事例で見る課題解決の勘所

「話題作り」で積極的に仕掛けていく

成功のポイント

  • 企画段階からメディア露出を意識して考える
  • 業界の深掘りなど、独自の視点を盛り込む
  • 常にメディアへ情報を提供し続ける

メディアに取り上げられる影響力は大きい。テレビの人気番組で取り上げられた食品や洋服、書籍などの商品が、翌日から売り切れになったという話は耳にしたことがあるだろう。「話題の番組で紹介されました」「あの新聞に掲載されています」といったPOP(店頭販促)ができれば、売り場が華やかになるし、実際に売り上げも伸びる。

メリットは、売り上げ拡大だけではない。従業員のモチベーションアップにもつながる。メディアに登場することで、自分たちの仕事が社会的に評価されていると意識するようになるからだ。加えて、家族や知人から「この前、あなたが勤めている会社をテレビで見たよ」「雑誌を読んでいたら、おまえの会社が出てきて驚いた」といった話を聞けば、愛社精神も高まるはずだ。

もう1つ、採用活動にもつながる。テレビや新聞、雑誌などを通じて社名を学生に知ってもらうことができる。また、学生の親にも「メディアに出ている企業であれば、就職先として問題ないだろう」という安心感を与えられる。

知名度の高い企業と組む

では、中小企業はどうやれば、メディアに取り上げてもらえるのか——。

石川県を中心に35店舗を持つカレー専門店「カレーのチャンピオン」を展開する株式会社チャンピオンカレー(石川県野々市市)は、広報担当者を1人、営業との兼任で置いている。もともとは営業専任だったが、個人的に情報発信に興味と能力があったため、社長の南恵太氏が抜擢した。

同社のカレーは、濃厚なルウが特徴で、付け合わせはキャベツの千切り。ステンレス製の皿に盛りつけられていて、先割れスプーンかフォークで食べる。「金沢カレー」として知られており、このレシピと提供方法の原形をチャンピオンカレー創業者の田中吉和氏が作ったことから、「元祖」として多くのファンを抱えている。

チャンピオンカレーを代表するメニュー「Lカツカレー」
チャンピオンカレーを代表するメニュー「Lカツカレー」。カレーライスと豚カツ定食を組み合わせたのが始まりだ

広報担当者は情報発信について、「知名度のある企業や商品とのコラボレーションが手法の1つ。お付き合いのある企業と面白い企画ができないかを常に考えている」と明かす。新商品やイベントなど企画段階からメディア露出を想定しているというわけだ。

例えば、牛モツ加工食品「こてっちゃん」を扱う上場企業のエスフーズ株式会社とコラボレーションした「こてっちゃんカレー」を期間限定で一部の店舗で発売した。こてっちゃんコク味噌味をルウで一緒に煮込んでおり、さらに炒めたこてっちゃんをトッピングした一品だ。

こてっちゃんはブランドの知名度に加え、エスフーズの情報発信力も期待できた。この結果、テレビや新聞、雑誌など、さまざまなメディアで取り上げられた。

「こてっちゃんカレー」開発のきっかけは、実はチャンピオンカレーの広報担当者が運営するSNS(交流サイト)の「Twitter(ツイッター)」だった。こてっちゃん公式Twitterアカウントの担当者が、チャンピオンカレーのアカウントにこてっちゃんをトッピングしたカレーを投稿。これが話題となって、消費者から商品化を望む声が上がった。以前から両社はTwitterで交流していたこともあり、商品化に向けて動き出したという。

「カレーのチャンピオン」店舗の外観
「カレーのチャンピオン」は、直営店と加盟店合わせて、全国で約35店舗を展開している

チャンピオンカレーでは、Twitterで新商品の案内やプレゼント企画の実施など、消費者への情報提供も力を入れている。ただ、SNSでは消費者の関心を集めようとして社会通念に照らし合わせると行き過ぎた表現をしてしまい、一部から批判を浴びるケースもある。しかし、南氏は一部の表現について約束事を決めてあるのみで、「投稿内容について、事前チェックはしていない。広報担当者が楽しみながら自由にSNSで発信している様子が消費者に伝われば、企業の魅力になると考えている」と話す。

メディアとの関係作りにも積極的だ。新商品発売やイベント実施では、必ずプレスリリースを作成して送っている。また、メールや携帯電話はもちろん、SNSなどあらゆる手段で、テレビや新聞、雑誌などの記者や編集者とつながるようにし、連絡があればすぐに対応している。常にコミュニケーションを取っていれば、メディア側も企画立案の際に「チャンピオンカレーであんな新商品があったな」とか「もしかしたら関係のありそうなイベントを考えているかもしれない」とか思い出すようになり、取り上げられる可能性が高まってくる。

