法律コラム

改正民法(第1回)ー相隣規定の見直しー

2023年 7月 28日

主に物権法の分野を見直す民法改正法が、令和5年4月1日より施行されました。改正された点は、

  1. 相隣規定の見直し
  2. 共有制度の見直し
  3. 所有者不明土地管理制度などの創設
  4. 相続制度の見直し

の4点です。会社が所有したり、賃借している土地や建物に関係する規定なので、中小企業事業者にとっても、重要な意味があります。今回は、そのうち「相隣規定の見直し」について見ていきましょう。

1.相隣規定とは

「相隣規定」というのは、文字通り、隣近所との関係、とりわけ、隣り合った土地と土地の関係についての規定のことです。一般に土地の所有権については絶対的なものではなく、一定の制限があります。自分の土地とは言え、周囲に迷惑をかけるような使い方はできないということです。

自分の土地で工事をするために、隣の土地を一時的に少し使わせてもらうこともあるでしょう。逆に、隣から土地を使わせてほしいと頼まれることもあるかもしれません。そのような場合の一般的なルールが、民法209条以下の相隣関係に定められています。

しかし、今回の物権法改正により、相隣関係の規定が大きく変更されたというわけではなく、従前の民法においてあいまいだった部分が明確になった改正だったと言えます。

2.会社の隣地の木が伸び放題で越境している場合、勝手に切っていいのか?

会社では、社屋や工場の中だけでなく、周囲にも気を使っていると思います。たとえ、建物がどんなに立派でも敷地内の庭や駐車場が雑草だらけ、木が伸び放題で手入れされていないとしたら、会社のイメージまで悪くなってしまいます。そこで、外回りも手入れして、更には、敷地に面した道路の雑草刈りまで気を配る会社もあるでしょう。

また、自社の敷地内は、きれいにしても、近隣の敷地はどうでしょう。例えば、隣の土地が空き地になっていて、いつの間にか、雑草だらけ、よく分からない木が伸び放題で、ジャングルのようになっていたとしたら、どうでしょう。おまけに、枝が横に伸びて、自社の敷地にも越境していたとすると、せっかく、自社の敷地をきれいにしても台無しです。

従前の民法ではそのような場合に、「隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる」としか規定していませんでした(改正前民法233条)。竹木の所有者は、たいていの場合、隣地の所有者ということになります。隣地の所有者が分かるなら、木を切ってくださいと言えますが、そう言う土地に限って、所有者が誰なのか分からないことが少なくありません。隣地の所有者が分からなければ、伸び放題の枝が越境していようが、勝手に切ることはできないという建前でした。

しかし、これでは、越境されている土地の所有者としては困ります。そこで、越境されている土地の所有者が、隣地の竹木の枝を切っていい場合が明確に定められたのです。次の様な場合です。

  1. 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
  2. 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
  3. 急迫の事情があるとき。

(改正後民法233条より抜粋)

手入れされていない隣地の所有者が誰だか分からない場合は、自社の敷地に越境している枝を切り取ってよいことになりました。また、「3. 急迫の事情があるとき。」とは、例えば、枝が張り出して、電線を覆いそうになっている場合などです。このような場合も、放置すると危険なので、越境されている土地の所有者が隣地の竹木の枝を切ってよいことになりました。

ただ、切り取れる範囲は、「境界線を越える竹木の枝」に限られることに注意が必要です。隣地に入り、その木を根元から切り倒してしまうことは、原則として、認められていません。

3. 自社ビルの工事で隣の敷地を使わせてもらいたい。でも、拒否されたら?

都市部では、隣地との境界ぎりぎりまで使ってビルが建てられていることも珍しくありません。ビルの外壁工事を行なったり、空調設備、給水設備などの交換や修理といった工事をするには、足場の架設で、隣地を使用させてもらうしかないことも多いと思います。その様な場合、一般的には、ビルの所有者や工事関係者が、隣地の所有者等へあいさつに伺うと思います。もしも、この時、隣人が「うちの土地を使わせない」と拒絶したらどうなるでしょう。

従来の民法では、「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる」としか規定していませんでした(改正前民法209条)。

つまり、隣人の承諾が必要なのか、隣人が拒否したら、隣地を使用できないのか。条文上は、はっきりしていませんでした。そこで、この辺りのことを明確にするために、今回条文の改正が行われました。改正後は次のように規定されています。

土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。

  1. 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
  2. 境界標の調査又は境界に関する測量
  3. 隣地の竹木の枝が境界線を越えるときの枝の切取り

