中小企業の海外展開入門

「ブナコ」ブナ材の独自加工とファッション性でパリでのブランド確立へ!

青森県南西部から秋田県北西部にかけて広がる白神山地は、世界自然遺産であるとともに世界最大級のブナ原生林が群生する貴重な生態系だ。

ブナは水分を多量に含むため、古来より建築材には用いられなかった。ところが1956年、青森県工業試験場でブナ材の新たな加工技術「ブナコ」が開発された。それは、1mmほどの薄いブナ材を幅1cm×長さ2mのテープ状に成形し、それをコイル状に巻き重ねた後、少しずつずらしながら押出成形する製法である。ブナコの開発により、微妙な曲線や形状を活かしたデザイン性の高いブナ材の製品が可能になった。

ブナコの加工工程。(1)ブナ材をテープ状に成形⇒(2)コイル状に巻き重ねる⇒(3)湯呑茶碗などの道具で押出成形する

海外で高く評価されたブナコ製の照明器具

1963年、ブナコの製造・販売会社、ブナコ漆器製造が創業された(2013年にブナコ株式会社に社名変更)。同社は、ブナコで製造したテーブルウェア製品(BOWL、プレート、トレイなど)を主にギフト用に販売し、全国の百貨店でも取り扱われたことから順調に売上を伸ばしていった。が、1990年代に入るとバブル経済の崩壊や生活習慣の変化から徐々に売上が減っていった。

そこでテーブルウェアに加えてインテリア関連の製品も開発し、2002年に照明器具の製品化を試み、2003年に「BUNACO LAMP」の製品名で完成させた(同社の製品は「BUNACO」のブランド名で統一されているため、以下、同社製品を表す場合はBUNACOとする)。

そして2005年、パッケージ関連の視察で同社の代表取締役・倉田昌直さんがスウェーデンを訪れたときだった。

「現地の人たちに当社の照明器具のカタログを見せるとたいへん高い評価を頂きました。その反応から照明器具としてのブナコの可能性を実感しました」

照明に用いるブナ材の赤い透過光には自然材ゆえの癒し効果がある。それが外国人にも感じられたのだろう。

ブナコで製造したテーブルウェア製品(BOWL、プレート、トレイなど)

展示会に連続出展したからこそ得た海外からの信頼

倉田さんは2年後の2007年に地域資源活用事業の認定を取得し、海外向けの照明器具の開発を本格的に始めた。そして販路を開拓するために海外の展示会への出展に臨んだ。

まずは2009年1月、フランスのインテリア見本市「メゾン・エ・オブジェ」に単独ブースで初めて出展。メゾン・エ・オブジェは世界最大級のインテリア見本市であり、ホームファッションのトレンドリーダーとも目されている。

メゾン・エ・オブジェではテーブルウェアを中心に展示し、連続して出展を重ねた2012年9月、来場したパリのバイヤーと初めて販売契約を結んだ。BUNACOは、素材が木であること、製法がエコロジーなこと、デザインが北欧のそれに近いことなどの要因からフランス人にも共感を持たれたようだった。また、それにも増して「毎年、メゾン・エ・オブジェに出展し続けていたので信用できると判断したと現地のバイヤーにいわれました」(倉田さん)という。

ブナコという製法は材料のムダがなくエコロジカルであり、工程のすべてを熟練した職人が手作業で行うため製品にぬくもりが醸し出される。さらにBUNACOは、グッドデザイン賞や英国雑誌の顕彰(Homes&Gardens Classic Design Award)を受賞するなど国内外からそのデザイン性を認められている(英国雑誌の受賞作品は安積伸氏がデザイン)。そうした製品としての魅力のほかに、継続して見品市に出展していたことが海外バイヤーからの信頼を勝ち取った大きな要因だと倉田さんは分析する。

この商談第1号により倉田さんはフランス・パリでBUNACO が通用すると確信できた。

照明器具づくりで提携できる海外のメーカーを模索

メゾン・エ・オブジェではテーブルウェアを主体に展示していたが、照明器具もブース内に展示していた。ちょうど最初の商談が成立したころ、照明器具での引き合いもあったものの、2つの大きな問題に商談を阻まれてしまった。

それは、(1)電圧の違いなどフランス仕様にしなければならないこと、(2)CEマークなど品質保証をしなければならないことだった。つまり、照明器機(電灯部)を現地仕様にしなければならない。しかし、これらは自社で対応するには負担が大きすぎる。そこで倉田さんは、欧州で提携できる製造会社を探した。

2013年1月のメゾン・エ・オブジェに出展した際、同じように照明器具を展示していたタイなど他国の出展者に尋ねて回り、その中から紹介された香港の代理店に依頼したり、知人に紹介されたドイツの企業に照明器機(電灯部)を製造してもらったが十分ではなかった。

さらに2014年1月のメゾン・エ・オブジェでも、正面のブースで照明器具を展示していたスイスの企業に尋ねてみた。すると、フランス・ノルマンディにある金属加工メーカーを紹介してくれた。CEマークの認証を取得したメーカーでもあり、早速、そのメーカーに照明機器(電灯部)の加工および組立を依頼し、2015年のメゾン・エ・オブジェでフランス仕様の照明器具を展示した。

2015年の「メゾン・エ・オブジェ」(フランスのインテリア見本市)でフランス仕様の照明器具を展示

BUNACOの海外ブランド戦略

同社の欧州市場攻略のスキームは、照明機器(電灯部)以外のシェード(傘)などの部品を供給(輸出)し、ノルマンディの提携加工メーカーで照明器具に組み立てることにある。

「完成品として輸出して海外で売るのでは当社の負担がかなり大きい」(倉田さん)が、部品だけを輸出するのであれば関税もかからず負担も小さくできる。

また、同社の海外ビジネスにおけるポリシーは「販路開拓は自分でやる」ことにある。ディストリビューター(卸売業)はいっさい使わない。また、顧客も一般消費者ではなく建築デザイナーや建築設計者などであり、B to B(企業間取引)のビジネスを基本とする。

2016年のメゾン・エ・オブジェには、フランス人がデザインした照明器具を発表する予定だ。海外のどの国でも都市でもない、あくまでパリで評価されることでブランドを確立していく。つまり、パリからブランドを発信させる、それがBUNACOのブランド戦略だ。

「欧州では日本よりも大きなサイズの照明器具でないと受け入れてもらえません」(倉田さん)

そのため、2017年春には地元・青森に大型照明器具の工場を稼働させる予定だ。

企業データ

企業名
ブナコ株式会社
Webサイト
代表者
倉田 昌直
所在地
青森県弘前市豊原1-5-4
事業内容
木工品の製造・販売(自社ブランド・BUNACOのテーブルウェア、照明、インテリアグッズ・スピーカーなど)