ビジネスQ&A

カーボンニュートラルにはどのように取り組んだらよいでしょうか。

2021年 7月13日

製造業を営んでおり、工場で電気やガスを使用しています。最近、カーボンニュートラルという言葉をよく聞きますが、どのようなことをいうのか、また、どのように取り組んだらよいのでしょうか。

回答

温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにすることをいいます。エネルギーを使用することにより発生する二酸化炭素を削減することが必要です。まずは従来を上回る大幅な省エネルギーです。次に、再生可能エネルギーにより発電された電力の購入、または、それに代わる証書の購入などが考えられます。中期的には、水素など政府の「成長戦略」14分野の中から実施可能となる新技術の導入などがあります。

1.カーボンニュートラルとは

自然災害が激甚化するなどの状況の中で、地球温暖化に伴う気候変動に対する危機感が世界中で強まっています。その地球温暖化の原因は温室効果ガスとされています。

気候変動に関する国際機関IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2018年に報告書を発行しました。その中で、世界の平均気温の上昇を産業革命以前とくらべ1.5℃を大きく超えないようにするためには、「世界全体の人為起源の二酸化炭素(以下、CO2)の正味排出量を、2030年までに2010年水準から約45%減少し、2050年前後に正味ゼロにしなければならない」と記されています。

そのようなことを背景として、2020年10月に、菅総理は次のような所信表明演説をしました。
「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」

ここで「全体としてゼロにする」とは、温室効果ガスについて、排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにすることを意味します(図1)。つまり、排出を完全にゼロに抑えることは現実的に難しいため、排出せざるを得なかった分については同じ量を「吸収」または「除去」することで、差し引きゼロを目指しましょう、ということです。

「吸収」は植林を進めて光合成に使われる大気中のCO2の吸収量を増やすことなどをいい、「除去」は、CO2を他の気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入する(CCS)等の方法をいいます。

また、2021 年4月には、政府から、2030 年度の新たな温室効果ガス削減目標についても、「2030 年度には、2013 年度から46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける」と示されました。これは、2015年にパリ協定にもとづき日本が公表した「2030年度までに2013年度比26.0%削減」を大幅に上回る目標です。

なお、カーボンニュートラルはSDGsの次の目標に相当します。
目標 7:すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代エネルギーへのアクセスを確保する。
目標13:気候変動およびその影響を軽減するための緊急対策を講じる。

図1 温室効果ガスの内訳と「全体としてゼロ」の意味

2.カーボンニュートラルにする方法

(1) エネルギー起源のCO2削減が必要

2018年度の我が国の温室効果ガス総排出量は、約12.4億トンCO2 でした。「エネルギー起源のCO2 排出量」は10.6億トンと温室効果ガス総排出量の85%を占めていました。(図1) 「エネルギー起源のCO2」とは、発電、運輸、および産業、家庭での加熱など、化石燃料をエネルギー源として使用する際に発生する二酸化炭素です。

(注1)エネルギー起源でないCO2には、セメント製造の際に原料の石灰石から発生するCO2などがあります。

したがって、温室効果ガス排出量を減らすには、エネルギー起源のCO2を減らす必要があります。
CO2発生源を非電力分野と電力分野に分け、CO2削減の方策を整理すると図2のようになります。
電力分野は電力会社等による発電に関することですので、ここでは民生、産業、運輸を含む非電力分野について考えます。

図2 エネルギー起源のCO2排出量を減らすための方策

(2) さらなる省エネルギー

省エネルギーは、いわゆる「節約」だけではありません。代表的な省エネルギー対策である、蛍光灯等からLED照明への変更、流量調整方法としてのバルブからインバーターへの変更、およびヒートポンプを使用した廃熱回収などは数十%のエネルギー削減効果があります。

そのような省エネルギー効果の大きい手法は、公的機関(省エネルギーセンター、一部の自治体)による省エネ診断を受診することで的確に抽出できます。

カーボンニュートラルのための設備投資に関しては、経済産業省や環境省の補助金交付事業があります。経済産業省の事業は令和3年度に構成が大きく変わっている(「オーダーメイド事業」の創設など)ので内容を確認されるとよいでしょう。⇒参考(1)

電気や燃料の現在の使用量、また、省エネルギーによる削減効果をCO2の量に換算するには、環境省が公表している「温室効果ガス排出量の算定方法」を参考にしてください。省エネ診断では、ほとんどの場合、報告書にCO2の量も記載しています。

(3) 再生可能エネルギーの利用

再生可能エネルギーには、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどがあります。
太陽光、風力などのように、再生可能エネルギーは電気に変換して使用するのが使いやすく現実的となります。そのような脱炭素化された電力を使用するのが一つの方法です。
最も着手しやすい太陽光発電については、太陽光発電協会のサイトを参考にしてください。太陽光発電による電気は、まずは自家消費が第一の選択肢でしょうが、電気を売る場合には、2022年度から従来の固定価格買取制度に加え市場連動型の制度が加わるのでご注意ください。⇒参考(2)

自社の事業所で発電し、消費する以外に次の方法があります。
①再生可能エネルギーで発電した電気を小売電気事業者から購入する。⇒参考(3)
②グリーン電力証書やJ-クレジットなど、再生可能エネルギーの環境価値を購入する。

