中小企業とSDGs
第28回:バスケットボールを通じて共により良き未来を目指す「シーホース三河株式会社」
持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年9月の国連サミットで採択された17のゴールと169のターゲットからなる16年から30年までの国際目標だ。日本政府もSDGs達成を通じた中小企業などの企業価値向上や競争力強化に取り組んでいる。
国の機関や専門コンサルタントの活動およびSDGs達成に貢献している中小企業などの先進事例を紹介する。
2022年 12月12日
男子プロバスケットボールリーグ・Bリーグに所属するシーホース三河(B1中地区)。そのチームの運営会社として設立されたのがシーホース三河株式会社だ。バスケットボールを通じた各種の地域貢献活動をかねてから進めていた同社は今年9月、「Be With」と名付けたSDGsプロジェクトをスタート。SDGsへの取り組みをより明確化させ、ホームタウンである愛知県刈谷市を中心に西三河地区で、ファンや企業、自治体など地域社会と共にさらなる成長を目指している。NBAでの日本人選手の活躍や東京五輪でのメダル獲得などでバスケットボール人気がいっそう高まるなか、コートでは「共に頂点へ」、コート外では「共により良き未来へ」を合言葉に地域と一体となった活動を進めていく。
「なかまづくり」「ひとづくり」「まちづくり」を重点課題に
「Be With」では、3つの重点課題として「なかまづくり」「ひとづくり」「まちづくり」を設定。このうち「なかまづくり」は一連の活動の基盤となる取り組みで、従業員やホームゲームで一緒に働くスタッフらの働き方改革や健康管理、ホスピタリティなどの各種研修を実施し、考え方を共有する「なかま」の輪を広げていくことを目指す。そのうえで、主に地域の子どもたちを対象とした「ひとづくり」、自治体や企業と連携して地域の活性化を目標とする「まちづくり」の2つの取り組みも続けるとしている。
実際には、「Be With」を発表する以前から「SDGsの活動として地域密着の取り組みは積極的に行っていた」(鈴木秀臣社長)という。同社の親会社である自動車部品のグローバルサプライヤーのアイシン(愛知県刈谷市)には、企業活動とともに地域づくりを進めていこうという文化があり、「たとえばアメリカのシーモア(インディアナ州)に(アイシンの)生産拠点があるが、進出により街の発展に寄与した」(鈴木社長)という。こうした企業文化が2016年に設立されたシーホース三河にも受け継がれ、ファンや地域とのつながりを大切にしようという思いとなっている。
2019年5月には、ホームアリーナで最高のおもてなしを提供したクラブに贈られる「ホスピタリティNo.1クラブ」に選出された。2つのリーグが統合して発足したBリーグでは、当初からプロとして活動していた旧bjリーグのチームに比べ、企業チームが中心だった旧ナショナル・バスケットボール・リーグ(NBL)のチームはファンサービスの面で後れを取っていると言われた。前身がアイシンのバスケットボール部で、旧NBLに加盟していたシーホース三河がホスピタリティで頂点に立ったことは、ファンや地域を大事にする運営会社の思いのあらわれであり、企業チームから地元・地域のチームへの進化ともいえる。
地域に笑顔を届ける「タツヲ焼きプロジェクト」
数々の取り組みの中でも注目されるのが「Sの絆・タツヲ焼きプロジェクト」だ。同社は地域社会の活性化に向け、愛知県内の周辺自治体と連携協定を結んでおり、そのうち高浜市とは2019年に協定を締結。これを受けて県立高浜高校の生徒と共に始めたもので、地域の課題をビジネスの手法で解決していこうという「ソーシャル・ビジネス・プロジェクト」(SBP)である。
