経営ハンドブック
事業承継をサポートする仕組み
2023年 4月 19日
支援機関を活用することで事業承継を円滑に
経営者の高齢化と後継者不足に悩む中小企業が生き残るために、事業承継は必ず乗り越えなくてはならない問題だ。現在では行政や民間の様々なサポートが用意されている。経営者は一人で抱え込まずに、こうしたサポートを積極的に利用することで、事業承継を円滑に進めていただきたい。ここでは親族内承継と従業員承継、そして社外への引継ぎ(M&A)と、それぞれの場合において、利用可能なサポート方法を挙げてみた。事業承継は早めに取り組むことが成功の鍵とされるので、ぜひ検討していただきたい。
事業承継をサポートする仕組みのポイント
- 事業承継を全般的にサポートする公的機関
- 親族内承継の場合
- 従業員承継の場合
- 社外への引継ぎ(M&A)の場合
1.事業承継を全般的にサポートする公的機関
最初に相談したいのは、事業承継・引継ぎ支援センターだ。全国47都道府県において、事業承継全般に関する相談対応や事業承継計画の策定、M&Aのマッチング支援などを、原則無料でワンストップ支援を行っている。
【主な支援内容】
- 事業承継・引継ぎ(親族内・第三者)に関する相談
- 事業承継診断による事業承継・引継ぎに向けた課題の抽出
- 事業承継を進めるための事業承継計画の策定支援
- 事業引継ぎにおける譲受/譲渡企業を見つけるためのマッチング支援
- 経営者保証解除に向けた専門家支援 など
(一部地域では支援内容が異なる。専門家派遣には費用負担が発生することがある)
▼事業承継・引継ぎ支援センターの連絡先一覧
2.親族内承継の場合
親族内承継について、人(経営)、資産、知的資産の三要素、さらに資産の中でも債務の承継、後継者による資金調達などといった面をサポートする仕組みについて紹介する。
1.人(経営)の承継
他の類型と比較すると、税負担への対応や株式・事業用資産の分散防止、債務の承継への対応に関して特に大きな課題が発生しやすいので注意する。
- 後継者との対話
- 後継者教育(社内・社外)
- 関係者との事前協議
- 経営の承継の実行
【後継者教育をサポート】
商工会・商工会議所や金融機関等が主催する「後継者塾」や「経営革新塾」などに後継者を参加させる。
▼全国の商工会議所
▼全国の商工会・都道府県商工会連合会
▼中小企業大学校経営後継者研修
【承継の実行をサポート】
▼日本弁護士連合会では、中小企業の事業者向け専用ダイヤル「ひまわり ほっとダイヤル」を開設している。
全国共通TEL:0570-001-240
▼日本司法書士会連合会
▼日本税理士会連合会
2.財産の承継 〜税負担への対応〜
親族内承継においては、先代経営者から後継者に対し、株式や事業用資産を贈与・相続により移転する方法が多い。この場合、贈与税・相続税の負担が発生するが、事業承継直後の後継者には資金力が不足していることが多い。従って可能な限り速やかに税務面は税理士に、資金調達については金融機関に相談するなど、支援機関に適切な助言を仰ぐべきである。
1. 暦年課税贈与
2. 相続時精算課税贈与
3. 法人版事業承継税制(特例措置)
4. 法人版事業承継税制(一般措置)
5. 個人版事業承継税制
6. 経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)
7. 登録免許税・不動産取得税の特例
【税負担への対応をサポート】
▼日本税理士会連合会
▼金融機関の連絡先
各金融機関のホームページ参照
3.財産の承継 〜株式・事業用資産の分散防止〜
株式の相続に際して、遺産分割等の結果によっては、株式が多数の相続人に分散してしまう場合がある。株主管理コストが増えるだけでなく、場合によっては株式の買取りを請求され会社の資金流出が生ずるという事態もあり得る。
- 生前贈与
- 安定株主の導入
- 遺言の活用
- 遺留分に関する民法特例
【株式・事業用資産の分散防止をサポート】