以上は電気に関することですが、工場や大型ビルでは化石燃料を熱の用途で大量に使用しているところがあります。そうしたところでは中期的に「合成メタン」への置き換えなどが考えられます。合成メタンは、CO2と水素を反応させて製造します。合成の段階でCO2を取り込んでいるため、合成メタンを燃焼して出るCO2と相殺され、CO2排出ゼロとみなされます。

(4) 吸収、除去

減らしきれないCO2に対して、図2で植林、DACCS,BECCSを挙げています。
このうち、植林については、林業に関係しない事業者にとっては、植林をする森林所有者等が創出するJ-クレジットを購入することが現実的です。
DACCSは、大気中にすでに存在するCO2 を直接回収して貯留する技術、BECCSはバイオマス燃料の使用時に排出されたCO2を回収して地中に貯留する技術です。いずれも実用化後であっても、個々の事業者が実施するのではなく、大規模な事業体が実施し、国全体の正味排出量ゼロに寄与することになると思われます。

(5) グリーン成長戦略の14分野

再生可能エネルギーの利用には様々な障害があります。太陽光、風力など自然エネルギーによる発電は電力の変動が大きく、系統電力に接続された一部地域では、電力需要の減ったときに自然エネルギーの発電を中止する事態も生じています。そこで注目されるのが水素です。水素は貯蔵、運搬ができるため、再生可能エネルギーで発電した電気で水を電気分解し、水素を発生させ、貯蔵、運搬すれば、都合の良い時間と場所で水素を使用できます。⇒参考(4)

水素のほかにカーボンニュートラル実現のために取組が不可欠な分野があります。政府はそれらを「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」として図3に示す14分野を挙げ、各分野を選定した理由や開発すべき課題や目標とする市場規模、コストなどを示しています。(3) で述べた合成メタンも11番の分野に含まれています。

図3からわかるように、この14分野は幅広い業種を含んでいます。いずれかの分野にかかわることにより新たなビジネスチャンスを見出す可能性もありますので、その進展を今後も注視するのがよいでしょう。⇒参考(5)

図3 グリーン成長戦略の14分野

3.事業者の取組に関する枠組みー規制と自主的活動

(1) 規制—CO2排出量の報告、削減目標、価格付け

現在は、一定量以上(原油換算1,500kL/年)エネルギーを使用する事業者に対して、省エネ法はエネルギー使用量を、温対法はCO2排出量を国に報告することを定めています。
省エネ法は、それら事業者に対し、エネルギー消費原単位(注2)削減の目標を示し、その達成度の報告を求めています。その達成度の計算などの過程で、電気については、再生可能エネルギー化が進む電源構成を反映させることが必要ではないか、と審議会で議論されています。

(注2)エネルギー使用量を生産数量又は建物床面積その他のエネルギー使用量と密接な関係をもつ値で除した数値

現在のところ、国として事業者に対しCO2排出量削減に関し目標をもうけてはいません。しかし、欧州や日本の一部自治体(注3)では、キャップ・アンド・トレードといわれる制度を採用しています。この制度は国などが事業者などに対し排出量の上限をもうけ、事業者はそれに対し、余剰排出量や不足排出量を売買する仕組みです。この排出量取引は炭素税とともに、カーボンプライシング(注4)として今後も採用の可否が議論されていきそうです。

(注3)東京都と埼玉県
(注4)CO2の排出に価格を設定すること

(2) 自主的活動

一部の企業は自主的にSBT , RE100など国際イニシアチブに加盟し、温室効果ガス削減や再生可能エネルギー利用に関し、目標を設定、開示,実行し、承認・認定を受けています。

SBT,RE100は海外のイニシアチブではありますが、環境省はRE100に参加していますし、SBT等の達成に向けたGHG排出削減計画策定ガイドブックなども発行しています。

また、環境省発行の 「 中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック 」では、SBTに参加した中小企業の例なども紹介されています。同ハンドブックで紹介されているように、サプライヤーに脱炭素に関する情報開示などを求める大企業も増えています。国等からの規制を含む公的な枠組みができる前に、これらイニシアチブを利用するなどして、他社に先んじて脱炭素活動に着手することが必要でしょう。

参 考

(1) 経済産業省の補助金の窓口は 一般社団法人 環境共創イニシアチブ

  環境省の補助金の窓口は 一般社団法人 温室効果ガス審査協会

(2) 再生可能エネルギー 固定買取制度等ガイドブック 2021年度版

(3) 再生可能エネルギー起源の電気を含む電気を販売する小売電気事業者の全国版の一覧表は見当たりませんが、東京都は都内に電気を供給している小売電気事業者の東京都エネルギー環境計画書制度 対象電気事業者一覧表
を公開しています。都以外に本社のある会社も多数含んでいます。

(4) 中小機構 J-Net21 > 省エネQ&A『水素エネルギーとは』で4回にわたって水素について記しています。

(5) 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(p.28~91に14分野の記載あり)

(6)その他資料

回答者

エネルギー管理士 本橋 孝久