マンガでわかる「脱炭素」
2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言しました。国内外の脱炭素に向けた動きが加速するなかで、「脱炭素経営」という言葉がニュース等で取り上げられるようになっています。
脱炭素経営とは、事業活動に温室効果ガス(とくにCO2)の排出削減、「脱炭素」の視点を取り込んだ経営のことを言います。いままでは、グローバル企業・大企業を中心に進められてきましたが、2050年までにカーボンニュートラルを実現するには、中小企業・小規模事業者を含めて、すべての事業者が脱炭素経営を推進していかなくてはなりません。
今回のマンガでわかるシリーズでは、これからの時代のキーワード「脱炭素経営」についてご説明します。
なぜ「脱炭素経営」に取り組まなくてはならないのか。
言うまでもなく、CO2の排出削減は全地球的な課題です。誰に聞いても、脱炭素経営、カーボンニュートラルを進めなくてならないことに異論はないと思います。
しかしながら、中小企業の経営者のなかには、「脱炭素経営は大企業の話で、まだまだ先のこと」と思っている方も多いのではないでしょうか。そこで、ここでは中小企業・小規模企業が脱炭素経営の取り組むメリットについて考えてみることにします。
一つ目のメリットが「競争力の強化」です。一見すると、脱炭素と競争力強化は結びつかないように思われますが、いまグローバル企業・大企業では「自社の事業活動だけでなく、サプライチェーン全体で脱炭素」を目指す取組が進められています。そのため、原材料・部品・資材等の調達についてもコストや品質だけでなく、その部品・資材の生産に関わる「CO2排出量」も考慮しなくてはなりません。政府も製品のCO2排出量を算定するためのガイドラインを2022年度内に策定予定です。このことから今後、脱炭素経営をすすめる企業の製品(部品・資材)は競争力が高まっていくと考えられ、販路開拓のチャンスが広がります。
二つ目が、「エネルギーコストの低減」です。省エネの取組や設備導入・更新により、消費エネルギー量が削減されることで、光熱費・燃料費が低減されます。また、このような省エネや脱炭素のための設備投資は、国や自治体の補助金・低利融資などの支援制度を利用できる場合があり、投資費用を軽減することができます。
三つめが、「企業評価の向上」です。脱炭素経営の企業として積極的にPRすることにより外部からの評価が高まり、社員のモチベーションの向上、人材採用力の強化が期待できます。また金融機関でも、このような企業を評価して、融資条件を優遇する取組が進められています。
このようなメリットは、リスクの裏返しでもあります。脱炭素に取り組まない企業は、サプライチェーンのなかで取引を縮小されることも考えられます。また今後、カーボンプライシング(炭素の排出量に応じた金銭的負担)などの政策的な措置が強化され、事業活動が影響を受ける可能性もあります。また、持続可能でない事業活動に消費者から厳しい目が向けられ、社員のモチベーション低下につながることもあるかもしれません。
中小企業・小規模企業にとって、いち早く脱炭素経営への取組をスタートさせることは、様々なメリットを享受することだけでなく、将来のリスクを避けることにもつながります。
3つのステップで、脱炭素化に向けて取り組もう
中小企業・小規模企業の脱炭素経営は、どこからスタートすればよいでしょうか。
ここでは、環境省の「中小規模事業者のための脱炭素経営導入ハンドブック」などを参考にしながら、「知る」「把握する(測る)」「削減する」という3つのステップでご紹介します。
STEP1 カーボンニュートラルについて「知る」
脱炭素経営には、カーボンニュートラルに向けた社会の動きを自分事として捉えることが大切です。まずは、情報収集から始めましょう。
脱炭素経営に向けた自社の状況を確認するツールの一つが、「カーボンニュートラル・チェックシート(中小機構)」です。このチェックシートには、(1)現状把握、(2)当面の取り組み、(3)計画策定の段階別に「確認すべきポイント」とその「解説」が掲載されています。解説には、取り組み方法や詳細ページへのリンクなど、脱炭素に必要な情報がまとめられているので、便利です。
そして、収集した情報を踏まえて、脱酸素社会に向けて、地域のために「自社が出来ることは何か」「どのような付加価値を提供できるのか」を考え、自社の脱炭素経営の方針を検討します。
何をすればよいかわからないといったときには、中小機構で相談窓口を設置していまますので、ご活用ください。
STEP2 CO2排出量を「把握する(測る)」
STEP1のチェックシートのなかでも、脱炭素経営(カーボンニュートラル)の出発点とされているのが、自社の事業活動の「CO2排出量の把握」です。
CO2排出量と聞くと難しそうに思うかもしれませんが、日本商工会議所が無料で提供している「CO2チェックシート」を利用すると、誰でもカンタンに求めることができます。ダウンロードしたExcelシートに、電力・灯油・都市ガス等の毎月の請求書を見ながら、エネルギーの種類別に入力するだけで、自社のCO2排出量が自動的に計算されます。詳しい利用方法は、日本商工会議所のページで確認してください。
自社のCO2排出量を「見える化」したら、事業所単位や事業活動単位で分析して、どの部分のCO2排出量が削減できるか、削減ターゲットを特定します。
STEP3 CO2排出量を「削減する」
●対策の洗い出し
自社の排出量等を把握したら、具体的な削減対策を検討します。
月別・時刻別の「時系列での比較」、事業内容や規模が類似する「事業所・設備間での比較」、目的や利用途等を踏まえた「適正値との比較」等の分析結果から、どのような削減対策が可能か洗い出していきます。削減対策は、「減らす」「改善する」「切り替える」「作る」の4つの観点から検討しましょう。
対策 | 具体例 |
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エネルギーの使用量を 「減らす」 |
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設備の効率を 「改善する」 |
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エネルギー種別を 「切り替える」 |
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エネルギーを 「作る」 |
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●実行計画の策定・実施・見直し
洗い出した削減対策を踏まえて、実行計画(削減計画)を策定します。対策の実行にあたっては、運用改善、すぐに実行できる対策、実行しやすい対策から順に進めて、徐々に広げていくことが重要です。
設備投資が必要な対策は、投資効果や補助制度の活用可否などの観点も踏まえて、実行時期を検討します。削減対策を「短期/中期/長期」に分類するのも一案です。
そして、策定した実行計画に基づいて削減対策を実施します。実施にあたっては、自社のCO2排出量を定期的にチェックし、対策の効果を検証しながら計画を見直することで、取組み全体のレベルアップを図っていきましょう。
国や自治体の支援策を活用して、脱炭素経営を実現
国や自治体では、脱炭素経営(カーボンニュートラル)にも資する製品・サービス開発、再エネ・省エネ投資について、補助金・低利融資・税制優遇などの様々な支援制度を設けています。また、ものづくり補助金(グリーン枠)、業再構築補助金(グリーン成長枠)など、脱炭素経営に取り組む企業を支援するための「特別枠」も設置しています。脱炭素経営に関わる支援制度を積極的に活用することで、設備更新の費用負担を軽減することができます。
また、脱炭素経営を成功させるためには、専門家のアドバイスが参考になります。たとえば、中小機構の相談窓口、省エネ診断など、脱炭素経営(カーボンニュートラル)について、様々な相談窓口があります。ぜひ活用してください。