ビジネスQ&A
外国人旅行者のマナーと日本人客との摩擦への対策方法を教えてください。
観光地で温泉旅館、土産物店など複数の施設を経営しています。当社の施設でも積極的に外国人旅行者を受け入れたいと思いますが、現場の従業員からは、言葉だけでなく、マナーに関する日本人客との摩擦を懸念して躊躇する声が聞かれます。言葉や文化が異なる来訪者と従来からの日本人客、双方に喜んでいただくには、どのように対応すればよいでしょうか。
回答
旅行先の慣習やマナーが守れない旅行者は全体の中の一部ですが、マナー関連のトラブルの発生を最小限に抑えるには、「マナーを守る」客層を中心に集客する、「マナーを知ってもらう」、「マナーを守らない状況」を作らないといった対応策を検討します。
【マナーに関する問題の現状】
外国人旅行者をお客様として受け入れるにあたり、特に宿泊業においては、慣習やマナーの違いによる問題を心配する経営者の方がいらっしゃいますが、実際には日本の慣習やマナーを尊重して行動する意思のある外国人旅行者がほとんどです。
外国人旅行者を受け入れる旅館を対象とした調査でも、「外国人宿泊客の受け入れで発生したトラブル、問題点」を尋ねたところ、下記のとおり、現場での対応に関するトラブル、問題点があったと回答した旅館は、2割またはそれ以下でした。
言語対応でのトラブル |
20.0% |
浴場の利用方法でトラブルが発生した |
12.9% |
食事・料理内容や対応でのトラブル |
10.8% |
急病に対して対応 |
5.5% |
宗教上でトラブルが発生した |
3.1% |
出典:国土交通政策研究 第119号 旅館ブランドに関する調査研究
~旅館経営者の外国人旅行者受入の実態と外国人宿泊客から見た「Ryokan」~
(2014年10月 国土交通省 国土交通政策研究所 旅館ブランド研究会)より、筆者が一部抜粋
外国人旅行者にサービスを利用していただく可能性があるにも関わらず、マナーなどのトラブルを懸念して受け入れを躊躇するのは、売上増加の機会を逃してしまうことになります。
【マナーに関する問題への対応】
マナーに関するトラブルの発生を最小限に抑えるには、次の3つの方法で対応します。
1.「マナーを守る」客層を中心に集客する
旅行先のマナーが守れない理由の1つ目は、自身が住んでいる地域と旅行先(外国)は慣習やマナーが異なる可能性があることを、旅行者が認識していないことです。
一方、外国旅行の経験を重ねた旅行者の多くは、旅行先の慣習やマナーを知り、尊重して行動する必要性を理解しています。まず、第一に、旅慣れた旅行者をターゲットとした集客・販促活動を行います。旅慣れた旅行者の特性として、一般的に次のような傾向がみられますので、このような特性に応じた営業・販売方法を検討します。
- 個人旅行をする
- (母国語でなくても)「英語」が、ある程度理解できる
- 所得レベルが高い層ほど、外国旅行の経験が豊富
また、団体旅行をする場合は、外国人であれ、日本人であれ、集団の内部に意識が向き、どうしても、集団の外のルールやマナーを尊重する配慮が欠けやすくなります。さらに、何らかのマナー違反の行動があった場合に、その人数が多いほど、周囲の他のお客様への影響も大きくなりがちです。
2.「マナーを知ってもらう」
マナーが守れない理由の2つ目は、「マナーを知らない」場合です。マナーを尊重する意思があっても、マナーを知らなければ守れませんので、受け入れる側で日本ならではの慣習やマナーは、あらかじめお客様に説明する必要があります。
予約時やチェックイン時に、滞在中のマナーやルールを記載した外国語の案内を渡したり、団体旅行の場合には、予約元の旅行会社や引率の添乗員、ツアーガイドから、お客様へ周知してもらうように念押しします。
大浴場の使用方法など、特に日本独特の慣習については、浴場だけでなく、チェックイン時や客室など、複数の場所で案内するのが、より確実です。また、細かな点は施設により多少異なることもあり、旅慣れた旅行者でもマナー違反になっていないか不安を感じることもありますので、館内での案内により再確認できれば、より安心して楽しむことができます。
3.「マナーを守らない状況」を作らない
最後は、マナーを知っているにもかかわらず、尊重できていない、あるいは、うっかりマナー違反の行動をしてしまう場合です。このような状況を防ぐために、以下のような対応策を取ります。
- 大浴場など、マナー面の問題が発生しそうな場所、時間帯は、できるだけ頻繁に従業員が見回りをし、戸惑っている様子のお客様には、声をかける。マナーが守れていないお客様がいる時は見てみぬふりをせず、日本語でもよいのでマナーを守ってもらうようにお願いをする。
- 日本人のお客様へは「何か気になること、困ったことがあれば、すぐに従業員を呼んでほしい」とあらかじめ声をかけることで、対応が必要な状況を早い段階で発見し、影響を最小限にとどめる。
- 持ち帰られては困る備品については、持ち帰りづらい、できない仕様にする備品や什器に変更する。
外国語での案内の作成や現場での対応など、これまでは必要がなかった費用や手間がかかるかもしれませんが、新しい市場から、これまでとは異なるタイプのお客様を獲得し、売上増加を図るにあたり、これまでと全く同じやり方で、何もしなくても上手くいくというわけにはいきません。新規市場開拓に必要な投資と前向きに考え、より多くのお客様に利用していただくことで、投資やコストに見合った収益を目指しましょう。
- 回答者
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中小企業診断士 井上 朋子