意外と知らない契約書の基本(3) 「契約書」「合意書」「覚書」
2009年5月28日
- 解説者
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弁護士 持田光則
1.「契約書」「合意書」「覚書」の使われ方
会社を経営していると、取引先等との間で「契約書」、「合意書」、「覚書」といった文書を取り交わします。文書の表題としては「○○契約書」「○○に関する合意書」というように文書の内容を表題に取り込んでいる場合もあると思います。
皆さんは、これらの文書を、どのように使い分けているでしょうか。私の相談者の話を聞いていると、意識せずに使っている方も多いようです。
先に掲げた「契約書」「合意書」「覚書」といった文書は、取引先などとの間で、お互いに合意・確認した内容を記載し、連名で作成されているという点では共通しています。そして「契約書」であれば、これから実行しようとする取引について、商品の引渡し時期や売買代金の金額、約束が守られないときの違約金などの取引条件を明確にすることを主な目的として作成されます。
「合意書」であれば、当事者間で合意した内容を明らかにする目的で作成される文書といえます。契約時に決まっていなかった取引条件を合意する場合や、契約当時に想定できなかった事態に対処するために処理方法を合意した場合、契約外の関係でも不法行為などにより損害を受けて相手方に責任を認めさせて賠償額を合意した場合などに作成されます。これから取引をしようという場合に限定されない点で「契約書」の場合より広い使われ方をしています。
「覚書」は、言葉としては単独で作成される備忘のためのメモ書きの意味もあるようですが、会社と取引先等との間で取り交わす場合には、事実認識や契約条項の解釈で不明確な事項がある場合などトラブルになりそうな事項について、その時点における共通認識を確認しておく場合などに利用されます。
2.文書の表題をつける意味
文書に表題をつけておくと、これを見るだけでどのような種類の文書であるか判別でき、受け取った相手も扱いやすく、分類管理にも役立ちます。逆に、表題のない文書は、その中味に目を通さないと判別できないため、文書の管理や他の文書で引用する場合に困ることがあります。
例えば、私の仕事では証拠として文書を提出する場合に、表題がついていれば「甲第○号証 契約書」というように引用することができます。しかし、表題のついていない文書は、その内容を読んで理解した文書の種類や作成年月日、文書の作成者で特定するなどして引用しなければならないので、手間がかかります。文書の表題は、文書の内容を端的に表しているから、分類管理や引用する際に便利なのです。
3.文書につけた表題で中身に影響があるか?
では、文書につけた表題により、その後の文書の取り扱いに影響があるでしょうか。
文書には、2つの機能があると思います。ひとつは、お互いの合意事項などについて行き違いを無くしてトラブルを防止する機能。もうひとつは、トラブルになった場合に、合意していた内容を証明するという機能です。
前者の場合、文書の表題が行き違いを生じさせるというケースは、あまり想定できません。また、行き違いが明らかとなった時点で、再度、話し合って解決できるので、表題が合意の中身を変えてしまうような影響を及ぼす事態にはならないと思われます。
後者の場合、文書の表題の付け方により影響を受ける可能性があるのは、文書の記載内容が曖昧で、異なる意味に解釈される可能性がある場合です。
裁判になったときの証拠としては、文書の本文の記載から読み取れる合意内容が重要であることはいうまでもありません。このため文書の本文の記載が正確な意味内容を表していれば、表題がどうであれ、証拠としての価値に影響することは、ほとんどありません。
文書の記載内容が曖昧で、異なる意味に解釈できる余地がある場合、裁判では、その文書が取り交わされた経緯など関連する事情から、当時の合意内容を認定していきます。その際、文書の表題により、取引開始のために取り交わしたと推測される「契約書」なのか、その後の事情で合意された「合意書」なのか、後でトラブルになりそうな状況があったために取り交わした「覚書」なのかで、当時の経緯を推測する材料になります。
これは先に説明したように、文書の表題が文書の中身を端的に表現しているからです。その結果、文書の解釈に影響の生じる可能性があります。
これだけの説明だと、ピンとこないかもしれません。例えば、契約の担当者が会社を辞めていたり、先代の社長が取り交わした文書で、すでに先代社長が亡くなっている場合を想像してください。そして、相手方が文書の記載が曖昧な表現であることをいいことに、都合の良い解釈を主張してきたとします。これを否定するには、文書の取り交わされた経緯で当時の合意内容を説明しなければなりません。このとき文書の表題が役に立つかも知れないということです。
今回、解説した文書の取り扱いに関してポイントをまとめると以下になります。
- 文書の表題は、文書の管理のためだけでなく、文書の中身に影響する場合もある。文書の表題は文書の中身を端的に表現できるものを選び、違和感のある表題は避けること。
- 文書を取り交わした事情を良く知っている人だけが、文書を扱うわけではないので、留意すること。
(2009年4月執筆)
プロフィール
持田光則
弁護士登録年・弁護士会: 2002年・東京弁護士会所属
生年:1972年生
学歴:1991年都立昭和高校卒業、1996年専修大学法学部卒業
得意分野等:不動産トラブル、債権回収、交通事故、医療過誤、離婚、相続、倒産処理など一般民事事件を幅広く扱う。実家が青梅市にあり生梅や梅干の生産をしていることから農業経営にも興味を持ち、若手農業経営者への支援にも取り組んでいる。
所属事務所:立川北法律事務所(東京都立川市)