~中小企業経営者は、今の景気をどのように感じているのか~

第146回中小企業景況調査【平成28年10~12月期】

長引く従業員不足への対応を模索する中小企業景況

2016年10-12月期の中小企業景況調査では、全産業・非製造業の業況判断DIはやや低下したものの、製造業の業況判断DIは僅かながらも上昇した。売上額DIや資金繰りDIも同様に小幅な変化に留まり、今期の中小企業は比較的落ち着いた環境にあったことを印象付ける。ただし、少子高齢化が進む中で働き手の不足感が慢性化しており、その影響を懸念する声が中小企業経営者より多く寄せられている。

1.産業を問わず、徐々に広まっていく従業員不足

従業員数過不足DI(「過剰」-「不足」 今期の水準)

今期の全産業の主要DI(前期比季調値)を見ると、業況判断DI▲18.7(前期DIとの差(以下、前期差)0.5ポイント減)、売上額DI▲18.0(前期差0.1ポイント減)、資金繰りDI▲13.9(前期差0.2ポイント減)と、僅かではあるがいずれのDIも減少した。

従業員数過不足DI(「過剰」-「不足」今期の水準)を確認すると、全産業▲16.2(前期差▲0.9ポイント減)、製造業▲13.5(前期差1.5ポイント減)、建設業▲27.3(前期差4.1ポイント減)、卸売業▲10.4(前期差0.9ポイント減)、小売業▲9.6(前期差0.2ポイント減)、サービス業▲20.0(前期差0ポイント)となっている。

2.従業員不足に対する実際の声

従業員の不足感については、前期差では比較的小幅な動きであるものの、長期的に見ると、2009年以降、全ての産業において確実に広まっていることが確認できる。この長引く従業員不足の背景と中小企業の活動に対する影響について、今期寄せられたコメントに基づき検討していく。

【コメント】

  • 売上や仕事の受注額はかなり増加の傾向にありますが、それに伴い、人員の確保が出来ず、受注残という悪循環を招いている状況です。(他に分類されない金属製品製造業 岩手)
  • 相変わらず技術者不足が続いている。仕事はあるが仕事ができる監理技術者がいない現状を早く脱却したい。しかし新しい人材を育てるのには年数がかかるし、資格保持者を募集してもなかなか応募のない状況である。(一般電気工事業 埼玉)
  • 人材不足は前からの問題であるが、積極的に人材確保に動かなければ全く入ってこない状況。非常に苦労している。熟練工入社などは希望すらもてない。引合いの数は増えている。仕事はあるがこなせない状況です。(はん用内燃機関製造業 千葉)
  • 仕事量は増加しているが、担当できる従業員が不足しており、未経験者の採用で不足を補充している。教育採用費が増え、このため利益が上がらない。(情報処理サービス業 東京)
  • 受注は好調だが、人材の確保、特に技術職及び熟練者が不足しており、工事の進捗に遅れが発生することが問題となっている。(土木工事業 長野)
  • 社内開発案件があるため、現在の業況は安定しているものの、来年春以降の状況をつかみきれていないので不安要素は多分にある。また仕事はあっても相変らずの人材不足に頭を悩ませている。(受託開発ソフトウェア業 静岡)
  • 警備料金の上昇があるものの人件費もそれに伴い増加しているため少々黒字程度である。人材の高齢化に伴い若手人材不足が頭の痛いところである。業界一丸で人件費上昇と共に若手人材の確保につなげていきたい。(警備業 三重)
  • 従業員の再教育や、効率化によって出荷数が増加したが人手不足は変わらず、受注に対応出来ていない状況である。人材確保を考えながら、更なる効率化を進め、受注に対応したいと思う。(工業用ゴム用品製造業 岐阜)
  • 適正利益を出せる為に社員教育を強化している。中長期経営計画を明確にして、経営計画発表会を開いて士気を高めている。(リネンサプライ業 愛知)
  • 売上げ増加により業況は上昇。難題は人材不足とそれに伴う社会保険や労災保険など公的経費の負担が多過ぎて人材確保に慎重になる。また人材確保をするにしても先々の業況を考えると、人材不足のままで対処したい。(産業廃棄物収集運搬業 兵庫)
  • 忙しい時間帯に人手が欲しいが人件費が気になる。人の少ない2月8月を除いた月は、売上が安定。客単価も上げることができた。(他に分類されないその他の飲食店 兵庫)
  • 引合い、売上が好調な半面、従業員の確保ができず、外注への依存度が高くなっている。外注先も、国内では加工数量に限度がある為、海外への外注を多くし、輸出入の経費などが増加している。(自動車タイヤ・チューブ製造業 広島)
  • 求人を出しても応募が来なくなりました。特に女性がきません。(水産練製品製造業 愛媛)
  • 今期から、ケアマネの口コミ等で新規顧客が少しずつ増加してきている。合わせて、人件費の増加により採算は好転しているわけではないが、人材確保、育成により利益率を高めていきたい。(他に分類されないその他の事業サービス業 徳島)
  • 造船、精密機械関連が好調で、後押しされるかたちで伸びて来た。1~2年は続きそうだが、工場の中心的な社員が数名、大手に引き抜かれ、人件費を上げなければ引き止められない。(銅・同合金鋳物製造業(ダイカストを除く) 福岡)
  • 少数精鋭でベテラン社員だけになり経費面は昨年より減少した分利益は出ているが、顧客軒数に対して人員が足りないのが不安点である。増員と経費のバランスにおいて今後どうして行けば良いか思案中です(医薬品小売業(調剤薬局を除く) 長崎)
  • 利益率、請負金額は多少減少傾向にある。しかし黒字ベースは確保できている。引続き人材不足による受注制限が大きな課題。(鉄骨工事業 佐賀)

3.見通し:ジレンマを振り切り、積極的に人材確保へ動く

上向きつつある経営環境の中、足元の受注量や仕事量に基づけば従業員の確保という判断が下される。ところが、先行きが不透明なため、環境が悪化した場合には、採用した人材が大きな負担となり経営を圧迫してしまうという懸念が捨てきれない。そのため、採用を躊躇していると売上を確保する機会を逸失してしまうばかりでなく、いざ採用活動を始めてもすぐには人材を確保することができないために従業員不足の状況が継続してしまう。今期寄せられたコメントに基づくと、中小企業における従業員不足の現状はこのように整理することができる。

長く苦しい受注環境の中で血のにじむ努力によって経営活動を継続させてきた中小企業経営者の多くが、今、従業員不足という経営課題により新たな苦境に立たされている。足元の受注量や仕事量の増加と不透明な企業活動の見通しの中で生じているジレンマをどのように乗り越えていくのか。

従業員教育には時間と労力、金銭的な投資が伴うものの、少子高齢化社会が進展する中、今後、採用活動はますます厳しい状況となっていく可能性が高い。今期寄せられたコメントにあるように、多くの中小企業において従業員不足という問題が顕在化している今こそ、長期的に企業活動を継続することを目的とし、積極的に人材確保に動く時期なのかもしれない。

文責

ナレッジアソシエイト 平田博紀

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