中小企業の海外展開入門
「門田建設」国内外から注目される環境新事業への参入
大正6(1917)年創業の長崎県佐世保市の老舗企業、門田建設株式会社は2015年に100周年を迎える。防波堤事業などの港湾土木や海洋土木事業を行う会社として創業し、トンネル、橋などの公共工事や体育館や学校の耐震補強、老人ホームなどの施工を手掛けてきた。この老舗企業が今、環境事業に進出し、海外からも注目を集める新たな事業の柱として育てようとしている。
環境事業への参入
入札といえば価格競争入札が主流だが、最近では価格以外の要素も総合的に評価する総合評価落札方式で決められることも多くなった。総合評価落札方式で高い評価を得るためには、渋滞緩和や環境への配慮など、価格以外の面への対応が重要となる。そこで門田建設が着目したのは現場での環境貢献だった。
現場では多くの電気を必要とする。そのため門田治男社長は、「設置・撤去・運搬が容易な太陽光発電シートができないか」と考えた。そして2011年、大手企業の協力もあり「FKpower」を完成させた。FKpowerは、1畳よりもひと回りほど大きなサイズの厚手のテントシートにフィルム型アモルファス太陽電池を縫い付けたものだ。フィルム型アモルファス太陽電池は、元々は重いバッテリーを持って登山をしていたアルピニストに対し軽量な発電商品として提供されたものだった。厳しい気候条件下での作業が続く南極観測隊も使用しているという。
FKpowerの特徴は、(1)丸めて収納できるため持ち運びがしやすい、(2)パワコン(パワーコンディショナー:発電した電気を使用可能に変換する機器)やバッテリーとシートとの接続は専用ケーブルを差し込むだけであるため、女性1人でも10分程度で簡単に組み立てられる、(3)パワコン、バッテリー、シートを合わせた重量は100kg程度であり、軽乗用車のトランクにも積載できる、といった点だ。
形状はシンプルだが、完成までには苦労もあった。黄色いテントシートにフィルム型太陽電池を2枚貼っているのだが、シートにフィルムを縫い付けることのできる企業が長崎県内にはなく、対応できる企業を探した結果、栃木県の縫製メーカーに依頼することとなった。また、軽さを追求するとシートが飛んでいってしまうため、ある程度の大きさや重みが必要となる。形状についても試行錯誤を重ねた結果、シートの重さは3kg程度とし、軽乗用車のトランクに積み込めるサイズとした。
太陽光発電装置といえば、一般家庭の屋根に設置されているようなガラス基板の上に太陽電池が搭載されているもの(結晶系太陽電池)がイメージされるだろう。その製品は太陽光を電気に変換する効率が約15%とアモルファス系太陽電池の約2倍ほどであるが、アモルファス系太陽電池は、室内蛍光灯でも発電するほどであり、曇天・雨天時でも発電が可能で日の出から日の入りまで発電することができる。通年での発電量はアモルファス系太陽電池の方が10%ほど多い。また、アモルファス系太陽電池は割れることもなく耐久性も高く、丸められるほどの柔軟性もある。
現場で使用する場合には、このシートを10枚つなげる。これで920Wも発電することができ、かつ電気を使いながら充電することもできる。持ち運びのできる結晶系太陽電池装置でこれだけの発電量を確保できるものは他にない。
FKpowerの製造は、2年連続で長崎県の新事業チャレンジ応援事業として採択された。国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)に登録されており、実用新案登録もされている。
展示商談会での想定外の反響
3年前に完成したFKpowerは自社の手掛ける工事現場においても活用しているが、外部企業への販売も行うようになった。製品をPRする場として選んだのは、全国各地の展示商談会だ。持ち運びが容易であり、会場で現物を確認してもらうこともできる。その製品力の高さからブース前で足を止めて関心を寄せる企業関係者も多く、代理店として取り扱いたいという申し出もあるという。代理店は全国に4社あるが、検討中の企業も多い。FKpowerを世に広めるため、代理店が展示商談会に出展する時は営業サポートも行うことがある。金沢市の展示商談会に出展した際には、会場で商談した北海道の建設会社から翌日に連絡がはいった。NETIS登録をしている製品を使用すると工事点数が上がるというメリットがあるためだ。展示商談会への出展を機に、営業活動に手ごたえを感じることが多くなったという。
展示商談会のブースに訪れるのは日本企業だけではない。アジア各国の企業もブースに立ち寄る。特に関心を寄せるのはインフラ整備が行き届いていない国の企業だ。門田建設のブースへも多数の外国企業担当者が訪れた。現在、サウジアラビア国内で開催される国際展示商談会への出展も要請されている。
国内外の展示商談会は、自社の優れた商品を広くアピールする絶好の場である。そして、優れた商品は高く評価され、次へのステップにつながる。海外展開をする企業の中には、この展示商談会への積極的な出展が本格的な海外進出につながった企業が多いということも事実なのである。
さらなる社会貢献へ
東京をはじめ東日本大震災の影響のあった地域では、FKpowerを防災グッズと捉える人も多い。2011年の国際太陽電池展に出展した際、ブースに福島県で被災された方が立ち寄られ、震災時には水と電気に困ったという話をされた。避難所に発電器などは置いていないのかと尋ねたところ、「置いてあるが、避難所に行かなければ使えないでしょう」との答えが返ってきた。その人のいた場所には電気がなかったため、周囲の状況を知りたい、伝えたいと思っても何もできなかったのだという。
門田建設では、現場周辺の役所や消防署などには自社が移動型太陽光発電設備を使用していることを必ず伝えている。万一災害が発生した時には、その設備で発電した電力を使用してもらうためだ。阪神淡路大震災では電気の復旧に1週間かかり、東日本大震災では被災地の電気の復旧に99日もかかった。このような時にFKpowerがあれば、少しは貢献できるはずだと考えている。
また、現在、「太陽光発電シートを海に浮かべ、発電された電気を使って漁業に対しても貢献できるのではないか」という市場性調査を国の補助事業として行っている。最終的には実用化まで持っていこうと考えている。
国内外から注目される太陽光発電シート。その世界への本格的な普及と活用が期待されている。
企業データ
- 企業名
- 門田建設株式会社
- Webサイト
- 代表者
- 門田 治男
- 所在地
- 長崎県佐世保市天満町2-30
- 事業内容
- 建設業