▼日本税理士会連合会
【遺言の活用をサポート】
▼中小企業向け専用ダイヤル「ひまわり ほっとダイヤル」/日本弁護士連合会
全国共通TEL:0570-001-240
▼日本司法書士会連合会
4.債務・保証・担保の承継
債務、保証、担保等については、その処理を確実に行わなければ、円滑な事業承継の実現が困難になるばかりか、かかる負担が重荷となり、後継者が承継を断念する可能性もある。事業承継に向けて、経営改善を通じた資金繰りの改善により債務の圧縮を図りながら、金融機関との信頼関係を構築することが重要だ。
- 対応する必要性は高い
- 経営者保証に関するガイドラインに即した対応
【債務・保証・担保の承継をサポート】
金融機関は、中小企業に日常的に接して経営状況を把握しており、中小企業に対してきめ細やかな経営支援等を実施し得る立場にあるので、こちらから相談を持ちかける。
▼金融機関の連絡先
各金融機関のホームページ参照
5.資金調達
事業承継を行うに当たっては、以下に例示する一定の資金が必要となる一方、多額の資金が必要になることや、 経営者交代に伴い信用状態が悪化して金融機関からの借入条件や取引先の支払条件が厳しくなること等が懸念される。
1.事業承継時にかかる資金
- 事業承継前に自社の磨き上げのためにかかる投資資金
- 先代経営者からの株式や事業用資産の買取資金
- 相続に伴い分散した株式や事業用資産の買取資金
- 先代経営者の株式や事業用資産にかかる相続税・贈与税の納税資金
- 事業承継後に経営改善や経営革新を図るための投資資金
2.事業承継時の金融支援(経営承継円滑化法)
【資金調達をサポート】
▼株式会社日本政策金融公庫の融資
中小企業・小規模事業者向けの政府系金融機関。経営承継円滑化法における都道府県知事の認定を前提に、後継者個人の株式取得資金の融資が可能
▼信用保証協会の保証枠の別枠整備
中小企業が金融機関から事業資金を調達する際に「信用保証」を行う機関
3.従業員承継の場合
従業員承継については、一般に後継者が将来経営者になることについての認識が弱いこと、後継者である家族や、現経営者の親族といった関係者の理解を得ることが容易でないこと、株式や事業用資産を有償譲渡する場合の買取資金の調達が容易でないことなどの問題があり、時間をかけて進めていたにもかかわらず、最後の段階で頓挫してしまうことも少なくない。
1.人(経営)の承継
従業員承継のメリットの1つは、経営者としての能力がある人材を見極めて承継させることができる点である。ただ、後継者の選定は、親族内承継と比べると通念上の正当性が弱いため、他の役員・従業員が納得できるよう慎重に進めることが重要だ。実際従業員承継では選定理由として「社内でのコミュニケーション能力」といった資質・能力が顕著に重視されている(「事業承継ガイドライン(第3版)」中小企業庁 令和4年)。これに失敗すると、他の役員・従業員の士気を低下させ反発した役員・従業員が得意先を持って独立する事態を引き起こすこともある。
- 後継者候補との対話が重要
- 後継者教育
親族内承継と違って、従業員承継では、将来経営者になることを、後継者が早い段階から意識していることはあまりない。そのため早い段階から育成していかなくてはならない。具体的にはa)経理、総務、営業から経営企画に至るまで幅広い業務を経験させること、b)後継者塾や経営会合等に参加させること、c)社内の重要プロジェクトを遂行させることなどが考えられる。 - 他の役員・従業員の理解、協力
- 現経営者の親族や取引先の理解、協力
- 種類株式の活用
【後継者教育をサポート】
▼全国の商工会議所
▼全国の商工会・都道府県商工会連合会
▼中小企業大学校
2.後継者による資金調達(MBO・EBO)
後継者の軽度を安定させるためには、一定数の株式や事業用資産の取得が必要だ。この方法は、MBO(役員による株式取得)やEBO(従業員による株式取得)など、有償の譲渡により事業承継が行われることが多い。
