~中小企業経営者は、今の景気をどのように感じているのか~

第147回中小企業景況調査【平成29年1~3月期】

原材料・商品の調達と価格転嫁に苦戦する中小企業経営者

2017年1-3月期の中小企業景況調査では、製造業を中心に売上額DI等の改善を受け、製造業・非製造業のいずれにおいても業況判断DIが上昇した。その中で懸念されるのが、二期連続の上昇となった原材料・商品仕入単価DIの動向である。特に、製造業や卸売業の中小企業経営者から原材料等の調達における、資源不足や価格上昇、さらには価格転嫁の難しさを指摘するコメントが寄せられている。

1.原材料・商品仕入単価DI、売上単価・客単価DIの産業別動向

原材料・商品仕入単価DIの推移(「上昇」-「低下」 前年同期比)
売上単価・客単価DIの推移(「上昇」-「低下」 前年同期比)

今期の全産業の主要DI(前期比季節調整値)を見ると、業況判断DIで▲17.0(前期差1.7ポイント増)、売上額DIで▲14.3(前期差3.7ポイント増)、資金繰りDIで▲13.1(前期差0.8ポイント増)と、いずれのDIも前期から上昇した。

その一方で、原材料・商品仕単価入DI(「上昇」-「低下」、前年同期比)は、全産業で22.1(前期差1.6ポイント増)となり、二期連続して上昇。産業別にみると、製造業で26.1(前期差9.9ポイント増)、建設業で26.2(前期差1.9ポイント増)、卸売業で20.8(前期差6.7ポイント増)と3つの産業で上昇となった。さらに売上単価・客単価DI(前年同期比)をみると、全産業で▲14.2(前期差1.4ポイント増)と三期ぶりに上昇となり、産業別にみても、製造業で▲6.7(前期差1.4ポイント増)、卸売業で▲2.5(前期差3.1ポイント増)、小売業で▲26.3(前期差3.1ポイント増)と3産業で上昇となった。ただし、DIの水準自体は原材料・商品仕単価仕入DIとの間に差があり、特に小売業の水準が低くなっており、価格転嫁の難しさが浮き彫りになっている。

2.原材料・商品仕入単価に関する製造業・卸売業企業経営者の声

今期は、特に製造業と卸売業の原材料・商品仕入単価DIが大きく上昇している。そこで、この二つの産業の中小企業経営者より寄せられたコメントより、足元の原材料や商品の調達環境について検討する。

