中小タスクが行く!
第18回:人を大切にする経営編
2019年 9月 9日
強い会社を作りたい!
それなら、「人を大切にする会社」を目指そう!
「人を大切にする経営」とは?
かつての日本の経営スタイルは、「三方よし」や「大家族経営」という言葉で表されるように、「業績」や「勝ち負け」以外の価値観を重視することが特長でした。
しかし、バブル崩壊、企業競争のグローバル化、リーマンショックなど経営環境の変化に翻弄される間に、日本的経営スタイルは否定され、多くの企業が業績向上手段の精緻化に邁進するようになりました。その結果、日本の景気拡大は戦後最長と言われながらも実感に乏しく、企業と内外のステークホルダーとの関係もギスギスしたものとなっています。
一方で、ぶれない経営方針を貫きつつ、安定した業績を維持する企業も存在します。そうした企業が取り組む経営スタイルが「人を大切にする経営」です。
「人を大切にする経営」の提唱者は、『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版/既刊1~6)の著者であり、法政大学大学院教授の坂本光司氏。同氏はこれまでに日本全国8,000社以上の中小企業を訪問調査し、好業績を維持しながらも、ステークホルダー──特に、従業員と外注先・仕入先──を大切にしている企業の存在に気付きました。同時に、そんな企業が持っている共通項も見出しました。
その共通項こそが、「人を大切にする経営」です。より具体的には、「会社に関係するすべての人々を幸せにすることを目指す経営」と言えます。つまり、従来の日本企業が取り組んでいた経営スタイルのことなのです。
「株主」よりも、「社員や家族」を優先する
前述した『日本でいちばん大切にしたい会社』によると、「人を大切にする経営」の定義は、次の「五人に対する使命と責任を果たすための活動」とされています。
「使命と責任」とは、
- 幸福の追求
- 幸福の実現
のこと
その対象となる五人は、
- 社員とその家族
- 社外社員(下請け・協力会社の社員)とその家族
- 現在顧客と未来顧客
- 地域住民、とりわけ障害者や高齢者
- 株主・出資者・関係機関
です。
この数十年、日本では「5.株主・出資者」が最重要視され、効率・効果の極端な追求がなされてきました。その負担は現場や下請け・協力会社に重くのしかかり、働く人々は疲弊しきっています。
しかし本来であれば、企業は関わる人々を幸せにするために存在し、そのための取り組みの結果として利益獲得がなされ、最終的に株主・出資者も幸せになるというのが、正しい経営の在り方です。
だとすれば、企業が最も幸福を追求すべきなのは、一から四の人々に対してということになります。働く人たちのメンタルヘルスが社会問題になっている今こそ、経営者には「人を大切にし、幸せにする経営」が求められているのです。
こうした経営への取り組みは、既に海外でも始まっています。2019年8月、米主要企業の経営者団体であるビジネス・ラウンドテーブルは、「株主第一主義」を見直し、従業員や地域社会などの利益を尊重した事業運営に取り組むと宣言しました。世界的に見ても「人を大切にする経営」が求められているのです。*
* 出典:『日本経済新聞』2019年8月20日(夕刊)
あなたの会社は、人を大切にしているか?
このような社会的背景を受け、坂本氏は「人を大切にする経営」を日本の経営者に広めるべく、2014年に「人を大切にする経営学会」設立。また、設立前の2011年から「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」を開催し、これは今日まで、年1回のペースで実施されています。
同大賞では、第1回から経済産業大臣賞、中小企業庁長官賞が設けられ、第3回からは経済産業省、中小企業庁、中小企業基盤整備機構等も後援するようになりました。2019年に行われた第9回では、さらに厚生労働省、日本政策投資銀行、日本商工会議所なども後援団体として名を連ねています。
現在は主催団体となった「人を大切にする経営学会」では、毎年「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」への応募企業を募集していますが、応募資格は、過去5年以上にわたって、以下の6つの条件に全て該当していることです。
あなたの会社は、6つの条件に当てはまるでしょうか?
- 希望退職者の募集など人員整理(リストラ)をしていない
- 仕入先や協力企業に対し一方的なコストダウン等していない
- 重大な労働災害等を発生させていない
- 障がい者雇用は法定雇用率以上である
- 常勤雇用45.5人以下の企業で障がい者を雇用していない場合は、障がい者就労施設等からの物品やサービス購入等、雇用に準ずる取り組みがあること
- 本人の希望等で、障がい者手帳の発行を受けていない場合は実質で判断する
- 営業利益・経常利益ともに黒字(除くNPO法人・社会福祉法人・教育機関等)である
- 下請代金支払い遅延防止法など法令違反をしていない
必要なのは、対価を払い続けられる「経営基盤」
今回のマンガでご紹介した会社では、「人を大切にする経営」が少しずつ根付き始め、一人ひとりが同僚を想いながら、イキイキと働きはじめました。
社員たちを変えたのは、「自社に関わるすべての人々を幸せにしたい」という経営者の本気です。ここでいう「すべての人々」には、社員のみならず、その家族、社外社員(下請け・協力会社の社員)とその家族、顧客、さらに地元住民までも含まれます。こうした人々の幸福を追求・実現するためには、少なくとも社員とその家族、さらに社外社員とその家族が、満足できる対価を払い続けるだけの経営基盤が必要です。つまり、基盤となるビジネスモデルが必要になるのです。
事実、坂本氏の著書『日本でいちばん大切にしたい会社』で紹介されている企業は、他社と大きく差別化できる強みを有しています。そうした強みは大抵、効率的経営による拡張路線から外れるため、一般的な経営感覚では敬遠されがちなものです。
さらに、こうした企業はいずれも、女性、高齢者、障害者の雇用に力を入れています。現代のビジネス常識からすると、一見、非効率とも思えますが、経営者が本気で「五人に対する使命と責任を果たすための活動」に取り組むことで、従業員のやる気やモチベーション、潜在能力が引き出され、さらなる強みの維持と創生という好循環を生みだすのです。
記事の末尾に、前述の書籍に掲載された企業名を紹介しています。経営者がどのような経営に取り組み、強みの維持と創生の好循環を生み出したのか、各社のホームページなどでぜひ確認してみてください。
「強く、優しい」経営者こそ、真の経営者
「人を大切にする経営」の実現には、経営者の本気と、強いビジネスモデルが前提となります。
しかし、ビジネスモデルが確立できるまで、取り組まなくて良いということではありません。
「強くなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない」とは、ハードボイルドの巨匠レイモンド・チャンドラーが、著作『プレイバック』の中で、探偵のフィリップ・マーロウに語らせた言葉です。「人を大切にする経営」に求められるのも、こうしたマインドではないでしょうか。
「日本でいちばん大切にしたい会社」掲載企業の例
※社名をクリックすると各社のホームページが開きます。