- 後継者(役員・従業員)が、自己資金や金融機関から借入れにより対象会社の株式を取得する特別目的会社(SPC)を設立し、ファンドやVCがSPCに出資する。
- SPCが自己資金の不足分を金融機関から借入れ
- SPCが現経営者から対象会社株式を買い取り、対象会社を子会社化
- 対象会社からSPCへの配当などにより金融機関からの借入れを返済
【後継者による資金調達(MBO・EBO)をサポート】
▼ファンドから投資を受けたい
▼事業承継・引継ぎ補助金
3.株式分散の防止
(親族内承継「3.財産の承継〜株式・事業用資産の分散防止〜」を参照)
4.債務・保証・担保の承継
現経営者の個人保証を引き継ぐことに、後継者の家族が反対して事業承継が断念された例もある。債務整理や経営者保証に関するガイドラインの活用等を通して処理方法を検討することが望ましい。
【債務・保証・担保の承継をサポート】
▼金融機関の連絡先
各金融機関のホームページ参照
4.社外への引継ぎ(M&A)の場合
後継者不在の中小企業にとっては、M&Aを早期に検討して実現に持っていくことにより、従業員の雇用を確保し地域のサプライチェーンを維持できる可能性もある。また、譲渡側経営者にとっては、手元に残る代金が多くなる可能性もある。
1.譲渡側にとっての留意点
企業のマッチングには、通常数か月から1年ほどかかるため、できるだけ早期に判断して動き出すことが必要となる。また、M&Aの手続き全般にわたり、秘密を厳守し情報の漏えいを防ぐことが極めて重要だ。
2.M&Aの手続き
- 後継者不在が明らかになる
- 身近な支援機関に相談する
【サポート】商工団体、税理士、金融機関、中小企業診断士(コンサルタントや経営指導員)、公認会計士、弁護士、M&A専門業者、事業承継・引継ぎ支援センター - 仲介者・FAを選定する
※選定しない場合はこれ以降を全て自社の力で行う - バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)
【サポート】税理士、金融機関、M&A専門業者 - 譲受側の選定(マッチング)
【サポート】M&A専門業者、金融機関、事業承継・引継ぎ支援センター - 交渉
【サポート】弁護士(代理人として委任)、M&A専門業者、金融機関、事業承継・引継ぎ支援センター - 基本合意の締結
【サポート】中小企業診断士、弁護士、事業承継・引継ぎ支援センター - デュー・ディリジェンス(DD:買収者が買収対象企業の財務情報等を入手し、それが真実であるかどうか調査すること)
【サポート】中小企業診断士、弁護士、事業承継・引継ぎ支援センター - 最終契約の締結
【サポート】弁護士、M&A専門業者、金融機関、事業承継・引継ぎ支援センター - クロージング
【サポート】弁護士、M&A専門業者、金融機関、事業承継・引継ぎ支援センター - クロージング後
【サポート】士業等専門家、M&A専門業者、金融機関
3.M&Aの支援機関
譲渡側経営者が単独でM&Aを検討していても、なかなか進まないことが多い。まず行うべきことは、身近な支援機関への相談だ。
▼M&Aについて相談できる支援機関
商工団体(商工会・商工会議所等)、士業専門家(公認会計士・税理士・中小企業診断士・弁護士等)、金融機関、M&A専門業者、事業承継・引継ぎ支援センターなど。
これらのほかに、近年急速に普及しつつあるのが「M&Aプラットホーム」だ。これは、インターネット上のシステムを利用して、オンラインで譲渡側と譲受側のマッチングの場を提供するウェブサイトである。
民間のM&A専門業者については、「中小M&Aガイドライン」の遵守等を登録要件とする「M&A支援機関登録制度」(中小企業庁)がある。また、M&A仲介業の健全な発展を図る民間の自主規制団体として、「中小M&Aガイドライン」を含む適正な取引ルールの徹底等の活動を行う「一般社団法人M&A仲介協会」がある。
▼M&A支援機関登録制度
▼一般社団法人M&A仲介協会