闘いつづける経営者たち
「伊藤 雅俊」味の素株式会社(第2回)
02.各国・地域で異なるアプローチ
アフリカや中東で大きく伸ばす
昨今、国内市場を安定的な収益基盤とし、大きな成長を海外に期待するというのが日本企業の大きな流れだ。味の素もそうした企業の一つ。「その国・地域で徹底的に市場調査を行い、長い時間をかけて、定着してきた」と伊藤雅俊社長はいう。
2011年度から始まった中期3カ年計画で、期間中の海外の平均成長率は10%を超える。タイやインドネシアなどこれまで中心的に取り組んできた地域では、従来どおり毎年10%伸ばす計画。これに対しアフリカ、中東、南アジアなど新たに進出した国々で、大きく伸ばす戦略だ。国内の足場を確固たるものとし、その上で海外市場がけん引役となる。
その戦略の一つが、調味料開発における先進国と新興国での異なる技術的アプローチだ。先進国は過剰栄養と言われている。取りすぎている糖分や塩分は減らし、その上でおいしく提供できる技術が必要になってくる。逆に栄養不足が問題の新興国では、調味料によってローカル食材をおいしくし、量を食べてもらうことを念頭に置く。そのためには使いやすく、安く供給する技術が必要だ。また国によって味の好みが違うため、これらを研究し各国に合う商品を開発、提供する。
既存国向けの新たな調味料
古くから事業展開する国々での課題は、主力商品のシェア拡大と収益性の向上だ。うま味調味料「味の素」が定着してきている地域では、風味調味料で新たな市場を開拓している。風味調味料とは、魚、肉、野菜のエキスに香辛料やうま味調味料、塩などをブレンドした調味料だ。“うまみ”という世界で共通する価値を提案してきた「味の素」に対して、徹底して各国の食文化を調査し"現地適合"を戦略の柱とするのが風味調味料。例えば北米や欧州では日本食、中華料理などエスニック食市場が拡大している。そこで外食産業向けを中心に中華料理用のチキンパウダーや、日本ではだしとして使用する「ほんだし」を風味調味料と位置づけて販売する。
今後、アジアでの需要拡大が期待されるため、タイ工場の生産能力を増強しているところだ。北部にあるカンペンペット第2工場に約93億円を投じて、2013年に稼働する予定。風味調味料の原材料となる核酸系調味料を生産する拠点だ。ここで製造する調味料はタイだけでなく、インドネシア、フィリピンなどにも供給する。
現地の人材育成が課題
地域中核拠点をハブとし、周辺国は垂直に立ち上げる方針だ。さらに「味の素」に留まらず、開拓の起爆剤となる商品を投入する。例えばナイジェリア向けに「MaDish」という商品を開発した。同国はスープやシチュー、炊き込みご飯をよく食べる食文化があり、それぞれの料理に合わせた3種類を投入した。
伊藤社長は今後の海外事業について「今は中国など変化のスピードがはやくなっている。それに合わせてこれまでかけていた時間を短縮する必要がある」と指摘する。フィリピンなど50年以上やっている国は普及するのに10年かかった。「これまで現地で先導して仕事を進めてきたのは日本人社員だ。これからは現地の社員が主体になって仕事をする体制を整える必要がある」と課題を掲げる。人の現地化が、海外展開のもう一つのカギを握っている。
プロフィール
伊藤 雅俊 (いとう まさとし)
1947年、東京都生まれ。1971年慶應義塾大学経済学部卒、同年味の素入社。95年食品部長、99年取締役、05年常務執行役員、06年食品カンパニープレジデント。創業100年目にあたる09年に社長に就任した。グローバルな仕事がしたいと味の素を選んだ。本流の食品部門を歩み、海外企業の買収や提携で手腕を発揮。趣味は料理。和洋中とレパートリーは広いが、食材を無駄なく使い切る料理を心がける。
企業データ
- 企業名
- 味の素株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1925年12月17日
- 資本金
- 798億6300万円
- 従業員数
- 単体3,310名 連結28,084名
- 所在地
- 〒104-8315 東京都中央区京橋一丁目15番1号
- 事業内容
- 食品製造販売
掲載日:2011年12月8日