ビジネスQ&A
リーン生産方式と従来の生産方式の違いについて教えてください。
欧州に自社工場を建設し、自動車部品の生産を開始しました。現地で雇用した従業員とともに改善活動をスタートしましたが、彼らは「リーン生産方式」という言葉を良く使います。日本の5S・改善やトヨタ生産方式とどう違うのでしょうか?
回答
リーン生産方式は、米国の大学教授が、日本のトヨタ生産方式(TPS;Toyota Production System、以下TPS)や5S・改善などを研究し、整理・体系化の後、一般化したものであり、内容的にはほぼ同じものです。リーン生産方式はパッケージ商品化されており、海外にはリーン生産方式のコンサルタントもいることから、両者の歴史的違いを認識しつつ、よりよい導入方法を現地従業員と話し合い、導入を進めてください。
まずTPSの概要を説明し、その上でリーン生産方式とTPSの違い、および海外工場で改善活動を進める際の留意点を説明します。
【TPSの概要】
TPSは、ムダの徹底的排除によって生産性向上を図り、原価を低減するための一連の活動であり、経営に直結した全社的な改善活動として展開されます。次の2つの考え方がTPSの基本思想を貫く柱となっています。
1.ジャスト・イン・タイム(Just in time;JIT)
JITとは「必要なものを、必要な時に、必要なだけ作る」という意味で、自動車の生産計画に合わせて、部品を「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」供給できれば、「ムダ、ムラ、ムリ」がなくなり、生産効率が向上します。
2.ニンベンの付いた「自働化」
「自働化」とは、機械を管理する作業者の動きを「単なる動き」でなく、ニンベンの付いた「働き」にすることを意味します。「異常があれば機械が止まる」ことで、不良品は生産されないし、また1人で何台もの機械を運転できるので、生産性を飛躍的に向上させることができます。
以下の図1にTPSの目的とこの目的を達成するための基本思想とさまざまな手段を示します。
【TPSの活動方法】
TPSは、トヨタの生産現場での試行・錯誤を何回も繰り返しながら数十年間かけて形成されてきたものです。この「持続的改善」の精神を企業の風土・文化として定着させるためには、経営者、中間管理層、作業者の1人ひとりが皆、頭を柔軟に働かせて仕事に取り組み、全員から発案される5S活動も含めた改善提案によって、日々新たに前進していくことが重要です。さらに、「持続的改善」の精神を自社だけでなく協力会社を含むグループ全体に広めていくことで多様な製品を、低コストで生産できるようになります。
また、チームで学び合うことも重要です。失敗、ムダ、現行の標準作業などを越えるべき目標として見据えます。そして、チーム・ワークで(1)基本理念をしっかり理解した上で、(2)現地、現物、現象を観察して「なぜ」を5回繰り返し、(3)さらによい仕事のやり方を研究し、標準作業を改訂していきます。その姿は「学習する組織」といえます。
【リーン生産方式とTPSの違い】
リーン生産方式は、米国マサチューセッツ工科大学の研究者ジェームズ・P・ウォマックらが1990年、著書にてTPSを「リーン生産方式」として欧米に紹介したことが始まりです。「リーン(lean)」とは「贅肉の取れた」という意味です。
リーン生産方式は、ウォマックがトヨタ生産方式や5S・改善などを研究し、整理・体系化の後、一般化したものであり、生産管理手法の一手法です。このためTPSの別名といわれることもあります。両者の違いは、リーン生産方式は生産管理手法といってもパッケージ化されており、導入に必要なテキストやチェックリスト及び標準類が一式のセットとなっており、コンサルタント会社からパッケージとして提供されています。
日本においては、5S・改善及びTPSの導入・運用の歴史が長く、関連専門家が多数存在し、自社内で運用できる体制のある会社もたくさんあり、リーン生産方式の先輩格といえますが、米国や欧州ではリーン生産方式の方が有名な場合もあります。これは、TPSはトヨタに固有な手法ですが、リーン生産方式は一般化され理論体系となっていることから、工学部において授業科目に採用されていることに起因していると思われます。
いずれにしても両者は、内容的にはほぼ同じものであることから、歴史的背景の違いをよく理解し、自社に合った導入方法を検討してください。海外ではコンサルタントを使うことが一般的であり、リーン生産方式のコンサルタントもいますのでこれらを上手に活用することも一方策です。
- 回答者
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中小企業診断士 林 隆男
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