティ面での不安です。確かに、インターネット上のサービスは、サイバー攻撃の標的になりやすい特徴があります。しかし、クラウド・サービス事業者も、セキュリティ強化には力を入れています。
SaaSを利用する場合、以下のような対策を確実にとり、セキュリティ上のリスクを軽減してください。
- ログインID/パスワードのルール設定
管理者によるログインIDの集中管理、パスワードの複雑さや有効期間、再利用の制限などに関するポリシー設定などで、破られにくいパスワードを維持します。
- データに対するアクセス制限
共有データはアクセス権限を設定します。それにより、部外者によるデータ盗難や、破壊を防ぎます。
また、PaaSやIaaSを利用する場合は、さらに専門的なセキュリティ対策が必要となります。
- システムの脆弱性を突いた攻撃(データ漏洩・改ざん、フィッシングサイトへの誘導など)に対する対策
- 定期的なマルウェア(悪意のあるソフトウェアや悪質なコードの総称)のスキャン
- 定期的な脆弱性のテスト
2. SaaSはシステムのカスタマイズが難しい
SaaSで提供されるシステムは、複数の企業で共有される場合が多いため、クラウド・サービス事業者はシステムのカスタマイズを受け付けない場合が多いです。その場合は、業務の見直しを行いカスタマイズの要・不要を検討し、どうしても必要であれば、IaaSやPaaSを使い、自社専用システムを構築することになります。
4. まとめ
IT専門家が不在の中小企業にとっては、SaaSの利用が現実的と言えます。また、2019年度のIT導入補助金(平成30年度補正予算)は、補助限度額が450万円に引き上げられました。補助率1/2なので、総額900万円のITツール導入が可能です。この機会を利用して、積極的にIT導入を検討してください。
- 回答者
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中小企業診断士
土田 哲
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