よくわかる食品原価管理の基本とポイント
最終回 原価計算の手順
かつての日本企業は「コスト」についてあまり厳しくありませんでした。つくれば売れる時代であり、コストに利益を上乗せするだけでモノは売れたからです。
しかし、いまは簡単に売上を上げることはできません。多くの競合品がある中で、自社の製品だけを高く売ることはできません。企業が生き残るためには、コストを下げる努力と価値あるモノをリーズナブルな価格で販売しなければなりません。
「特別企画 食品原価管理の基本とポイント」では、加工食品におけるコストダウンの基本とポイントをわかりやすく説明します。
本連載の1~6回までに説明した内容に基づいて実際の原価計算を行ってみます。ある食品メーカーをケーススタディにしてみましょう。
当月は主力製品であるA製品とB製品を製造しました。その原価データは以下の通りです。
- 材料費 500万円
主要な材料費(主に原材料)は、A製品向け240万円、B製品向け160万円、補助材料費の合計が100万円です。この場合、400万円が直接費、100万円が間接費となります。 - 労務費 300万円
直接製造に携わった人の賃金は240万円、雑役係の人の賃金は60万円でした。直接製造に携わった人はA製品の製造に800時間、B製品の製造に400時間をかけていました。
1時間あたりの単価(賃率)は、
直接労務費240万円÷1,200時間=2,000円となります。
したがって、A製品,B製品それぞれの直接労務費は以下のようになります。
A製品 @2,000×800時間=160万円
B製品 @2,000×400時間= 80万円 - 経費 200万円
製品の包装は外部の包装専門業者に委託しています。その専門業者からの外注費の請求は、A製品が100万円、B製品が70万円です。それ以外の経費は電力料、水道料、ガス代、消耗品費を合わせて30万円でした。この場合、外注費が直接費、その他は間接費となります。
以上を原価の3要素に分けると以下のようになります。
以上の表を直接費と間接費に分けると以下のような表になります。
コストドラーバーとは
製品別に原価計算をするには、間接費の按分が必要となります。これをコストドライバー(間接費按分基準)と呼びますが、間接材料費は製品の生産数量、間接労務費は直接作業時間、間接経費は外注加工費請求比率となります。
間接費をA製品とB製品に按分すると以下のようになります。
- 間接材料費(生産数量 A製品 2,000kg 、B製品 1,600kg)
A製品 100万円÷3,600kg×2,000kg=555,556円
B製品 100万円÷3,600kg×1,600kg=444,444円
- 間接労務費
A製品 60万円÷1,200時間×800時間=400,000円
B製品 60万円÷1,200時間×400時間=200,000円 - 間接経費
A製品 30万円÷1,200時間×800時間=200,000円
B製品 30万円÷1,200時間×400時間=100,000円
上述の数値を表に当てはめ、製品の包装数量(この場合はA製品が3万袋、B製品が2万袋とします)で割ると1袋当たりのコストが計算できます。
以上のような計算によってできた製品の原価を元に、製品の新規性、競合品の状況などを加味して販売価格を設定していきます。実際の原価計算はもっと複雑なものになりますが、基本的な原価の構造を覚えることが大切で、それが価格戦略とつながるのです。
(高橋順一 コンサルティング・オフィス高橋 代表/中小企業診断士)