法律コラム
改正民法(第2回)ー共有制度の見直しー
2023年 8月 30日
1.共有とは
共有とは、不動産や動産(自動車など)を複数人で共同所有することです。複数人でお金を出し合って、不動産等を購入する場合は、出した金額に応じた共有状態になります。また、一人で不動産を所有していても、その人が亡くなり、相続が生じたことにより、複数の相続人間で共有する状態になることもあります。
中小企業では、個人事業主の場合に問題が生じがちです。個人事業主が亡くなり、相続が発生したものの、事業用の土地建物を売却するわけにはいかないため、事業を引き継ぐ子どもと、そのほかの子どもとで、共有の状態になってしまうことがあります。
従来の民法では、共有状態が足かせとなることもありましたが、今回の改正により、共有物が使用しやすくなった面もあります。詳しくみていきましょう。
2.共有者間の法律関係の明確化
次の様な事例で考えてみましょう。
料理店を営むAさんが亡くなり、跡取りのBさんのほか、Cさん、Dさんが相続人になりました。3人はAさんの子どもです。遺産分割をした結果、料理店兼住宅の土地と建物は、売却するわけにはいかなかったため、Bさん、Cさん、Dさんの3人で等しい割合(3分の1ずつ)で共有することになりました。実際に料理店兼住宅の土地と建物を使用するのは、Bさんだけです。Bさんは料理店の経営を引き継いで、利益を上げ続けています。
このような状態だと、Cさん、Dさんが不満を抱いてしまい、争いになりがちです。不動産を共有している場合、「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。」と民法249条1項に定められていることから、Cさん、Dさんも土地と建物を使用する権利があるわけです。
そこで、Cさん、DさんがBさんに対して、土地と建物を使用していることによる対価を寄こせと請求することも起こりうるでしょう。従来の民法の条文には、Cさん、Dさんにそのような請求をする権利があるのかはっきりしていませんでしたが、判例は、Cさん、Dさんの主張を認めていました。(最判平成12年4月7日)
物権法改正により、この判例が明確化され、民法249条2項に、「共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。」との規定が置かれました。
「別段の合意がある場合を除き」というのは、話し合いにより、Bさんが単独で土地と建物を使用して、料理店を営み利益を上げることをCさん、Dさんが黙認することで合意していたような場合です。そのような合意がない場合は、Bさんは、Cさん、Dさんに対して、土地と建物を使用することによる対価(自分の分を除いた対価です)を支払う義務が生じることになります。
なお、別段の合意は、「明示の合意がされていなくても共有者間の暗黙の了解」がなされている場合でもよいとの解釈もありますが、Bさんが、Cさん、Dさんから対価の支払いを求められないようにするためには、覚書などの文書を交わしておいたほうが確実でしょう。
ところで、Bさんは、Cさん、Dさんの持分との関係では、他人の土地建物を使わせてもらっている状態になります。そうした状態で、Bさんが例えば火事を出してしまい、建物を全焼させてしまったような場合に、Cさん、Dさんに対して賠償する義務はあるのでしょうか。
従来の民法では、Bさんが責任を負うのか不明確でしたが、物権法改正により民法249条3項に、「共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない。」との規定が設けられました。
「善良な管理者の注意」と言うのは、他人の物を使用する場合は、自分の物を使用するよりも注意して扱いなさいと言う意味です。もしも、他人の物を壊してしまった場合は、賠償義務が生じます。よって、Bさんが火事を出してしまった場合は、Cさん、Dさんに対して、損害賠償義務を負うことになります。
3.共有建物の大規模修繕をするには、他の共有者の同意が必要か
上記のBさんとCさん、Dさんの事例で考えてみましょう。Bさんは、料理店兼住宅の建物が古くなったために、大規模修繕工事をしようと考えました。大規模修繕後も、引き続き、料理店兼住宅として使用し続ける予定です。このような場合、Cさん、Dさん双方から同意を得ないといけないのでしょうか。従来の民法には次のような条文が置かれていました。
「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。」(民法251条)
「共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。」(民法252条)
共有物の「変更」は、共有者全員の同意が必要。共有物の「管理」なら、共有者の過半数で決めてよい。と定められていたわけです。
共有物の「変更」は、例えば、建物を完全に壊して別の建物を建てるような場合です。上記の事例で言えば、料理店兼住宅を壊して、跡地にマンションを建てる場合は、変更に当たります。一方、共有物の「管理」は、建物の用途を変えないで管理することですから、一般的には大規模修繕などが該当すると考えられていました。
しかし、「変更」と「管理」の区別はあいまいで、判例もはっきりしていませんでした。そのため、大規模修繕のように一般的には「管理」に当たると考えられる事例でも、慎重を期して共有者全員の同意を求める。という扱いが実務ではなされていました。つまり、Bさんは大規模修繕するに当たり、Cさん、Dさん双方から同意を得なければならなかったわけです。