【コメント】

  • 水産物の水揚数量の減少により原材料の価格の上昇、資材の価格上昇、輸送費の上昇、人手不足による賃金の高騰、従業員の高齢化等原価に反映できない経費等が増え、工場自体の稼働が思うようにできない。(その他の水産食料品製造業 北海道)
  • 新規取引先が増加した。また、原料不足をカバーするため新魚種の取り扱いを増やした結果、業況は前年と比べて好転した。(冷凍水産食品製造業 青森)
  • 年度末で引合いが増えているが、材料部品の調達に支障が出ている為、別ルートからの仕入で材料費が増えている4月以降の状況は未知です。(その他の電気機械器具製造業 神奈川)
  • 取引先からの注文が多くなってきており、業績は好調である。一方で原材料価格は下がることがなく、利益が圧迫されている状態は依然として変わらない。(ビスケット類・干菓子製造業 新潟)
  • 全体的にモノを買わない中で、資金力の大きい同業他社が低価格で市場を占有している。また、ゲリラ豪雨、長雨、台風等天候・気候により原料の調達、購入業者の行動に影響を受けている。(めん類製造業 長野)
  • 親会社のプラント事業が活発なため、前年比25%強の売上増加となっている。春以降の受注見込も良好である。原料の鋼材は品薄により値上がりをしている。今後の状況により設備の導入について考えはじめている。(建設用金属製品製造業(鉄骨除く) 長野)
  • 自動車部門が好調な様でまとまった材料の仕入が困難な様です。価格も4月位まで値上りが続く様相です。(看板・標識機製造業 愛知)
  • 為替による円安とナフサ価格の上昇により輪入仕入価格UP、原材料の価格UPが今後の利益部分で懸念する点がある。(プラスチック製日用雑貨・食卓用品製造業 奈良)
  • 原料価格の高騰によりようやく販売先様にも値上げ交渉をとりつけたが販売価格があがってしまったので売れゆきが悪い。(野菜缶詰・果実缶詰・農産保存食料品製造業(野菜漬物を除く) 和歌山)
  • 鉄鋼メーカーの原料急騰による鋼材値上げが本格化してきた為、ユーザーに対し価格転稼を認めてもらうようアナウンスを始めているが、反応に温度差があり、価格転稼が難航している。(鉄鋼シャースリット業 京都)
  • 今後、鉄鋼原材料価格の値上げが実施されることから採算悪化が懸念される。産業分野別に需給状況や競合状態が異なるため、計画的かつ粘り強い製品への転稼活動が重要になって来る。(自動車部分品・附属品製造業 兵庫)
  • 生産の基本である原材料の単価の上昇に加え材料の流通が悪化し業者に材料が無い状況となっています。その為、材材料確保には過剰に仕入れたり、高くても購入しなければならない事態となっています。(金属プレス製品製造業(アルミニウム・同合金を除く) 広島)
  • 材料をいかに安く仕入れるかで、利益が出るかが決まるが、安く仕入れる為には、条件付きで現金で、トラック一車単位、納期のずれ等が生じる為早期の注文となると、やはり資金力のある企業には対応できない。(他に分類されない木製品製造業(竹,とうを含む) 山口)
  • 生鮮農産物の生産量の減少に伴い原料単価が高騰しているが、製品価格を原料価格にスライドして値上げ出来ないのが現状です。(野菜缶詰・果実缶詰・農産保存食料品製造業(野菜漬物を除く) 愛媛)
  • 顧客のニーズでは、サッカリン等の甘味料を使用しない醤油へのシフトが加速しつつあるが、代替原料の値上がりに加え、同業他社の値上げの様子見が続き、資金繰りが苦しくなっている。本音では値上げを行いたい所。(しょう油・食用アミノ酸製造業 福岡)
  • 従業員の退職により、新しい人材を募集しても中々人材の確保にいたりません。また、原材料の需要の増加により、価格の上昇と不足が顕著になっております。(他に分類されない食料品製造業 宮崎)
  • 営業所開設、営業社員の増員により、売上は拡大基調であるが、仕入単価の上昇を販売単価に反映させる事は難しく、採算性の改善が今後の課題。売れ筋商品の需給が逼迫しており、納期が遅れがちなのが不安材料。(電気機械器具卸売業(家庭用電気機械器具を除く) 大阪)
  • 中国向けの輸出古紙需要が活発化する中、年々国内の紙消費量が減少し、古紙原料の不足が懸念される。(紙卸売業 福岡)

3.見通し:原材料・商品の調達競争の激化の中での経営判断

今期寄せられたコメントでは、水産資源を筆頭にした資源そのものの不足に加え、新興国などでの旺盛な需要拡大もあり、原材料の調達競争に翻弄されている中小企業経営者の姿が確認された。そこに円安の影響も加わり、価格が上昇していく中で、いつ、原材料や仕入価格を製品や商品の価格へ転嫁するか判断が難しいといったコメントや、安く仕入れようとすると、大量仕入れや現金払いといった条件が付与されてしまうとともに、思うようなタイミングで原材料を調達することができないといったコメントも散見される。

原材料や商品仕入に関するコストを販売価格へ転嫁せずにいると、利益が圧迫されたまま活動を継続していかなければならず、結果、資金繰りに問題が生じ、次の原材料・商品の仕入活動に大きな支障をきたす可能性が高い。いかに安く調達するかを考えることも重要であるが、厳しい仕入条件をクリアしなければならないことを考慮すると、価格だけに捉われて原材料や商品の調達を検討することは賢明とは言えない状況にある。

こうした環境の中で、いかに安定した原材料や商品の仕入先を確保するか。たとえば、仕入先との長期の契約とともに、同じ原材料や商品を必要とする企業同士での共同調達や過剰な仕入分を共有する仕組みを構築するという手段は検討の余地があるだろう。今期寄せられた原材料や商品仕入に関するコメントを踏まえると、改めてステークホルダーとのリレーションシップの在り方を模索することが、中小企業において大きな経営課題となっているのかもしれない。

文責

ナレッジアソシエイト 平田博紀

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