ビジネスQ&A
コロナ禍を経てもなお、中小企業にSDGs対応は必要でしょうか?
2023年 6月 2日
コロナ禍を経てもなお、中小企業にSDGs対応は必要でしょうか? この混乱の中、SDGsの取り組みを前進させた中小企業の実例や、今から中小企業がSDGs対応を始める方法などについて教えてください。
回答
2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すための目標であるSDGsの本質的な重要性は、コロナ禍を経ても変わるものではありません。ここ数年の社会におけるサステナビリティ意識の高まりを見れば、その重要性はむしろ増しているといえそうです。企業においては、SDGsへの取り組みが、顧客の確保、資金の調達、人材の獲得など多くの場面に影響を及ぼすようになっています。
サステナビリティ意識が高まる中、企業に多くの好影響をもたらすSDGs対応
新型コロナウイルスの感染拡大から3年あまり。コロナ対応に追われた当初は、企業を含む社会全体でSDGsへの取り組みが後手に回りがちになったようにも見えました。しかし現在、コロナ以前にも増して多くの企業がSDGs対応に力を入れています。改めて、SDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)とは、その名の通り「持続可能な世界」の実現に向け、世界各国の政府、企業、個人が取り組むべき目標として、2015年の国連サミットで採択されたものです。ただし、各社におけるSDGsへ取り組みが加速しているのは、その本質的な重要性だけが要因ではないでしょう。
コロナ禍を経て「健全な日常生活や経済活動を続けていくには、健全な社会基盤が欠かせない」という認識が広がり、一般消費者を含めた社会全体でサステナビリティ(Sustainability/持続可能性)に対する意識が高まりました。その結果、持続可能性の向上を目指すSDGsに取り組むことで、日々の事業活動でもより多くのメリットが期待できる環境になっています。
例えば、企業がSDGsに掲げられた多様な目標のいずれかに取り組んでいることを公表すれば、当該分野に関心があるステークホルダーから共感を得やすくなるでしょう。そうした共感が企業価値の向上をもたらし、新規顧客の獲得や新たな取引先の開拓にもつながることが期待できます。さらに、人材募集の際などにも選択されやすい企業にもなるでしょう。つまり、新たなステークホルダーとの接点ができ、自社の活動の範囲が広がるというメリットが見込めます。
もう一つ、「リスク対応」という視点から考えることもできるでしょう。近年では、環境や労働問題など、サステナビリティ全般に関するステークホルダーの要求水準も上昇しており、投資対象を選ぶ際に、環境(environment)・社会(society)・企業統治(corporate governance)を考慮するESG投資も広がりつつあります。また、企業における環境負荷低減の取り組みが進む中、取引先にも適正な対応を求める企業も増えました。持続可能性の向上を目指すSDGsの視点から、自社の活動や課題を見直し、ステークホルダーとの接点について考えてみることは、顧客の喪失や資金獲得機会の喪失を未然に防ぐ機会にもなり得るといえます。
SDGsへの取り組みは、自社事業の発展との同時達成が可能
コロナ禍の前後で社会が大きく変化した結果、日本企業におけるサステナビリティ対応にも、目標や取り組み方について違いが出てきました。コロナ禍以前の国内中小企業のサステナビリティ関連活動に関しては、主に「環境」に対する取り組みに焦点が当たってきた観がありました。一方、コロナ禍を経た現在は、環境に限らず持続可能な社会の実現につながるより幅広い分野に取り組む企業が増えています。また、かつて「CSR」と呼ばれていた頃の企業の環境・社会分野の取り組みは、本業と切り離された慈善活動としての色合いが濃く出ていましたが、近年では事業活動と直結した経営課題・経営上の理念として、サステナビリティやSDGsの対応を掲げる企業も多くなっています。
その一例として、自社の事業を通じ、SDGのゴールの一つである「1.貧困をなくそう」への取り組みを進める車両デバイスメーカーを紹介します。車両の遠隔操作によりエンジンの始動を制御する機器を製造するこの会社では、自社の技術を、自動車ローンの審査が通らない与信弱者の自動車購入を支援するために活用しています。
具体的には、金融機関や信販会社と提携した上で、ローンの支払いが滞った場合には一定条件の下で遠隔操作によりエンジン始動を制御し、支払いが完了すれば制御が解除されるという仕組みを構築することにより、与信弱者であっても車両を購入し、タクシードライバーなどとして営業することを可能にしました。働く意思があっても現実的には難しい人々に貧困を脱出する糸口を提供しています。同社では、この取り組みを広く社内外で共有。結果、共感する人々が増加し、取引先の拡大や従業員のモチベーション向上などの効果が得られているということです。
SDGsでは、よりよい社会の実現を目指し、多彩な分野にわたる17のゴールや、各ゴールに対して169の具体的なターゲットを設定しています。これらは現在、世界各国が抱えている社会的な問題点を表すものであり、企業にとっては「事業を行う上でその目的に反しないよう留意すべきもの」であるだけでなく、「事業を通じてその解決に貢献できるもの、つまりビジネスの可能性を示すもの」であるといえるでしょう。
まずは自社の事業がどんな社会課題の解決に寄与しているかを考える
とはいうものの、具体的にどのような形でSDGsを経営に取り入れていけば良いのか、迷っている企業も多いでしょう。そこで第一歩として、中小企業にも気軽に取り組みやすい方法をご紹介したいと思います。
まずは、自社が最も注力している事業、主力製品、サービスなどがSDGsのどの分野に貢献しているか、分析してみるといいでしょう。意識していなくても、これまでの自社の事業活動がどこかでSDGsの目標に当てはまっている可能性は少なくありません。まずはそうした分野を発見し、その事実を社内外で共有することをおすすめします。あわせて、サプライヤーの事業活動についても分析するなど、自社のサプライチェーン全体についても考えてみましょう。これにより、自社がこれまで注力してきた活動の社会的意義が広く再認識されることになり、従業員のモチベーションアップなどにもつながるでしょう。従業員へ意識の浸透を図るため、SDGsに関する事項について、定期的に情報を共有したり、意見交換を行ったりすることも、活動の活性化につながり、継続する上で効果的だと思います。
このように自社事業を後からSDGsに紐付ける方法を必ずしも良いと感じていない声もあると聞くことがありますが、リソースに余裕があるわけではない中小企業にとっては、取り組みの第一歩として一定の価値はあると考えます。その後、より本質的な活動を開始するにあたっては、経済産業省が発行している「SDGs経営ガイド」なども参照しながら進めていくと良いでしょう。ある程度の実績ができたら、SDGs達成に資する優れた取り組みを行う企業・団体などを表彰する「ジャパンSDGsアワード」などに挑戦してみてはいかがでしょうか。仮に受賞すれば、より高い社会的評価を得ることができます。
繰り返しにはなりますが、今後、企業におけるサステナビリティ対応は、企業価値の向上、顧客の獲得・維持、資金調達、人材確保など、企業の活動のあらゆる面においてより重要になってくるはずです。SDGsは現在、世界が直面する課題が分かりやすい形でまとめられ、その分野も幅広い領域にわたるものですので、どこかに自社と関わりのある部分があるはずです。まずは無理をせず、継続を目標としながら、取り組みをスタートしてみてはいかがでしょうか。
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中小企業診断士 青山 誠