地域の人たちに笑顔を届けたいとの思いで進められている同プロジェクトでは、チームの所属タレント(マスコット)のタツヲの顔をデザインした、たい焼きに似た「タツヲ焼き」を同校の地域活動部SBP班が試合会場や地域のイベントなどで販売し、その収益金で地域の子どもたちを試合に招待するほか、収益金を子ども食堂や高齢者施設などに、さらにはBリーグが進める社会的責任活動「B.Hope」にも寄付している。こうした取り組みは高く評価され、2020年には第5回全国高校生SBP交流フェアで最高賞の文部科学大臣賞を受賞した。
「ともだち10000人」を目標に幼稚園・保育園を訪問
同じく子どもたちに関する取り組みとして、「ともだち5000人できるかな!?作戦!」と銘打った地域貢献活動を2018年にスタート。ホームゲームでパフォーマンスを披露しているチアリーダー「スーパーガールズ」のメンバーと公式マスコットのシーホースくんらが地域の幼稚園や保育園を訪問し、ダンス、フリースロー体験などで園児と一緒に遊ぶというもので、交友を深めた「ともだち(=園児)」5000人を目指して活動していた。幼稚園・保育園からは訪問の希望が数多く寄せられ、予想以上に早期に目標達成となり、現在は「ともだち10000人」を目標としている。
この活動の成果は意外な場面であらわれた。同社は、試合会場で小学生を中心とした子どもたちに、試合を盛り上げるホームコートMCを体験してもらう「キッズMC」との企画を実施。ファンクラブ会員から選んでいるが、2020年にキッズMCをつとめた小学校低学年の女児が幼稚園・保育園訪問をきっかけにチームのファンとなった「ともだち」だとわかり、周囲を驚かせた。「スポーツを通じてつながりを広げていこうという私たちの取り組みが実を結んだようで、大変うれしく、印象に残る出来事だった」と鈴木社長は振り返る。
小学校にボールとビブスを寄贈、地元企業も賛同
「Be With」スタート後に始めたのが西三河地域の小学校へのボールとビブス(グループ分けの目的で選手が着用するベスト状の衣服)の寄贈だ。これは取引金融機関である十六銀行と連携して企画した取り組みで、第1弾として今年10月には刈谷市内の小学校15校に贈呈した。活動を進めるにあたっては地元企業が協賛という形で支援。刈谷市に隣接する安城市での寄贈に協賛する企業のひとつで、建設業を営む三幸は「地元の小学校関係の仕事をしており、何らかの形でお返しをしたいという気持ちが前々からあった。今回の寄贈は格好の機会で、喜んで賛同した」(酒井義秋社長)と話している。
運営会社の活動に対して選手も共感。昨シーズンからチームに加わった角野亮伍選手は、経済的な理由などからプロの試合を観戦する機会のない子どもたちのために、自身のポケットマネーで「角野シート」を2021年12月から設置。ホームゲーム1試合につき4組8人(子どもと保護者)を招待している。角野選手からの申し出で始まったもので、「これをきっかけにバスケットボールに触れてもらい、ひとりでも多くの人におもしろいと思ったり、興味を持ったりしてくれたらうれしい」とコメントしている。
「みんな一緒になって成長し続けたい」
シーホース三河は新たなステージを迎えようとしている。新幹線停車駅である三河安城駅近くに新アリーナを含めた多目的交流拠点が整備される計画で、2026年の完成を目指している。運営会社としては、拠点を核とした「まちづくり」に向け、地域との連携活動を強化していく考えだ。もちろん、西三河地区全体での活動にもいっそう力を注いでいく。「スポーツのすばらしさは感動を共有できること。それにより一体感が生まれる。私たちはバスケットボールで地域をつなぎ、チームもファンも企業も、みんな一緒になって成長し続けたい」と鈴木社長は熱く語った。
企業データ
- 企業名
- シーホース三河株式会社
- Webサイト
- 設立
- 2016年5月10日
- 資本金
- 4500万円
- 従業員数
- 34人
- 代表者
- 鈴木秀臣 氏
- 所在地
- 愛知県刈谷市昭和町2-3
- 事業内容
- プロバスケットボールチームの運営