(改正後民法209条より抜粋)

「隣地を使用することができる」とあるとおり、隣地使用権が明確に規定され、さらに、隣人の承諾も得なくてよいことが明確になりました。ただし、無断で隣地を使用していいわけではなく、「あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない」と規定されています。

つまり、通知さえすれば、これに対する隣人の承諾は必要ではありません。あらかじめ通知することが困難なときも、「使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる」と規定されています。

4.ライフラインを自社の敷地に引き込むため、隣地を使用するしかない場合

公道に接しない袋地(他の土地に囲まれていて、直接、公道に出られない土地のこと)等に社屋を構えている会社もあると思います。その様な会社が、電気、ガス、水道と言ったライフラインを敷地内に引き込むためには、囲繞地(いにょうち。袋地を取り囲む土地のこと)のいずれかの土地を使わせてもらうしかありません。従来は、いずれかの土地の所有者と契約を締結したうえで、使用料などを支払う形を取っていました。

ところが、囲繞地の所有者に拒絶されたり、理不尽な要求を突き付けられたりして、ライフラインの引き込みができなかったり、大きく迂回しなければならないと言った不便な事態も生じていました。驚いたことに、令和の今日に至るまで、民法には、このような場合のライフラインの引き込みに関する規定が置かれていませんでした。

そこで、改正法では、袋地等の土地にライフラインを引き込むために、他の土地に導管を埋設したり、空中に電線などを引き込むことができる旨が明確に規定されました。新設された条文では、電気、ガス、水道などの「継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。」と規定されています(改正後民法213条の2)。

では、この場合に、他の土地の所有者等の承諾は必要なのでしょうか? この点についても、「あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない」とあるだけです。つまり、通知さえしておけばよく、これに対する他の土地の所有者等の承諾は必要ないことになっています。

もっとも、無制限に他の土地を使用できるわけではありません。設備の設置又は使用の場所及び方法は、「他の土地等のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。」とされています。例えば、その土地の真ん中を横断するような形で、導管を埋設するようなことは認められないでしょう。一般的には土地の片隅を使用させてもらうことになります。

また、「その土地の損害に対して償金を支払わなければならない。」と定められています。ややこしい表現ですが、償金とは、従来の使用料などのことです。つまり、土地を使用させてもらうことに対する使用料を支払わなければならない。という意味です。なお、償金の支払いは、1年ごとでよいとされています。

もちろん、この規定ができたからと言って、一方的に隣地を使用していいわけではありません。償金の支払いについては、隣地所有者と交渉が必要ですから、改正前と大きく変わるわけではありません。ただ、ライフライン設備設置のために隣地を使用できる権利が明確になったことで、交渉がしやすくなったとは言えるでしょう。

5.ライフライン引き込みのために使用できる土地が限定される場合

公道に接しない袋地等の所有者は、上記のように、他の土地にライフライン設備を設置する権利を有していますが、そのような袋地等が生じた原因によっては、ライフライン設置権を行使できる土地が限定されることがあります。例えば、次の様な事例で考えてみましょう。

相隣規定の見直しのイメージ01

D土地、A土地、E土地が並んでおり、それぞれの土地は、直接、公道からライフライン設備を引き込むことができる状態にありました。ところが、A土地が、B土地とC土地に分筆されたうえで、それぞれ別の所有者に売られました(登記簿上の土地は、一筆、二筆と数えます。分筆とは、一つの土地を二つ以上に分けることです)。

その結果、C土地の所有者が、ライフライン設備を引き込むには、他の土地を使用しなければならない状態になったとしましょう。このような場合は、C土地の所有者が、ライフライン設備引き込みのために使用できる土地は、B土地に限られることになります(改正後民法213条の3)。

最初からこのような状態であれば、D土地、B土地、E土地のいずれを使用してもよいことになりますが、この事例では、A土地の分筆が原因でC土地が生じたわけですから、隣のD土地やE土地の所有者に迷惑をかけてはならないということになります。また、C土地の所有者は、ライフライン設備引き込みのために、B土地を使用しても、B土地の所有者に対して、償金(使用料)を支払う必要がありません。B土地を購入する人は、そのような負担があることを承知のうえで購入する必要があるということです。

ライフライン設置権は、改正民法によって新設された権利です。もし、あなたの会社が公道に接しない袋地等の敷地に社屋を有しているなら、隣地の権利関係を確認したうえで、ライフライン設置権を行使するようにしてください。

監修

大滝行政書士事務所 行政書士 大滝義雄