改正法では、民法251条が次のように改められました。
「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。」
条文にカッコ書きが追加され、「その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」は、共有物の「変更」に当たらない。つまり、「管理」だとはっきりしたわけです。大規模修繕工事はその代表例です。そのため、Bさんは大規模修繕するに当たり、CさんとDさんのいずれか1人の賛成を得ればよいことになります。
なお、この多数決は、「各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。」とされていますので、例えば、Bさんが6分の4の持分を相続し、CさんとDさんがそれぞれ6分の1の持分を相続していたのであれば、Bさんの持分だけで過半数を超えているため、BさんはCさんとDさんの同意を得ずに、自分の判断で大規模修繕してよいことになります。
個人事業主の相続対策では、後継者に事業に必要な資産のすべてを承継させられるように対策を講じておくことが望ましいとされています。すべての事業用資産を後継者に承継させられない場合でも、過半数を超える持分を承継させられるようにしておけば、大規模修繕などは、後継者が単独で行えるようになるということです。
4.共有土地に賃借権を設定するには、共有者全員の同意が必要か
別の事例で見ていきましょう。
甲土地はAさんが所有していましたが、Aさんが亡くなり、相続人のBさん、Cさん、Dさんの3人で等しい割合(3分の1ずつ)で共有することになりました。甲土地は広大な更地でしたが、近隣に総合病院が建設されることになり、病院を経営する乙医療法人から、甲土地を駐車場として借りたいとの申し出がありました。Bさん、Cさんは、乙医療法人に甲土地を貸すことに賛成していますが、Dさんはほかに有効な活用方法があると主張し、反対しています。このような場合、乙医療法人に甲土地を貸すことができるのでしょうか。
乙医療法人に甲土地を貸す場合は、乙医療法人と共有者であるBさん、Cさん、Dさんの間で賃貸借契約を締結することになります。この場合、共有土地の賃貸借契約が、共有物の「変更」と「管理」のどちらに当たるのかが問題になります。従来の民法下では、長期間の契約だと変更に当たるが、短期間の契約なら管理と解してよいという見解もありました。この見解に沿うにしても、では、どのくらいの期間なら短期間なのかという問題が生じてきます。
そこで、実務では、慎重を期して、賃貸借契約の期間に関係なく「変更」と解釈し、Bさん、Cさん、Dさん全員の同意を求めていました。よって、Dさんが反対している以上、乙医療法人に甲土地を貸すことはできなかったわけです。
それが物権法の改正により、短期間の賃貸借は、共有物の「管理」に当たることが明記されました(民法252条4項)。具体的には、次の期間を超えない賃貸借の場合となります。
- 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 10年
- 1. に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 5年
- 建物の賃借権等 3年
- 動産の賃借権等 6箇月
この期間は、民法602条の短期賃貸借と同じです。よって、上記の事例の場合、乙医療法人との賃貸借契約の期間が、5年以内であれば、共有物の「管理」に当たるため、Bさん、Cさんの賛成だけで、賃貸借契約を締結してよいことになります。
もう一つ事例を見てみましょう。
上記の事例で、5年が経過した後で、乙医療法人との賃貸借契約が終了しました。そこで、Dさんが兼ねてから考えていたプランを持ち出しました。ホテル運営会社丙社からホテルを建てるために甲土地を貸してほしいと持ち掛けられていたのです。この場合、丙社と賃貸借契約を締結することは、共有物の「変更」と「管理」のどちらに当たるでしょうか。
まず、ホテルを建てるために甲土地を貸すことは、「建物所有を目的とする土地の賃貸借」に当たるため、借地借家法3条により、最短期間が30年になります。賃貸借契約とは言え、かなり長い契約期間が設定されてしまうわけです。
改正前は、共有土地の賃貸借契約は、期間の長短に関係なく、「管理」に当たるとの説も成り立ちました。この解釈であれば、Dさんの他、Bさん、Cさんのどちらか一方が同意すれば、丙社と賃貸借契約を締結することもできました。しかし、実務では、長期間の賃貸借契約の場合は、特に慎重を期して「変更」と解釈し、Bさん、Cさん、Dさん全員の同意を求めていました。
改正後は、このような長期間の賃貸借契約は「変更」に当たることが明確になりました。よって、Bさん、Cさん、Dさん全員の同意がなければ、丙社と賃貸借契約を締結することができないということになります。
このように、共有の土地建物賃貸借は、短期間の契約は「管理」、長期間の契約は共有物の「変更」に当たることが明確になりました。短期間の土地や建物の貸し借りであれば、従来は、反対する共有者がいて貸し出せなかったような事例でも、円滑に行われるようになると考えられています。
監修
大滝行政書士事務所 行政書士 大滝義雄