~中小企業経営者は、今の景気をどのように感じているのか~

第148回中小企業景況調査【平成29年4~6月期】

緩やかに改善した業況判断DI経営課題とその対応を考察する

2017年4-6月期の中小企業景況調査は、全産業の業況判断DIが▲14.3(前期差2.7ポイント増)、製造業の業況判断DIが▲10.6(前期差2.4ポイント増)、非製造業の業況判断DIが▲15.5(前期差2.9ポイント増)と緩やかな改善を示している。深刻な人手不足などの不安材料を抱えながらも、製造業は4期連続、全産業と非製造業は2期連続の改善となった今期。中小企業経営者が直面している経営上の問題点を概観し、そしてそれらにどう対応しているのかを、寄せられたコメントから探ってみたい。

1.今期の経営上の問題点とその特徴

業況判断(「好転」-「悪化」)DIの推移(産業別・前期比季節調整値)

今期の全産業の主要DI(前期比季節調整値)を見ると、業況判断DIで▲14.3(前期差2.7ポイント増)、売上額DIで▲13.1(前期差1.2ポイント増)、資金繰りDIで▲11.4(前期差1.7ポイント増)と、引き続きいずれのDIも上昇した。また、産業別の業況判断DIにおいても、製造業では▲10.6(前期差2.4ポイント増)、建設業では▲6.2(前期差2.4ポイント増)、卸売業では▲13.1(前期差2.8ポイント増)、小売業では▲25.4(前期差2.8ポイント増)、サービス業では▲12.0(前期差3.8ポイント増)と全ての産業において改善している。

今期直面している経営上の問題点(産業別・規模別)

こうしてゆるやかな改善傾向にある中小企業景況であるが、産業別・規模別に経営上の問題点を見てみると、そこには現在の経営者が抱える悩みが浮かび上がってくる。今期直面している経営上の問題点について、まずは産業別に概観すると、製造業と卸売業では「需要の停滞」(24.2%、32.5%)、建設業では「官公需要の停滞」(17.9%)、小売業では「大中型店の進出による競争の激化」(18.8%)、サービス業では「利用者ニーズの変化への対応」(19.0%)が第1位となっている。このように全体的に「需要の停滞」が最上位に来ている中、規模別に分解すると、中規模のサービス業では、「従業員の確保難」(28.6%)が第1位となっており、今や人手不足は、3割近くの企業で最も深刻な問題となってきている。また、業況判断DIの数値が他の産業と比較して低い小売業においては、中規模店では「需要の停滞」(17.9%)が第1位である一方、小規模で「大中型店の進出による競争の激化」(19.6%)が第1位となっており、小規模店が中大型店との競争に苦しむ姿が見られる。