業界関係者の関心を集める

BtoB企業でも、情報発信は大きな武器となる。代表的な事例が、ショッピングセンター向けシステム開発を手がける株式会社リゾーム(岡山市)だ。顧客分析システムやデベロッパーマネジメントシステム、ショッピングセンター・テナントの出退店や商圏といったデータベース、グループウエアなどを扱っている。

このため、同社は全国のショッピングセンターの動向や、勢いがあるテナントといった情報を把握している。「この情報を、業界関係者に有効活用してもらいたい」と考え、業界・専門家向けの情報発信サイトを2017年12月に立ち上げた。

サイト名は、ショッピングセンター(Shopping Center)の頭文字を取り、「SCトレンド研究所」( https://sc-trend.jp/ )とした。主なコンテンツは、四半期ごとにショッピングセンターのテナント出退店を業種別に動向を解説するほか、業界内の著名人による国内外の最新事情や対談などを掲載している。

リゾーム自体のシステムやサービスの紹介はバナー広告になっており、一見すると、リゾームが運営するウェブサイトとは気づかない。もちろん、運営母体に興味を持つ人であればすぐに調べられる。あくまでコンテンツだけを読みたい人向けに宣伝色を抑えるように配慮してあるのだ。こうすることで、コンテンツだけを読みたい人と、コンテンツの裏側の深いデータや運営母体であるリゾームに興味を抱く人の両方を満足させている。

リゾームが運営する情報サイト「SCトレンド研究所」
リゾームが運営する情報サイト「SCトレンド研究所」。SCトレンド研究所所長の金藤純子氏は「ショッピングセンターや百貨店の出退店を時系列に見ることで、変化の兆しをつかめる」と話す

コンテンツ制作は、リゾーム専務でSCトレンド研究所所長を務める金藤純子氏をトップに計3人が担当、顧問としてコンサルタントやデベロッパー社長経験者、大学教授といった識者が協力している。

閲覧は無料だが、会員登録が必要だ。「SCトレンド研究所」を通じて、ショッピングセンターを運営するデベロッパー、出店するテナント、内装・設計や警備など、または、ショッピングセンター事業への投資家など、ショッピングセンター事業に関わっている、あるいは関心を持っている潜在顧客を掘り起こすことができる。ショッピングセンターとはまったく関係のなかった業界の人が登録すれば、そこに新しいビジネスチャンスが生まれる可能性もある。

それだけでなく、「SCトレンド研究所」で取り上げたデータは、メディアにも注目されるようになった。大手経済紙が「共同調査」と称して一面に記事を掲載したこともあった。金藤氏は、中国地方の大手地方紙に連載を持ったり、業界のセミナーやイベントで登壇する機会が大幅に増えたりしている。大学などの研究機関に呼ばれることもある。「SCトレンド研究所の取り組みが取引先で話題になって、リゾームの製品にも興味を示してもらえるなど、プラスの効果が出始めている」と金藤氏は話す。

自社の製品・サービスを直接売り込むのではなく、業界関係者が興味を持つ情報発信を通じて取引先やメディアに知ってもらうというわけだ。

定期的に発信し続けることが大事

情報発信で最も大事なことは、メディア側と定期的にコミュニケーションを取っておくことだ。記事にしてほしいときにだけアプローチするのではなく、定期的に情報交換したり、工場や会社の見学を受け入れたりすることで、普段から関係を築いておく。そのために、できれば担当者を置いておきたい。

これまでメディアとの関わりがないのであれば、まずは本社がある地域の地方紙や地元テレビ局から始めてみよう。地域ごとや業界ごとに窓口があるはずだ。勉強会や交流会で挨拶をした後でもよいし、知り合いの経営者などに紹介してもらった後でもよい。そのような機会に自分から「一度お話ししませんか?」「工場を見に来てください」とアプローチする。もちろん、メディアの窓口に資料を届けたり、挨拶に出向いたりしてもよい。テレビ局や出版社であれば、自社が取り上げられそうな番組名や連載名などを明記して送ることで、担当者に届く確率が高まる。新聞社であれば、自社がある地域を取材地域にしている支局宛てに送るのが近道だ。企業や商品・サービスの具体的な魅力を伝えることから、中小企業の情報発信は始まる。

企業データ

企業名
株式会社チャンピオンカレー
Webサイト
従業員数
23人
代表者
南 恵太
所在地
石川県野々市市高橋町20-17
創業年
1961年

企業データ

企業名
株式会社リゾーム
Webサイト
従業員数
70人
代表者
中山 博光
所在地
岡山県岡山市北区大内田675 テレポート岡山5F
創業年
1991年