販路開拓・商品開発
経営革新支援事業
2023年1月内容改訂
世の中は常に変化しています。企業経営において現状維持を目的とすると、外部環境の変化に対応できずに業績は多くの場合、低下していきます。事業を継続していくためには経営革新、つまり毎年同じ営業・生産活動を繰り返すのではなく、変化の中で生まれるビジネスチャンスを捉えていくために経営スタイルを変えていくことが必要です。
「経営革新支援事業」とは
企業を存続させるには、「本業の成長」と、外部環境の変化の中で生まれるビジネスチャンスを捉えた「新たな収益の柱」が必要です。ここでは、新たな取組みを成功させるために活用できる「経営革新支援事業」をご紹介します。
「経営革新支援事業」とは、新事業活動や一定の条件を満たした経営目標を盛り込んだ経営革新計画を作成し、都道府県または国の承認を受けることで、税制上の特例等、多様な支援を受けられる制度です。経営革新計画を作成することで自社の課題が明確となり、計画を立てて新たな取組みを実行し、改善していく事業の運営サイクルを管理することができて、競争力の強化につながるメリットがあります。全業種の中小企業者が対象で、任意グループや組合等、柔軟な連携体制での実施が可能です。また、都道府県等が、承認企業に対して経営革新計画の開始時から1年目以後2年目以前に、進捗状況の調査(フォローアップ調査)を行うとともに、必要な指導・助言を行うことも特徴の1つです。
経営革新計画が申請できるのは、(1)特定事業者としての経営革新計画の対象となる会社及び個人、(2)特定事業者として経営革新計画の対象となる組合及び連合会です。
出典:2022年版 経営革新計画 進め方ガイドブック
2020年10月1日に施行された「中小企業成長促進法」において、基礎体力をつける「経営力向上計画」、新たな事業活動に取り組む「経営革新計画」、地域全体の活力向上を目指す「地域経済牽引事業計画」をベースに、企業の成長に応じた体系に整理されました。「経営革新計画」は、下表のように成長の中核段階に位置づけられています。
出典:2022年版 経営革新計画 進め方ガイドブック
新事業活動について
経営革新計画では、従来とは異なる生産・営業活動、つまり新事業活動が求められます。新事業活動とは、次の4つのいずれかに該当する取組みをいいます。
(1)新商品の開発または生産
(2)新役務の開発または提供
(3)商品の新たな生産または販売の方式の導入
(4)役務の新たな提供の方式の導入
(5)技術に関する研究開発及びその成果の利用その他の新たな事業活動
(中小企業等経営強化法第2条第7項)
具体的な内容について、1つずつ見ていきます。
(1)新商品の開発または生産
新商品の開発または生産とは、現在の事業とは関連しない新しい分野へと進出して成長を図るか、同じ分野で新しい製品を投入して成長を図るかのどちらかになります。
たとえば、新しい分野への進出の場合、産業廃棄物処理業者が茶殻やサトウキビかす等の植物性廃棄物を利用して、分解可能な容器にリサイクルする技術を開発したりする事例があります。一方、同じ分野で新商品を開発する場合には、大型で強力な業務用空気清浄機を製造していた企業が、ニーズの高まりを受け、一般家庭用の小型で強力な空気清浄機を開発したりする事例があります。
(2)新役務の開発または提供
新役務の開発または提供とは、現在の事業とは関連しない新しい分野へと進出して成長を図るか、同じ分野で新しいサービスを投入して成長を図るかのどちらかになります。
たとえば、新しい分野への進出の場合、老舗旅館が空室をリラクゼーションルームとして改装し、新しいサービス事業を行うこと等が考えられます。一方、同じ分野で新サービスを開発する場合には、美容室が高齢者等、身体の不自由な方等に対し、美容設備一式を搭載した車で理美容の出張サービスを行うこと等が考えられます。
(3)商品の新たな生産または販売の方式の導入
新商品や新サービスではなくとも、生産やサービス供給効率を向上させる新しい生産方式や販売方式についても承認を受けることができます。
たとえば、果物の小売業者が果物に関する知識等の強みを活かして、高品質のフルーツを使ったスイーツ、フルーツや野菜のフレッシュジュース、健康を意識して野菜を取り入れたメニュー等を提供することは、従来取り扱っていた商品の新たな販売方式の導入にあたります。
(4)役務の新たな提供の方式の導入
現在保有している設備等の資源やノウハウを利用して新しいサービスを採用することについても、承認を受けることができます。
たとえば、タクシー会社が乗務員に介護ヘルパーや介護福祉士の資格を取得させ、病院や介護施設への送迎等のタクシー利用者を獲得し、介護タクシー事業に進出して多角化を図ることは、役務の新たな提供の方式の導入にあたります。
(5)技術に関する研究開発及びその成果の利用その他の新たな事業活動