2.経営課題の認識とその対応に関する経営者の声

こうした経営上の問題点に対し、中小企業経営者は具体的に何を課題ととらえ、どのように対応しているのだろうか。寄せられたコメントから検証していく。

【コメント】

  • 直接取引を増やす事で仕事の波をなくし、売上げのアップにもつなげていきたい。新しい取組を進めていきたい。(建具製造業 宮崎)
  • 新設備を導入し、熟練従業員が中心となって試作研究した結果、大手企業では実現できなかった高精度な製品を作ることができるようになった。これにより受注の増加につながった。(他に分類されない非鉄金属製造業 京都)
  • 中国含む東南アジア向けフィルム製造設備が好調である。特に車載用バッテリー向けは1~2年続きそうだが、その後の需要が低下してくる為、今の内に営業体制を整えておく必要がある。(プラスチック加工機械・同附属装置製造業 山形)
  • インターネットでの宣伝効果で顧客の集客が増えて来ている。自社で見積額が提示出来るため赤字の工事が無くなり売上げは良くなった。問題点は受注が多くなった分、人材不足に悩まされる。今後の大きな課題。(防水工事業 東京)
  • 定期的な展示会開催・営業活動により、安定した受注につながっている中、熟練技術者の高齢化、若い技術者不足が懸念される。今後も積極的な人材確保と育成に努めていきたい。(給排水・衛生設備工事業 長野)
  • 受注が増加している背景には、ホームページのリニューアルと、昨年11月より毎月実施しているイベントの成果が出て来ているのではないかと思われる。しかし、採算面は、単価の上昇難や下請業者の確保難等で厳しい。(土木工事業 広島)
  • 物流の集約化を終え、販管費を削減できた。スポーツに流れていた婦人靴に復調のきざしが見えて来た。販売チャネルも異業種やネット通販などが好調である。(靴・履物卸売業 北海道)
  • HPのおかげで新規のお客がけっこう多くなり、修理が多く、金額が少なくとも粗利が取れるので、よい方向に向かっていると思える。(自転車小売業 北海道)
  • 比較的に高価格の商品の動きは鈍いが、低価格帯の商品の売り上げは良いのでそこをより充実させていきたい。去年から外商にも力を入れているが、利益は薄いが、売上額は大きいので継続して取り組むつもりだ。(婦人服小売業 新潟)
  • 店舗の改装し明らかに新たな客層が徐々にではありますが来店しています。地元客以外の観光等で舞阪に訪れた方々の立寄もあり客単価は小さいですが来店客が増加してきていますのでFBなどで宣伝をしていきます。(茶類小売業 静岡)
  • オリジナル商品のアイテム数を今後更に増やし、独自イベントの積極的な開催を実施していくことで、更に業況の拡大が期待できると考えます。まずは自店の強みをしっかり根付かせ、消費者ニーズに応えていきます。(紙・文房具小売業 京都)
  • HPから受注が増加しているため対応策におわれている。地元での消費は落ち込み傾向だが、通信販売・インターネット販売は好調。(各種食料品小売業 徳島)
  • 開業から3年経ちお客様の数が増えてきたと感じます。それにともないサービス内容の見直し等も含め、設備投資も必要になってきているかと思います。(食堂,レストラン(専門料理店を除く) 宮城)
  • 営業強化により、売上の増加があり、業況は好転している。特に海外営業強化による、インバウンドの受入が増えている。(旅館,ホテル 和歌山)
  • 電子マネーを利用するお客さんが増加している。Wi-Fiも使用出来る様にした為若い男性客が以前より増えました。(一般公衆浴場業 東京)
  • 技術者の採用と教育が進み、利益を出せる様になった。さらに人材を増やしたいが、教育採用費用が増えるため様子を伺いながら採用となり、会社の成長も緩い成長となってしまう。(情報処理サービス業 東京)

3.見通し:変化を起こすのか。変化に対応するのか。

経営者のコメントを分析すると、対応の方向性は、概ね二つに分けることができる。まず、自らが変化を起こし、問題の解決を図ったというコメントである。たとえば、事業領域を絞り、不採算の事業から撤退することで成果を挙げたとするコメントや、流通経路の変更により販路の開拓に成功したとするコメント、今後伸びていく市場を自ら捉え、積極的に策を講じているとするコメント、様々な新商品・製品の投入を図っているというコメント、社会の進む方向性を見据え、10年前より対応を継続しているとするコメントなどがあった。次に、変化する環境に対応することで活路を見出し、問題を乗り越えたというコメントである。これは、顧客の要求の変化に対して柔軟に応えているといったコメントや、経営環境の変化に臆することなく向き合い、チャンスと捉えて対応したといったコメント、サービス価格や内容の見直しを実施したというコメントがあった。

緩やかに業況が改善している今こそ、将来を見据えながら、自社が抱えている経営課題とは何かを明確にし、それは自ら変化を起こすことで解決が可能な問題なのか、それとも変化する環境に対応することが求められる問題なのかを見極める時期にあるのかもしれない。

文責

ナレッジアソシエイト 平田博紀

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