事例で見る課題解決の勘所
従業員の「空き時間」をなくしていく
成功のポイント
- 作業配分を見直して、作業時間を均等化する
- 省力化を進めて、価値を生む作業に注力する
- 作業時間の「見える化」でムダを探し出す
国内は人口減少が進むため、市場規模は縮小し、採用活動も厳しくなっていく。その中で利益を確保していくには、1人当たりの生産性を高めていくしかない。
そのためには、同じ作業をより速く、より少ない人数でこなす仕組みを作っていく必要がある。まずは、現場の一人ひとりがどのような動きをしているのか、確認してみよう。何もしていない時間はないか、その作業は本当に必要なのか——。こうして見つかったムダをなくしていくだけで、生産性は大幅に改善する。
在庫とライン人数を削減
「天使のはね」ブランドで知られるランドセルメーカーの株式会社セイバン(兵庫県たつの市)。購買層は小学校1年生がいる家庭とあって、少子化の波が直撃する業態だ。2010年に4代目社長に就任した泉貴章氏は将来に危機感を覚え、工場の生産性向上に着手した。職人の熟練技を生かしつつ、非効率な作業をなくそうと考えた。
まず手を着けたのは、仕掛品の削減だ。例えば、5つの工程を5人で担当していた背中のクッション部分から蓋部分にかけての部品を加工するラインだ。
このラインでは、工程間に配置した3カ所のテーブルに大量の仕掛品が積み上がっていた。原因は明らかだ。現場の従業員は「手を動かしていないと、さぼっているように思われる」と、後工程の処理スピードを考えずに、自分に与えられた作業をこなしていた。結果として、仕掛品がたまっていた。
そこで、セイバンでは、まず仕掛品を積んでいた3つのテーブルを取り払った。こうすれば、前工程の担当者は後工程が受け取ってくれるまで次の作業に着手できないため、自然と仕掛品が減る。
次に、各工程の作業時間を計った。それまでは5つの工程をそれぞれの担当者がこなしていた。すると、20秒で終わる工程と40秒ほどかかる工程が混在していることが分かった。この差をなくすために、工程に割り当てる作業内容を見直した。工程を3つに集約し、担当者も3人に削減。各工程の作業時間がほぼ均等になった。この改善により、このラインの仕掛品が積み上がることはなくなった。なお、このラインで不要になった2人は、ほかの作業に移っているので、解雇は一切していない。ほかの生産性改善活動でも同様だ。人が足りていない作業に移すほか、自主都合による退職などによる自然減で追加採用をしないのみだ。
このように仕掛品が滞留するラインは、工場の至る所にあった。そのようなラインでも仕掛品を積むテーブルをなくし、工程ごとの作業配分を見直した。その結果約3億円あった製品在庫を1億円ほどに削減できた。
また、テーブルをなくしたことで、作業効率も高まった。というのも、仕掛品を積み上げたり探し出したりするのにも時間が取られていた。さらに、工程間の距離を近づけることができたので、従業員の移動距離や材料の運搬距離が短くなった。その結果、機動的な生産と出荷を実現し、さらに在庫を減らすことができた。こうして、少ない在庫で、従来通りの製品アイテム数や生産量を出荷する体制を築いた。
セイバンでは、これまでに積み上げた生産性向上のノウハウをつぎ込んだ新工場建設のプロジェクトを進めている。「複数の工場を集約する計画でさらなる生産性改善を進める」(泉氏)考えだ。
品質を高めることに注力する
福井県の芦原温泉にある旅館「グランディア芳泉」を運営する株式会社グランディア芳泉(福井県あわら市)の専務である山口賢司氏は、「人口が減っているのだから、将来、“客不足の時代”が来る。そのときに、お客様に選ばれる旅館になっていないと生き残れない」と考えている。
山口氏は「接客時間を増やす」「出来たての料理を出す」「個別に対応する」という3つを「品質」と位置付け、これらの充実に力を注いでいる。
具体的には、現場の業務を「仕事」と「作業」という観点で見直した。「仕事」は品質に直結している業務であり、顧客満足度を高めて、売り上げや利益に貢献する。「作業」は、付加価値を生まない業務だ。それにも2種類ある。1つは、皿を洗うとか、宴会場の看板を書くとか、必ずやらなくてはいけないもの。もう1つは、これまでの慣習で続けていて効果が見えないものだ。
必ずやらなければいけない「作業」は、省力化を進めている。宴会場の看板は、これまで手書きしていた。それだけでも時間が取られるが、さらに問題なのは書き間違いだ。会の名称が正しくなかったり、会社名が抜けていたり……。これを修正するのに1枚15分ほどかかっていた。そこで、山口氏はデジタルサイネージを導入した。これで間違いが見つかっても、パソコンで即時に修正できるようになった。「一番高いのは人件費だと考えている。だから、機械への投資は惜しまない」と山口氏は話す。
効果が見えない「作業」の一例として、30年にもわたって続けていた予約客への確認電話があった。予約担当者が3日前に電話で予約客に人数や食事などの宿泊条件を最終確認していたのだが、これで1人当たり1日3時間ほど取られていた。これを山口氏は止めさせた。最初は「予約客がいらっしゃらなかったらどうするんですか」と反対する意見もあった。それに対し、山口氏は「とりあえず1週間だけやってほしい。問題があったら、元に戻せばいい」と説得した。実際には、予約確認電話をやめても、何も起きなかった。「プライベートにせよ、ビジネスにせよ、旅行を忘れる人は、まずいませんから」(山口氏)。
グランディア芳泉では、従業員が1日をどう過ごしているのか、15分単位で業務を書き出させた。すると、「10時間労働で忙しい」と言っていた従業員でも、仕事に携わっているのは6~7時間である実態が明らかになった。
このように「作業」を省力化したり廃止したりして、余った時間は「仕事」に回すようにした。例えば、お膳を並べたり小鉢を置いたりする宴会準備は、それまでは客室担当がしていたが、施設管理担当者が空いていることが分かった。そこで、宴会準備は施設管理担当者の業務とし、客室担当はロビーでの出迎えや客室までの案内という接客に集中できるようにした。ほかにも、フロント担当もチェックインやチェックアウトが少ない時間帯でも、同じ人数を配置していた。そこで、フロント担当の一部がレストランを手伝うようにし、出来たての料理を提供できる体制に向けて強化を図った。
「お客様が集中するところに、手厚く従業員を配置する」(山口氏)ことで、顧客満足度と生産性を高めている。
現場は自分のムダに気づきにくい
現場では「当たり前」と思って、日々の作業をこなしている。このため、ムダにはなかなか気づきにくい。また、自分の業務をムダと指摘されることを、不満に思う従業員も出てきかねない。あくまでも作業が不要であり、従業員は必要な存在であることをしっかりと伝えておく。
生産性向上で大事な点は、一人ひとりの作業を「見える化」することだ。そして、本当に必要な業務なのか、空き時間が生じていないかなどを検証していく。この際、生産性向上に詳しいコンサルタントの力を借りるなどして、これまでの考え方にとらわれないようにすることも必要だろう。
企業データ
- 企業名
- 株式会社セイバン
- Webサイト
- 従業員数
- 単体278人、グループ323人
- 代表者
- 泉 貴章
- 所在地
- 兵庫県たつの市揖保川町山津屋140-14
- 創業年
- 1919年
企業データ
- 企業名
- 株式会社グランディア芳泉
- 設立
- 1963年
- 従業員数
- 119人(パート従業員を含む)
- 代表者
- 山口 透、山口賢司
- 所在地
- 福井県あわら市舟津43-26