たとえば、これまで加工が困難とされてきた新素材の大量加工に関する研究を行い、その成果として得られた加工技術・ノウハウを自社の製造ラインで活用すること、また、介護用ロボットの利便性向上を図るための研究開発と実証実験を行い、その成果を元に介護ロボットを開発し、自社の事業に活用することは、技術に関する研究開発及びその成果の利用その他の新たな事業活動にあたります。
経営革新計画で求められる経営目標の条件
本事業では、「付加価値額又は一人当たりの付加価値額」と「給与支給総額」の2つの経営指標が、3~5年で相当程度向上することを示す経営目標を経営革新計画に盛り込むことが求められます。経営の向上を見る際は、売上高の増減ばかりに目が行きがちですが、それだけでは経営の全体を把握することはできません。
「付加価値額」は、企業活動全体の全体像を把握し、企業が生み出した価値を総合的に判断するため、営業利益に企業活動の源となる雇用(人件費)と投資(減価償却費)を加えます。企業が生み出した価値である付加価値額の伸び率から経営目標を作成します。
付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費
一人当たりの付加価値額=付加価値額/従業員数
経営革新計画の承認を受けるメリット
経営革新計画を作成することで自社の課題が明確となり、競争力の強化につながることは先に述べたとおりですが、そのほかにどのようなメリットがあるのでしょうか。
経営革新計画の承認を受けると、以下の主な支援策が利用できるようになります。ただし、別途、利用を希望する支援策の実施機関での審査が必要です。
(1)政府系金融機関における特別利率による融資制度
日本政策金融公庫から融資を受ける際に、通常よりも優遇された条件が適用される「新事業活動促進資金」の利用申込みができるようになります。詳細は日本政策金融公庫のホームページで確認できます。
(2)信用保証の特例
信用保証制度は、中小企業等が金融機関から事業資金を借り入れる際、信用保証協会が公的な保証人になることにより、中小企業等の資金繰りを円滑にすることを目的としています。通常、保証を受けられる金額には限度額が定められていますが、経営革新計画の承認を受けると、限度額を超えた保証の申込みができます。
(3)特許関係料金減免制度
経営革新計画における技術に関する研究開発について、特許関係料金が半額に軽減される制度への利用申込みができます。対象となる特許料金は、審査請求料、第1年から第10年の特許料ですが、すでに納付している料金は対象となりません。詳細は特許庁のホームページで確認できます。
(4)中小企業投資育成株式会社法の特例
通常の投資育成株式会社の投資や育成事業(コンサルテーション)の対象は、資本金の額が3億円以下の企業に限られますが、承認を受けた経営革新計画の実行のために資金調達を図る場合、資本金の額が3億円を超える場合でも、中小企業投資育成株式会社の事業の利用申込みができます。
(5)販路開拓コーディネート事業
経営革新計画の承認を受けた企業は、中小企業基盤整備機構の関東本部と近畿本部に配置された商社・メーカー等出身の販路開拓の専門家(販路開拓コーディネーター)から、マーケティング企画、首都圏・近畿圏へのテストマーケティングの活動支援を受けるための利用申込みができます。
(6)海外展開事業者への支援制度(現地子会社の資金調達)
経営革新計画の承認を受けた企業の外国関係法人等が、現地(海外)の金融機関から期間1年以上の長期資金を借り入れする際に、日本政策金融公庫が信用状を発行しその債務を保証します。海外での現地通貨の円滑な資金調達の支援を受けることができます。
出典:2022年版 経営革新計画 進め方ガイドブック
手続きの方法
まずは、都道府県の担当部局に要件、経営革新計画の内容、申請手続き、申請窓口、支援措置の内容等をご相談ください。複数の中小企業者が共同で計画を作成する場合は、国の地方機関等が窓口になる可能性がありますので、併せてご確認ください。
次に、必要書類の作成、準備を行います。経営革新計画の作成は、都道府県担当部局、圏内の中小企業支援センター、商工会・商工会議所等でアドバイスを受けることができます。次に申請窓口に申請書を提出し、あとは都道府県知事もしくは国の地方機関等の長の承認を待つ形となります。都道府県別の問い合わせ先は、中小企業庁のホームページから確認できます。
出典:2022年版 経営革新計画 進め方ガイドブック
まとめ
- 新たな収益の柱を育てるためには、経営革新計画の作成がおすすめ
- 経営革新計画には、新事業活動や一定の条件を満たした経営目標を盛り込むことが求められる
- 経営革新計画の承認を受けると、さまざまな支援策の利用申込みができる
- 申請は都道府県の担当部局、もしくは複数の中小企業者の共同計画の場合、国の地方機関等が窓口となる